「熊や狼に出会わなければよいがなぁ」ダリューンも続けた。上手く連中がカーラーン陣営に戻ってくれないと何か都合が悪いらしい。「殿下、何を御考えで?」棋盤を前に沈んだ顔の王子にナルサスは問うた。「王都はまだ無事だろうか?」すぐ向かうつもりだったアルスラーン。「抑えて下さい。今すぐ山を降りれば、カーラーンとの戦いは避けられません。洞窟に隠り、やり過ごします。その間に敵の包囲網を逆用する道を考えましょう」「どのように?」「自分達の望む場所に敵の兵力を集中させる」棋盤で王子の駒を取るナルサス。
「それがまず戦法というものの第一歩です」頷くアルスラーン。「武勇があろうとも、それを使い切る前に勝利を収めることが戦法の価値です」「ダリューンは私の為に大軍の中を突破してくれたが」「あれは個人の勇です。ダリューンの様な勇者は千人に一人」千人どころじゃないダリューンは自分の話題になり寄ってきた。指揮者は最弱の兵を基準として勝たなくてならないと説くナルサス。「ましてや一国の王ともなれば最も無能な指揮者でも敵軍に負けぬよう方策を巡らすべきなのです」すぐ側にダリューン(現役軍人)は腰を下ろした。「なんだ?」軽く威嚇するナルサス(現役画家)。「いいや、続けてくれ」ダリューンはいなした。
「兵の強さに溺れて戦法を軽んじた時、一度事態が狂えばどうなるか? 殿下御自身がアトロパテネで御経験なさったことでしょう」 凄惨な記憶が甦る王子。「アンドラゴラス王は敗北を知らぬ御方でした。その自負が、政治に無関心な王を産み出してしまったのです。あなたがそのような意味において、御父上の後継者足らんと思われるのであれば私はいつでも宮廷画家の地位を捨てますぞ? アルスラーン殿下」「肝に銘じておく」満足げに王子を見詰め、ナルサスはダリューンに向き直った。
3に続く
「それがまず戦法というものの第一歩です」頷くアルスラーン。「武勇があろうとも、それを使い切る前に勝利を収めることが戦法の価値です」「ダリューンは私の為に大軍の中を突破してくれたが」「あれは個人の勇です。ダリューンの様な勇者は千人に一人」千人どころじゃないダリューンは自分の話題になり寄ってきた。指揮者は最弱の兵を基準として勝たなくてならないと説くナルサス。「ましてや一国の王ともなれば最も無能な指揮者でも敵軍に負けぬよう方策を巡らすべきなのです」すぐ側にダリューン(現役軍人)は腰を下ろした。「なんだ?」軽く威嚇するナルサス(現役画家)。「いいや、続けてくれ」ダリューンはいなした。
「兵の強さに溺れて戦法を軽んじた時、一度事態が狂えばどうなるか? 殿下御自身がアトロパテネで御経験なさったことでしょう」 凄惨な記憶が甦る王子。「アンドラゴラス王は敗北を知らぬ御方でした。その自負が、政治に無関心な王を産み出してしまったのです。あなたがそのような意味において、御父上の後継者足らんと思われるのであれば私はいつでも宮廷画家の地位を捨てますぞ? アルスラーン殿下」「肝に銘じておく」満足げに王子を見詰め、ナルサスはダリューンに向き直った。
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