ブログ「シジフォス」さんからの転載です。
今、日本中で偽装請負が蔓延しています。偽装請負の最大の問題は<労働者性の否定、つまり団結権の否定>です。みんなでまとまって、たたかうことができないということです。
しっかり考えていきたいと思います。
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シルバー人材センター会員も労働者
少し前の報道だったが、詳細が知りたくて、ひょうごユニオンに無理にお願いして判決文を送付してもらった。感謝!
この間、何度かシルバー人材センターについての問題点を記述してきたが、先日「ユニオンと労働アーカイブ」に載ったニュースには…? それぞれの業種のエキスパートがいる都労委労働者委員の打ち合わせで、これに似た話を知っているか尋ねたが、労連系のメンバーも含めて…? シルバー会員が「労働者」かについてはきちんと労働者認定がありつつも、未だ議論があるが、この事件は、定年退職後、シルバー人材センターの会員として同じ企業に雇用され、そこで労災を受けたが、認定されず、裁判で「労働者」と認められた、との話。いや、調べると「底」が深かった。とりあえず、読売新聞と共同通信のニュースを統合して紹介(両方の記事を併せた)。
> 「シルバー人材は労働者」、指切断66歳の労災認定…神戸地裁判決
シルバー人材センターに登録し、兵庫県加西市の金属加工会社の工場で作業中、手の指を切断した元センター会員の男性(66)が国を相手に労災認定を求めた訴訟の判決が17日、神戸地裁であった。センター会員が労災保険法上の「労働者」かどうかが争点となり、矢尾和子裁判長は「他の従業員と一体になって働いており、実質は労働者」として労災を認定、療養補償などを不払いとした西脇労働基準監督署の処分を取り消した。原告側弁護士によると、センター会員の就業中の事故で、労災を認めた司法判断は極めて珍しく、就業先と雇用関係のないセンターの登録者を労働者と認める判決は異例で「同じような立場の登録者が事故に遭った場合、労災申請を促す理由になる」と評価している。
判決によると、男性は2004年4月、加西市シルバー人材センターの会員になり、金属加工工場で勤務。05年5月、金型の取り付け作業中、プレス機に挟んで左手の指3本を切断した。国側は「センターの受注業務は委任や請負。会員とは雇用関係になく、労働者には該当しない」と主張。矢尾裁判長は判決理由で、労働者に当たるかどうかは雇用契約がない場合でも個別の勤務実態で判断される、との立場を示した上で、男性のケースについて検討。残業して納期に対応するなど、工場の指揮命令に従って勤務していた、と認めた。
男性はセンターの業務委託で定年退職前と同じ会社の工場に勤務。2005年5月にプレス機に手をはさまれ負傷した。(2010年9月18日)
最大の疑問は、なぜ定年退職後シルバーとして同一企業に働いたか?だった。この事件は、所轄の監督署で不支給とされ、兵庫と中央の不服審査会でも棄却された。この棄却の原因は、実は原告本人にあったと思われる。原告は2000年に自動車部品ゲージなどを製造する30名規模の会社に入社、すぐチーフ的存在となり、2004年に定年となった。社長は本人に対し再雇用を要請したが、「市役所で年収が120万円以内でないと年金が減額になると聞き、また病気がちの実母の面倒を見るための時間の拘束も減らしたいと考えていたところ、会社で事務の仕事をしていたセンターの会員から、センターに登録して仕事をすれば年金額が減額されないという話を聞いたため、再雇用ではなく、センターに登録して会社で仕事をすることとした」(判決文の「裁判所の判断」より) ものである。本人のセンター登録を受け、社長がセンターに求人し、継続してリーダー的に仕事を続けた。センターは「会員登録する際に、会社との間には雇用関係がなくなることを説明し、本人は労働法の保護を受けなくなることを含めて理解しており、自らの選択の結果であり、その不利益は甘受すべき」 と主張している。判決文でも「原告は会社と雇用関係を締結せず、労働法の適用を回避しようとする意図を有し」「年金支給額の減額を避けるために、センターを介し就労したことは、センターの利用方法としては不適切」と指摘している。
しかし、裁判所は「当該罹災者において不適切な側面があるとしても、それが労働者の安全及び衛生の確保等を図るという労災保険法の趣旨、目的に照らして著しく不当である等特段の事情が認められない限り、労災補償を認めることが相当である」と判断した。立派なのは、この間司法が「労働者性」を判断するにあたって、実態よりも「(個人事業主としての請負)契約条項」を優先して判断したのに対し、神戸地裁はきちんと実態から「労働者性」判断を行っている。判決は「労働者性の有無」について、要約だが、以下の通り判断している。
>労働者とは労基法9条で「職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定められており、労働者に該当するか否かについては、使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者からその労務の対償としての報酬が支払われている者として、使用従属関係にあるといえるかを基準として判断すべきであると解される。具体的には、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無や、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているかどうか、労務提供につき代替性の有無等の事情を総合的に考慮して判断されるべきものといえる。
本件は、形式上は原告とセンター、原告と会社の間のいずれにも雇用契約関係は存在しない。しかし、前記の労働者性の判断は、個々の具体的な事情に基づき、労務提供の実態について実質的に検討して行うべきものであるから、委任・請負に基づき仕事を行っていても、原告の労働者性が否定されるものではない。
(以下、上記の有無の事実関係を一つひとつ検討した上で)原告は、結局、センターに登録後も、会社の加工部門において、定年退職前と全く同様の労務に従事して、他の従業員と同じく、専ら会社で就労していた状況であり、会社の指揮命令を受けて労務を提供していたと認められ、原告に対する報酬も実質的には労務の対価として支払われており(センターは時給1000円・時間外1250円に7%の事務費を加算して会社から支払いを受けていた)、原告は会社と使用従属関係に該当すると認められる。
中央の労災保険審査会(不服請求に対する再審査)で棄却された事件が、裁判で覆されることは滅多にない。地方の棄却に対し不服請求の再審査で逆転認容されるのも2割程度しかない中で、画期的な判断ではある。しかし、労基署も審査会も、できれば裁判所と同様の判断をしてもらいたかった。本人の責はあるかもしれない。しかし、シルバー人材センターは、この裁判で「センターは高年齢者雇用安定法に基づき、臨時的かつ短期的な就業又はその他の軽易な業務に係る就業につき、就業の機会を確保し、高年齢者である会員に提供する業務を行うが、法律上明文で、就業については『雇用による者を除く』と規定されており、委任・請負であっても雇用ではない」から「労働者」ではない、との主張はどう考えてもおかしい。センター会員であるから「労働者」ではないとの理屈をふりかざすシルバー人材センターに猛省と改革を促したい。原告が主張しているとおり、「センターは、本件のように長時間かつ長期的で、切断機等を用いる危険作業に従事する業務は予定されておらず、労災補償の対象となるような危険な業務には会員を従事させないことが前提とされているから、センターの会員に対しては労災保険法の適用がない」のであって、本来のセンター業務からどんどん変質しているのだ。
転載「シジフォス」
http://53317837.at.webry.info/201010/article_2.html
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