Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

私の72候

2018-09-08 21:13:29 | ~詩でつづる私の七二候~

                                

 

                                    (すいちょうか)          高安ミツ子


 

 

                     

 

                          

     

 

                           夏空の綿雲やイワシ雲が見えなくなる頃

                           酔蝶花は夕闇から夕闇へと

                           手を広げるように咲いています

 

                           酔蝶花は深い闇の伝説を語るように

                           どこからか吹いてくる風のそよぎに

                           微かな香りを混じらせていきます

 

                           すると大分過ぎてしまった時計がまわりだし

                           消えていた私の悲しさや 淋しさの匂いが

                           酔蝶花の傍らに漂い始め

                           あの時の後ろ姿がひとしお蘇ってきます

 

                           故郷を離れた夜の深い哀しみ

                           行き先の不安を感じるような

                           全山を包む漆黒の中

                           無情なほど進むことを拒んだ山霧

                           あの時の峠が迫ってきました

 

                           夜はひっそりと心の波紋を広げていきます

                           今宵の月明かりは

                           ひらりと昼間を飛び越えて

                           ひらりと過去を押しやって

                           夜は静かにたゆたゆと流れています

                           酔蝶花の蜜を吸うように

                           虫たちが飛びかい命をつないでいます

 

                          いくつもの思いを背負った私の心歌は

                          命をつなぐことはできたのでしょうか

                          私の眼の奥で

                          揺れている私の道すがらを

                          酔蝶花は夜のやさしさで包んでいます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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