クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー愛友丸検挙

2014-09-26 13:39:32 | 物語

耕一の遊郭生活が三週間程経った頃だった。

昼過ぎに起きた耕一は、いつものように春子が用意してくれた熱いお茶を飲みながら、「横浜かわら版」(コミュニティ紙)を読み始めた。

一面を開いた耕一の目は、その紙面に釘付けになった。

「愛友丸闇物資輸送容疑発覚!」

「船長他乗組員全員逮捕」

そんな文字が目に飛び込んできたのだ。

追浜沖で夜中に積荷を降ろしている時に、船に突然検査官が乗り込んで行ったらしい。

愛友丸の数年に亘る大量の闇物資輸送・不正取引は、かなりの重罪が課せられる見込みと書かれていた。

 

《ついに捕まってしまったか・・・・・》

耕一は、愛友丸の仲間の顔を思い浮かべた。

船長も機関長も、欲に目が眩んで冷静な判断が出来なくなっていたのであろう。

彼らに対する憐れみの念が湧いてきたが、しかし、それよりも「自分は難を逃れることができた」という安堵感が全身を包んだ。

それまでの張り詰めていた気持ちが、いっぺんに消えて行った。

《あの時、船から逃げていて良かった。本当に良かった!》

と、何度も思った。

  

《これで俺はもう、逃げ隠れする必要はない。これから俺はまた新しい人生を開いて行くんだ》

晴れ晴れとした気持ちになった耕一は、じっとしていることができず、靴を履いて外に出た。

外に出た耕一の足は、伊勢佐木町に向かっていた。

 

 

久しぶりにザキ(伊勢佐木町の愛称)の通りを歩いた。

横浜オデヲン座の前に人だかりがしている。

アメリカの新しい映画が封切られるのだろう。

耕一は急に美味しいコーヒーが飲みたくなった。

最近、マロンという喫茶店のコーヒーが評判だ。

マロンに入って行くと、暗めの照明の中のソファーに、数組のアベック(最近はカップルという)

が座っていた。

オデヲン座で映画を観て、マロンでコーヒーを飲むというのが、ザキに来た若者のデートコースだったのだ。

耕一は空いていた中程のソファーに腰を下ろして、若い女給にコーヒーを注文した。

ポケットからヨウモク(外国のタバコ)を取り出し、火を付けてコーヒーが来るのを待っていると、

三人連れの、いかにもチンピラという風袋の男達が入ってきた。

 

 

《嫌な連中が来たな・・・・》

タバコの煙をゆっくりと吐きながら、耕一は三人のチンピラの動きを眺めていた。

 

 

続く・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (2)
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