クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ークリスマスの夜

2014-09-04 19:52:52 | 物語

クリスマスの夜の真金町は、普段より華やいで見えた。

お酒を飲んで浮かれて歩いている米兵が所々にいた。

肩を組んで、大声でクリスマスソングを唄っている陽気な米兵達もいた。

彼らはきっと、遠く離れた故国に住む家族のことを思い出して、そんな歌を唄っているのだろう。

酔っ払って、仲間と歌でも唄っていなければ、異国の地のクリスマスの夜など過ごせないのであろう。

耕一はそんな思いにとらわれながら、アカネに向かった。

彼の両手には、大きなバッグが二つぶら下げられていた。中には船から持ってきた食糧品がたくさん入っている。

 

 

 

「ただいま!」

耕一は、アカネの店のドアを開けると、元気よく声をかけて中に入った。

「あら、耕ちゃんお帰り! まあまあ、さぞかし疲れたことだろうねぇ」

おかみさんの懐かしい声が返ってきた。

「耕ちゃんお帰り! さあさあこっちへ座って。今コーヒーを入れるわね」

長女のアカネが明るく声をかけた。

30席ほどの店内は8割方ふさがっており、アカネも愛嬌をふりまいて母の手伝いをしていた。

耕一はバッグを両手に持って、奥のカウンターの中で忙しそうにしているおかみさんのところへ行った。

「おかみさん、これお土産です」

耕一がそう言ってバッグを床に置くと、

「まあ、いつも済まないねぇ。本当に助かるよ。うちも育ち盛りがあと二人いるからねぇ。ところで年越しは家(うち)でするんだろう。遠慮することはないよ。自分の家だと思ってゆっくりしなよ」

おかみさんは、温かい言葉でそう言ってくれた。

「おかみさん、いつもお世話になります。宜しくお願いします」

耕一にとって、そこはとても気持ちの休まるところだった。

面倒見の良いおかみさんは、耕一にとってなんでも相談できるお母さんのような存在だった。

 

テーブル席に座ると、アカネが自家製クッキーとコーヒーを持ってきた。

「耕ちゃん、気仙沼はどうだったの? 楽しかった?」

ウインクしながら、アカネが言った。

「うん、まあ・・・・」

耕一は顔を赤くしながら、もじもじとそんな返事をした。

アカネは、明子のことを何となく知っているらしい。

そういえば、以前、おかみさんにポロッともらしたことがあった。

酔っ払っていい気持ちになった時に、気仙沼の思い出話の中で明子のことを言ったらしい。

「ところで、アカネさんの彼氏は元気でやっているんですか?」

耕一は、話題を変えるようにそう言った。

「あら、ボブのことね。彼ったらね、とても優しいのよ。昨日はクリスマスイブだったでしょう。クリスマスプレゼントって言って、素敵なプレゼントを私にくれたの」

「へぇ、そうなんだ・・・・。何をくれたの?」

「それは、ナ・イ・ショ」

耕一の耳元でそう囁くと、甘い香水の香りを残して、カウンターに戻って行った。

 

 

 耕一の若い身体の奥がまた妖しくうずいてきた。

 

 

続く・・・・・・

 

コメント (2)
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