チンピラ風の三人は、耕一が座っているテーブルの直ぐ横のソファーに腰を下ろした。
その中の一人がジッと耕一の顔を見ている。
《インネンをつけてくる気か・・・》
耕一がそう思った時、
「そこの兄さん、どっかで見た顔だな」
その男が言った。
耕一は男の方に顔を向けた。しかし、耕一にはその男の顔に見覚えが無い。
「そうですか。どこでお会いしたんでしょうかね・・・」
耕一は取り合えずそんな返事をした。
「ああ、そうだ・・・。思い出した。半年ほど前に、根岸屋で松兄ィと一緒にメシを食っていた船乗りじゃないか」
男はそう言った。
そう言えば、あの時、兄分格の春樹さんが二人の手下を連れていた。その時の一人かも知れない。
《まずい奴に会ってしまったな・・・・》
耕一がそう思っていると、
「だけど、なんであんたはこんな所にいるんだい? あんた達が乗っていた船はとっ捕まっちゃったんだろう。みんな逮捕されたって言うじゃないか」
男がそう言った。
耕一は、コーヒーを一口飲んでから口を開いた。
「実はですね、1ヶ月前にクビになったんですよ。どうも働きが良くなかったようで・・・」
「へぇーー、そうだったのかい。それにしても、あんたは運の良い男だな」
「はい。ラッキーでした。ところで、春樹さんは達者ですか」
「春樹兄ィかい。ああ、達者でやっているぜ。兄ィは稲川会の親分に引っ張られて静岡へ行っちまったよ。いずれは稲川会の幹部になるって話だ。羨ましい話だぜ」
「へぇーー、そうだったんですか」
「ところで、あんたは今何をやってんだい?」
耕一はまたコーヒーを一口飲んでから口を開いた。
「新しい仕事を探しているところです」
「ふーん。しかし、あんたはなかなかハンサムだから、どっかで使ってもらえるかもしれないな。そういえば、俺の舎弟が人を探していたな・・・」
「そうなんですか。それはどんな仕事なんですか?」
その男が意外に愛想の良い話し方をするので、耕一はつい釣られて聞いてしまった。
「渋川組のシマの店の仕事らしいよ。カタギでもできる店番らしいぜ」
《渋川組と言えば、最近、京浜地域で勢力を延ばしている組だ。親分はなかなかのやり手との噂だ。ちょっと覗いてみるのも面白いかもしれないな・・・・》
天涯孤独のこの男に、失うものは何も無い。好奇心の虫が騒いだ。
「俺のような男でも出来るんですか?」
「たぶん雇ってくれると思うよ。明日にでも舎弟に聞いてみよう」
続く・・・・・・・・・。