高安ミツ子
冬の朝日は家並を照らし
太古から続くイチョウを金色にして
大樹の記憶を蘇らせながら昇ってきました
慈しみの光の中で
私の意識は飛び交い
生きる喜びを手繰り寄せようとしています
窓ガラスが温まるころになると
意識のままに体は動いてくれません
体は後姿を見せたまま坂道を降りていきます
意識と体が離れていく気配には
夭折画家が描いたような
激しい哀しさではないけれど
むなしさが線描画になって沈んでゆくのです
過ぎた時間を
いっぱい膨らませて今日の時間を図ろうとすると
紙風船が舞い上がります
ひい ふう みい よお
懐かしさがこぼれてきます
二人だけになった庭に山茶花が咲き
なな やあ ここ とお
おや おや 紙風船が連れてきたのか
翼に白の紋付きを付けた
おしゃれなジョウビタキが庭を歩いては
小枝に停まり
時と風と光に輝いています
子供のころの遊びの終わりはいつも「また明日」でした
ジョウビタキはその「また明日」を連れてきたのです
静かな今日の喜びが私の心をふるわせていきました
やがてイチョウも枝を広げ一日の終わりを知らせています
そして
冬の夕焼けに「また明日」と篆刻してゆきました