馬が酔う木と書いてアセビまたはアシビ、毒性のある葉を食べた馬が神経を麻痺され酔ったような状態になったことからついた名前だといいます。
この花の名を知ったのは高校の国語教科書に載っていた「浄瑠璃寺の春」(堀辰雄著)の中でしたが、名前の由来がインパクト強くって忘れることのない花木になりました。
そして、教材となっていた「浄瑠璃寺の春」は、著者堀辰雄氏が早春の奈良をご夫婦で訪れたときの随筆でしたが、何よりも文中に書いてあった浄瑠璃寺(平安時代後期建立)という廃寺に惹かれて、“行ってみたい”という思いになりました。多くの読者が同じ思いを抱いたようです。私がこの思いをかなえられたのは40年以上もたっていました。 わたしが訪れたのは秋でした。庭園の紅葉がすばらしかったこと、阿弥陀堂の九体仏が時の重みを感じさせてくれたこと、強く印象に残っています。季節外れの馬酔木の花はもちろん見られませんでした。静かな山里の古寺でしたが、随筆に書かれていた“廃寺”という言葉とはまったく違っていました。周辺の郷の趣も和やかな落ち着いた風情のあるものでした。
ひとつ大きな思い違いをしていたことがありました。この浄瑠璃寺は京都府木津川市にあるお寺です。本文の終わりに奈良の春日の森まで戻って行ったとあり、この寺は奈良県にあるものと思い込んでいました。マップで調べてみたところ、歩いて2時間かからずに行けるようです。著者は当時(昭和18年頃)歩いて訪れたんでしょうね。
因みに浄瑠璃寺の馬酔木はうっすらと紅味をおびていて、春日の森の馬酔木は白かったとありました。
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繁田信一/著 坂田靖子/絵 定価1,760円(税込)
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