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ギュスターブ・ル・ボン「群衆心理」を読む(2/2)

2025年01月19日 | 読書

(承前)

第三章 群衆の指導者とその説得手段

  • 群衆が人間にせよ動物にせよ、ある数の生物が集まれば指導者の権力に服従するようになる
  • 指導者はあまり明晰な頭脳を有していない、なぜなら明晰な頭脳は概して人を懐疑と非行動にするからだ、指導者は実行者である、偉大な帝国は学識あるものや哲学者の手によってできたのではない
  • 常に大衆は強固な意志を備えた指導者の言葉を傾聴する
  • 偉大な指導者の役割は人物や事業、思想に対する信仰を想像することである
  • 群衆の精神を支配しているものは自由への要求ではなく、屈従への要求である
  • 群衆の心理に信念や思想をしみ込ませるために支配者がやる3つのことは、断言と反復と感染である
  • 甲は不埒極まる破廉恥漢であり乙は極めて誠実であると新聞が連日報道すれば、その反対意見を言う新聞を読みさえしなければ、そのことを固く信ずるようになる
  • 意見や信念の伝播は労働者が酒場で断言、反復、感染するからで、それがやがて社会の上層にも及ぶ、その有力な意見が不条理なことによってもだ、この思想に屈服した指導者たちがこれを使用して党派を組み、その思想を変形させ、また群衆の中に広める、世界を導くのは究極においては知性であるがはなはだ間接的であり時間がかかる
  • 威厳はある思想などが我々に働きかける一種の魅力なのである、ナポレオンの威厳は死後まで残り、人々を虐待し何人もの命を奪い、侵略に次ぐ侵略をしようとも、すべて許されている

コメント
今の日本で断言、反復、感染を実行しているのは新聞ではないか、安倍批判などが最たるものだ、疑惑だ疑惑だと繰り返し騒げば、国会は空転し、為政者に対する悪印象が広まる、安倍氏が非業の死を遂げてからもなお批判しないと気が済まない執拗さは異常であろう

第四章 群衆の信念と意見が変化する限界

  • 群衆の変動しやすい意見の総和というものはかつてないほど大きい、それは最近の新聞の普及で相反する意見の相違を人の眼に触れさせたからだ
  • この結果、政府に世論を説得する力がなくなった、それどころかひたすら世論に追従しようとし世論に対する気がねが往々にして恐怖になり、政治家の行動から一定の安定性を奪った
  • 群衆の意見が政治に対する最高の調節者になる傾向がある
  • 政治が理性に導かれず動揺しやすい群衆の衝動を指針としているを見れば、政治は感情の問題ではないとは言えない
  • 世論の気配をうかがうことはしても世論を指導するものがいなくなった結果、群衆の無関心が増大した
  • 文明の崩壊を遅らせることができるのは、極度に変動しやすい意見と群衆の無関心である

コメント

著者の主張には理解できない部分もあるが、今の日本の新聞が物事についていろんな見方を読者に提供することをほとんどしていないという点で、現状はこの著者の見立てとは異なる、いろんな意見がある問題でも自分たちの考えを読者に押し付けているのが今の新聞だ、「驕れる人も久しからず」となるのも時間の問題だろう、そんな新聞世論を怖がっているのが政治家だから情けない、この点は本書の出版当時と何も変わっていない

第三篇 種々な群衆の分類とその解説

第一章 群衆の分類

  • 種族性によって異色の群衆をかなり明確に分類できる、それが人間の行為を決定しうる最も有力な原因である

第二章 いわゆる犯罪的群衆

  • 犯罪的群衆の一般的な性質は、暗示を受けやすいこと、物事を軽々しく信ずること、動揺しやすいこと、善悪の感情が誇張されること、ある型の徳性が現れることなど
  • フランス史上最も残虐なのは九月の虐殺者たちだ、彼らは裁判官と死刑執行人の二重の職務を行い、自分たちが犯罪者とは思っていなかった

第三章 重罪犯罪人の陪審員
第四章 選挙上の群衆

  • この群衆に現れる特徴は微弱な推理力と批判精神の欠如、興奮しやすいこと、物事を軽々しく信ずる単純さである、また、この群衆の行う断定のうちには指導者の影響と、断言・反復・威厳・感染の作用も見られる
  • 普通選挙の欠点は、ピラミッドの頂点をなす少数の人物が一国民の下層部を現わす点だ、トックヴィルは「万人が同じ程度の教養を具えている以上、真実が最大多数の側に存在しないなどとは、到底真実らしく思えない」と喝破している、あらゆる人間は同じ程度に無智になる
  • 普通選挙は種族の無意識的な要求や願望の現れである、祖先伝来の残存物によって導かれる、種族性と複雑に入りくんだ日常必要事、これこそがわれわれの運命をつかさどる神秘な支配者である

第五章 議会の集会

  • 議会の集会にも群衆の一般的な特徴が見いだされる、すなわち、思想の単純さ、興奮しやすいこと、暗示を受けやすいこと、感情の誇張、指導者(政党の領袖)の強力な影響など

いろいろ勉強になった、ばかげた群衆心理にならないようにするには物事をいろんな角度から見る癖をつけることが大事だと思った、意見の多様性こそ必要だ、新聞があることを執拗に報道している場合などが一番危ない、著者が指摘する通り新聞は読者にいろんなものの見方を紹介するのが一番大事な仕事でしょう

さて、この本はNHKの「100分de名著」というテレビ番組で取り上げられたことがある(2024年3月6日放送の名著113)、私は見なかったがその番組のweb記事では「果たして、私たちは、群衆心理とどう向き合ったらよいのでしょうか? 現代の視点から「群衆心理」を読み直し、「単純化」「極論」に覆われた社会にあって「思考し問い続ける力」をどう保っていけばよいかを考えます」とある(こちら)、どういう結論になったの知りたいと思った

(完)



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