クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー女の涙

2014-09-12 16:05:26 | 物語

春子のその後の展開は、聞かなくてもだいたい想像がつく。

その店は、ヤクザか愚連隊のアジトだったのだろう。

対応した支配人かなんかが、春子の身の上話を聞いて、《この女は遊郭で使える》と思ったのだ。

そして、手篭めにされた上に、身ぐるみ剥がされて「菊」に売り飛ばされた・・・・・。

ひょっとすると、ヤクを打たれているかもしれない。

まあ、そんなところだろう。

哀れな女だ。

 

 

「ところで、あんたの名前はなんて言うんだい?」

春子が耕一の胸の辺りを撫でながら言った。

「耕一・・・て云うんだ。親の顔も知らない孤児(みなしご)さ」

「・・・・・・・・・」

「戦争でみんな人生が変わってしまった。世の中も変わった。これからは強い者が生き残って行く。いや、強くならなければ生きていけない・・・・・」

耕一はタバコを吸いながら、自分に言い聞かせるようにそう言った。

耕一は17歳ではあったが、人並み以上の苦労を重ねて生きてきた男だ。その物言いは、かなり大人びていた。

「あんたは、横浜へ来て、人に騙されて、ひどい目にあったんだろうけど、世間は鬼ばかりじゃないよ。仏もいるよ。人生、諦めたらだめだよ。絶対、諦めたらだめだ」

と、耕一が語気を強めてそう言うと、春子がうつ伏せて泣き始めた。枕を抱えて、声を上げて泣きじゃくった。

 

耕一は起き上がって、カーテンを引き窓を開けてみた。

顔に冷たい風が当たった。

雪はまだ降り続いていた。

朝になれば、外の景色は一変しているだろう。

世の中の全ての汚れを覆い隠して、真っ白な銀世界になっているはずだ。

 

 

 遊郭の章は今回で終了です。

 

 

 

コメント (4)
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