クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー遊郭生活

2014-09-25 15:00:04 | 物語

春子が持ってきた一ヶ月分の前払い金を見た女将は驚いた。

今までに、一週間程度の前払い金を支払って逗留したお客は何人かいたが、一ヶ月分というのは初めてであった。

「あの若い男は一体何者なんだい?」

女将は小声で春子に尋ねた。

「詳しくは知らないんだけど、外洋の船乗りさんのようね。船に乗るのに飽きたから、しばらくここでのんびりしたいらしいの」

春子は、機転を利かして、そんな風に説明した。

「へぇーそうかい。しかしこんな上客はめったにいるもんじゃないよ。春ちゃん、精々大事にしてあげなよ」

 

 

 

こうして耕一の遊郭生活での生活が始まった。

日中は春子の部屋でゴロゴロとして過ごし、夕方になると野毛や中華街あるいは元町辺りをぶらついた。

横浜の街はどこへ行っても賑やかで活気に満ちていた。

耕一は、中でも元町商店街の店を見て回るのが好きだった。

元町の商店街には洋服屋(テーラー)や家具屋、陶器屋、金物屋、雑貨屋そして洋菓子屋やパン屋など様々な店が軒を並べていたが、いずれの店も高品質で洒落た商品を扱っていた。

この元町という所は、その裏手が山手という高台になっており、明治の横浜開港以来、その眺めの良い高台に外国人(西洋人)が住み始めた場所だ。

その外国人居住者達に品物を買ってもらうために、元町商店街の店主達は、流行の先端を行く、彼らの好みに合う良質な商品を揃えた。

そんな横浜元町には、東京からもお金持ちが買い物に来ていたという。

戦前からそんな歴史を持つ元町には、戦後は横浜に住む進駐軍の家族達が買い物に来て賑わっていた。

そんな雰囲気の元町を、耕一は時々ブラブラと歩いた。

 

 

天気に良い日は、時々山下公園へ行って海を眺めた。

公園のベンチに腰掛け、潮の香りの春風の中で、のんびりと夜の海を眺めた。

遠くで数隻の貨物船が停泊していた。

《愛友丸は今どこにいるのだろうか・・・・。松さん達は無事だろうか・・・・》

耕一はタバコを吸いながら、ぼんやりとそんな事を思っていた。

 

横浜のそんな夜の街を一回りして、耕一は春子の所へ帰った。

春子は、遅めの夕食を用意して耕一を待っていた。

春子の作る家庭料理は美味しかった。

横に座った春子のお酌で酒を飲みながら、耕一は見てきた横浜の街の様子など話した。

酒が回ってくると、昔話をした。

楽しい話をしようと思ったが、いつも切ない話になった。

切ない話をしながら、耕一は毎晩酒に酔った。

 

やがて耕一は、春子の温かい胸の中で気持ち良さそうに眠っていた。

その春子のぬくもりは、母親のぬくもりのようでもあった。

 

続く・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (4)
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