女流立葵杯の街から

囲碁の女流棋戦の中継予定を中心に投稿しています。

女流棋戦ふりかえり__2020年(No.02/03)

2020年10月14日 | 女流棋戦ふりかえり

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 2018年の女流立葵杯。この年、関西棋院理事会が動揺。その理由とは、所属棋士である#吉田美香 八段 、田村千明 三段の お2人が本戦を勝ち抜き、現地・福島県会津若松市での対局が決まったから。

「関西棋院所属の女流棋士が、5年連続で現地入り。しかも2018年は、2人も4強に……これはエライコッチャ。
 立葵杯には毎年毎年お世話になっているのだから、関西棋院としても ご挨拶に伺わない訳にはいかないやろう」

 そんな話が行われたらしい。そこで、関西棋院理事である #榊原史子 先生が、前夜祭での挨拶に急遽出席。

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 ≡≡ レディ・サムライの覚醒 ≡≡


 新型コロナウイルスの感染拡大防止の為、2020年は現地対局は無し。本戦の対局会場は東京本院。関西棋院からは岩田紗絵加さんが準決勝に進出。立葵杯以外では、非公式戦ながらも結城聡九段に勝たれた。こうした出来事は、着実に実力を付けている証拠かも知れない。

 そこで〈2020年、活躍した1人〉を挙げるとしたら、#岩田紗絵加 さん(写真の女性)かも知れない。

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A≫関西棋院が発掘した才能
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 岩田さんの経歴。
 元々は東京の院生。院生を辞めた後には、男女混合の東京予戦を勝ち抜き、アマ全国大会に出場。
 院生時代から参加していた都内碁会所での対局成績は、現役のプロ(本戦リーグ在籍者)相手にも互先で勝率5割を超える様に。
 アマの全国大会の後、都内の碁会所スタッフからの報せには「岩田さん、プロの試験に合格しました。関西棋院みたいですけど」

 今は行われていない様ですが、以前の関西棋院では、アマ棋戦で活躍した実力者を採用する制度『研修棋士採用制度』がありました。その制度によって採用されたらしい。

 関西では関西棋院と関西総本部の所属棋士、そして地元在住のインストラクターが協力し合い、囲碁普及をされています。その結果として、2005年頃までには着実に囲碁ファンの増加に成功。
 しかし囲碁棋士の県外出張や女流棋士の産休・育休等の事情があり、関西圏内で行う普及活動に必要な人材が不足していたらしい。そこで関西棋院が始めたのが、優秀なアマ人材をプロとして採用する『関西棋院研究棋士採用制度』

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B≫対局と慶應と海外遠征と
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 関西棋院所属の女流棋士は普及活動に力を入れており、活動の様子をインターネット上等で紹介しています。
 研修棋士制度とは どの様なモノなのか。採用基準を読んだ事がありますが、この制度では試験対局・大会実績だけを基準に採用するのでは無く、❬❬ 関西棋院が行う普及活動に協力する事 ❭❭ と言う文言が繰り返し書かれていました。

 この2つを鑑みて私が推測していたのは、「関西棋院でプロになったのだから、岩田さんも関西での普及活動に参加するのだろう」
 しかし、それについての話は全然伝わって来ない。

 一体どうしたのか……とと気になっていた頃に放送されたのが、NHK囲碁フォーカスの特集。画面には、スーツケースを牽いて歩く岩田さんの姿が。番組のナレーションでは、
「関西棋院所属棋士としての対局に加え、慶應義塾大学に通学。
 関西と東京を往復する〈二足のわらじ〉の生活をしています」

 その前後、岩田さん ご自身がツイッターに、「世界大会に出場する為、韓国に行ってきます」と投稿。

 こんな旅生活を続けていたら、体力的には大変では無いのか?__そんな疑問もありました。しかし ご本人としては、特にキツいとは感じていなかったらしい。
━━日本と外国の移動生活が多いが、その方が体調や碁の内容が良い━━
 と、女流立葵杯保持者4連覇の藤沢里菜さんがコメントされていましたが、岩田さんもそうなのかも知れない。

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C≫常識を変えた剣豪スタイル
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 そんな岩田さんの碁の内容について。若手棋士の1人は、

「元々実力は ある程度あったのですが、安定感に欠ける印象だったのでそこを克服したことで勝ち進みやすくなったように思います」

 そんな評価をされています。

 これまで一般事情として。囲碁棋士として強くなりタイトル戦に絡む為には、

「院生在籍中に、プロの採用試験に合格する」
「中部地方や関西地方では無く、(強いプロが多い)東京本院所属のプロになる」
「高校や大学には行かず、囲碁の公式戦や研究会に専念する」
 
 これが条件・常識と言われています。しかし岩田さんの場合、そんな常識とは全て逆。

「院生を辞めてアマの大会に出る様になってから、急激に強くなった」
「東京本院所属では無く、関西棋院所属の棋士になった」
「関西での棋士業と、関東での学生業を同時平行」

 それらに加え、海外への武者修業。そんな岩田さんの囲碁棋士としてのスタイルを伝え聞くと、日本全国を1人旅して腕を磨いていた昔の剣豪の様な印象があります。そんな岩田さんの事を、

 〈日本囲碁界の #レディサムライ 〉

 と呼ぼうかと思っています。

#女流棋戦ふりかえり
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女流棋戦ふりかえり__2020年(No.01/03)

2020年10月01日 | 女流棋戦ふりかえり

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 2019~20年にかけての、女流棋戦の注目ポイント。
 2018年秋頃にプレスリリースされた〈女流特別採用推薦棋士制度〉
 翌年1月に突如発表になった〈英才特別採用推薦棋士制度〉

 これらの制度でプロ入りした新人女流棋士の成長と戦績。

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 ≡≡ 新人女性棋士の後ろ姿 ≡≡


 「プロの試験に落ちた女子院生を推薦で採用するなんてバカげている」

「万年赤字の日本棋院が女流棋士を増やしたら、間違いなく破綻する」

 2019年の上半期、ネット上ではそんな投稿が乱発していました。しかし同年の夏以降になると、落ち着いて来た。その背景には、

「近年の院生女子は成長著しく、院生や若手棋士のレベルを超えている。
 プロ採用試験に不合格だったから__と言うだけで、院生を辞めさせてしまうには余りにも惜しい」

 そうした理由で推薦制度導入を模索された小林覚・日本棋院理事長の判断の通り、2019年採用の主だった女性棋士達が、ファンが想像していた以上の活躍をされた事。
 新制度は愚策にあらず__それを急成長と実力で証明したのは、〈英才特別採用推薦棋士制度〉でプロ入りした仲邑菫さんだったのは間違いないはず。
 
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A》畏怖に微動せぬ新世代

 新制度でプロ入りした新人の女流棋士達。
 その中で、私が特に注目しているのが森智咲さん。

 

 森さんについては、

◎パズルやクイズ、なぞなぞ が好き。
◎詰碁が得意で、手が見える。
◎対局時や棋風は相当きつく、狂暴に近い。
◎百人一首でも負けるのは嫌い。
◎韓国の囲碁道場でホームステイして勉強。

 この様な事が、週刊碁の企画〈#新初段シリーズ〉で紹介されました。ここまで読めば、平成の若手四天王である張栩さんや山下敬吾さん、お2人のエピソードを合わせた様な感じ。しかしそれ以上に驚かされたのは、下の2つ。

◎研究会での結果らしいが、結城聡九段に勝っている事。
◎週刊碁での、森さんのコメント。
「山下敬吾先生には教えて頂いていますが、山下先生に力碁と言う印象はありませんでした」

 現在は無冠とはいえ、7大棋戦の激戦を くぐり貫けてきた結城・山下の2人の実力に対し、森さんは恐れを全く感じていない……?。もしもそうであれば、これ迄の若手棋士では考えられなかったタフ過ぎる戦闘力や精神力を、森さんは既に兼ね備えているのかも知れない。

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B》先輩棋士の期待と まなざし

 最新情報。
 本投稿に添付した写真とアドレスは、女流本因坊争奪戦の開催地へ向かう新幹線客席での森智咲さんの様子。
 東京から岩手県へ向かう新幹線の中であっても、わずかでも時間が出来ればその間にネット対戦やAIでの研究などを行い、自らの研鑽を惜しむ事が無い❬*1❭。
 この事をツイートされた首藤瞬さんや平田智也さんを初め、多くの先輩棋士が同じ新幹線に乗車されていますが、新人棋士である森さんの仕事ぶりや勉強する様子を、先輩棋士達が端から見ている。先輩棋士の立場からすれば、

「先輩棋士が後輩棋士に教える」

 のではなく、

「後輩棋士から先輩棋士が学ぶ」

 状況になっている。首藤プロや平田プロがツイートされた〈森智咲・新人棋士の背中〉は、迷いや悩みに迷わされる事はなく、ただ一心に、囲碁の勉強や仕事に専念されている。

「森智咲さんは、本当に良い子」

 と、他の若手棋士もツイートされていましたが、単に碁が強いだけではなく、先輩棋士からも信頼と尊敬をされる棋士であったのか……そんな事を思ったツイートでした。

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≡≡≡≡≡ ≡≡≡≡≡
≡≡≡≡≡ ≡≡≡≡≡
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《ツイートより》

【首藤瞬プロ】
https://twitter.com/shuto_shun/status/1311186159242862592?s=19

 最近の若手は新幹線でネット碁を打つらしい。(本人了解済)
 「地方での記録係は初めて」と言うがPC持参で手慣れたもの。そんな勉強熱心な森智咲初段。明日は記録の合間にYouTubeにも顔を出してくれそうです。

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【日本棋院若手棋士】
https://twitter.com/wakatekishi_igo/status/1311190311457026048?s=19

素晴らしい!
最近の若手は勉強熱心ですね。
見習わないと…

森智咲初段には何度か記録を取ってもらったことがありますが、ミスはないし、姿勢も良いし、打ってて気持ち良かったです。
近い将来対局者として新幹線乗れるといいですね😆(ツイートは平田智也プロ)

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仲間がいるからこそ~若手棋士イベント企画~

2019年11月21日 | 女流棋戦ふりかえり

 

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 2019年度の囲碁棋戦の主役は、間違いなく上野愛咲美さんでした。急成長の天才女流棋士に、女流棋戦のリーダー、謝依旻さんや藤沢里菜さんだけでは無く、若手の男性タイトルホルダーも翻弄され続けた。
 現に上野さんが囲碁棋戦の主役であるとすれば、囲碁普及の主役は一体誰か?
 囲碁普及の主役は〈星合志保・二段と、その盟友たち〉かも知れません。

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 ==女流棋戦ふりかえり
   ……2019、No.03(全3回)==
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 2018~19年にかけて女流棋士が行った一連の囲碁普及は、行動力も実績も、これまでとは比較にすらならない。
 それら全てを象徴する写真が、『囲碁棋士フォトブック』のツイッターに投稿されたこの1枚。

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【写真】段位・敬称略。
 左から木部夏生、星合志保、藤沢里菜、上野愛咲美、金子真季。

【アドレス】若手棋士イベント企画よりhttps://twitter.com/igo_photobook/status/1116661508799225856?s=19

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A》都内ですら少なかった囲碁活動

「金子真季さん、木部夏生さん、星合志保さん……
 東京本院所属の仲の良い女流棋士とチームを組んで、新しい囲碁活動をやってみたらどうですかね?」

 覚えていてくれているかどうか。そんな話を、私から金子さんと星合さんにしたのが2017年。理由の1つには、囲碁普及が盛んであろうと思っていた東京ですら、〈リアル碁初参加、歓迎します〉と言う様な活動は少な過ぎる──それを実感していた為でした。

 私が東京に通っていたのは2004~10年。当時の都内には、

〈囲碁の勉強が出来る所を探している囲碁初級者〉
〈リアル碁に興味あるネット碁ユーザー〉

 等が多数いました。そうした人達はインターネットで碁会所や囲碁教室の情報を探していたのですが、〈ネット上で紹介されている〉都内のリアル碁の情報は、当時は何故か少なかった。その為に、都内の囲碁活動の情報ですら探すだけでも一苦労。

 その一方。自分達が何か行動を起こさなければ、囲碁が廃れてしまう──。そうした危機感を抱いていたのが、星合志保さん。私の申し出が「星合さん達の決断を促す些細なきっかけ」程度になったのであれば、それはそれで良かったのかな……とは思ってはいますが。

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B》東京本院版の『舞姫』

 仲の良い女流棋士とチームを組んで、新しい囲碁活動──そんな事を言われたって、そもそも都内近郊では前例自体が無い。前例が無いから、何をやって良いのか分からない。ヒント無しに突っ走れば『闇の中での手探り状態』になったはず。
 しかし幸いにも、ヒントはあった。「関西棋院所属の女流棋士が、『舞姫』と言うチームを組んで、定期的に指導碁会をしています」

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【写真】舞姫~関西囲碁女流棋士八姉妹

http://www.igomaihime.com/index.html

 

 それを伝えると……
 金子さんから。「東京の若手の女流棋士のまとめ役みたいな事は、謝依旻先生がされています。舞姫みたいな活動が出来るかどうか、まずは謝先生に相談してみます」
 星合さんから。「舞姫メンバーの稲葉かりんさんとは、普段から仲良くしています。舞姫の現状について、かりんさんにお話しを聞いてみます」

 それから約1年。2018年12月、『クリスマスでも囲碁がしたい!』が開催。これが、東京の若手女流棋士による囲碁活動の第1弾。ここから『若手棋士イベント企画』チームの活動が本格始動。
 年が明けてからは、『女子囲碁お茶会』『謝ファミリー囲碁会』『女流棋士浴衣囲碁まつり』……
 そして2019年最大のプロジェクトが『女流棋士フォトブック大感謝祭』。フォトブック製作の為の資金調達に成功しただけでは無く、張栩さんや万波佳奈さんをはじめとした、
「若手~中堅棋士総動員」
「アマ有志による運営支援」
 と言う、大型イベントとして帰結した。

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C》囲碁活動と言う『作品』創り

 そして何より注目すべきは、新しい囲碁イベントを運営してきた女流棋士の面々。
 企画・発案に始まり、フォトブック製作の為のイラスト作成やパソコン作業では、金子真季さんや木部夏生さんが才能が発揮。
 タイトル戦や海外棋戦でスケジュールが埋まっているはずの女流トップの3人(謝依旻さん・藤沢里菜さん・上野愛咲美さん)も、陰に日向に、活動を常に支えていた。勿論、他の人達も。

 そうして完成したのが、『女流棋士フォトブック』

 

 

 

 そしてこのフォトブック完成を祝う『大感謝祭』には、多数のファンや囲碁棋士が駆けつけました。

 若手の女流棋士の活動は、何故にファンから支持されたのか?

 囲碁以外の話ですが、今の若者には、アイドルグループあるいは文化系部活のアニメが人気。それらが何故人気なのかを考えると、単に華やかで楽しくて面白いからだけでは無く、

 ◎幼い時から仲良くして来た若者が
 ◎目標と苦楽を共に研鑽を続けて
 ◎力を合わせて作品を創り上げる

 そうした姿に共感した人達が、ファンとして長く応援し続けている。それを私は『青春群像劇』と呼んでいますが、今の若手の女流棋士もまた、幼い時から囲碁を通じて苦楽を共にして来た。だからこそ、お互いを理解し合い、助け合えたのだと思います。

*****

 2018年以降に実施された新制度によって、日本棋院に採用される女流棋士の数が急増しました。そうして誕生した新しい女流棋士を、これまで通りの普及活動や公式戦に漠然と参加させるだけでは、今までと代わり映えも無ければ、発展性も無い。
 今後は〈囲碁棋士として成長出来る環境〉を創り、提供していく必要があります。その1つが若手棋士主催のイベント企画でしょうが、囲碁の若手女流棋士に課せられるテーマは、

「仲間がいるからこそ、自分達に出来る事は何なのか?」

 になるでしょう。普及活動でも、公式戦でも、国際大会でも。

(3回目・完)
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待ち望まれていた囲碁棋士。新初段・大森らんさん。

2019年11月20日 | 女流棋戦ふりかえり

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「院生女子の成長が、近年は目覚ましい。プロ採用試験は不合格だったからと言って、この子達の素質を野放しにする訳にはいかない」
 そうした理由で2018年秋から始まった1つが『女流特別推薦』。成績優秀な女子院生を、推薦でプロに採用する新制度。

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 ==女流棋戦ふりかえり
   ……2019、No.02(全3回)==
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 囲碁棋士の中で、特に一時代のリーダーとなる人の場合には、何かしらの星や天命を背負っている様に思われます。
 1つ目は、藤沢里菜さんや上野愛咲美さんの様な『戦いの星』
 2つ目は、杉内寿子先生や小林礼子先生の様な『導きの星』
 3つ目は、知念かおり先生や謝依美さんの様な『郷土の星』

 その星の1つ『郷土の星』を背負った新棋士が、2019年に誕生しました。
 それが、関西総本部の大森らんさん。

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【プロフィールサイト】https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000494.html

【写真】大森らん・初段(日本棋院、関西総本部所属)

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A》「瀬越先生に恩返しが出来た」

 『大森らん』と言う名前、当初私は全然知らなかった。新棋士採用のプレスリリース、竜星戦での公式戦デビュー。それについても「……頑張って下さいね」と思っただけでした。その竜星戦にて、天才棋士として鳴り物入りでプロ入りした仲邑菫さんに勝ち、ファンやメディアに注目されました。

 しかしそれ以上に私が驚いたのが、竜星戦の後日。
 週刊碁の定番企画『新初段シリーズ』。日本棋院に採用されたプロはこの企画で特集され、全国の囲碁ファンへお披露目されます。
 私が過去に読んだ新初段シリーズの中でも、大森さんの回は特に印象的でした。それを要約しますと……

「大森さんがプロ入りして間も無く、大森さんの元に手紙が届いた。その内容は──あなたがプロになるのを、私はずっと待っていました。
 手紙の差出人は山王裕孝プロ。現役の囲碁棋士で、故郷・広島県の大先輩」

 

【公式プロフィールサイト】

https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000029.html

【写真】山王裕孝プロ

 その山王プロいわく、

「大森さんがプロになった事で、広島県初の囲碁の女流棋士が誕生した。
 これでやっと、(山王プロの)師匠でもあり広島県の大先輩でもある瀬越憲作先生に恩返しが出来た」

 囲碁の歴史と縁が強い広島県で「大森さんが初の女流囲碁棋士」とは、正直意外でした。広島県からは、囲碁の女流棋士がすでに数人は誕生しているものとばかり……

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B》『仁風』の後継者……?

 先に述べた通り、新初段シリーズの目的は、先輩棋士との対局を通じて、新棋士の名前と強さをファンにお披露目する事。個人的な好みの問題ですが、新初段シリーズには、どことなく物足りなさを感じてはいました。
 しかし、大森さんの回だけは別だった。全国のファンには知られていなくても、大森さんのプロ入りを長年待ち焦がれていた人がいた事。その1人が、山王プロだった事。広島県の囲碁ファンにとっては、他の地域の人が想像している以上に、吉報以上の吉報だったかも知れません。

 最後に〈プロとしての目標〉について。大抵の新棋士は「タイトル奪取を目指して頑張ります」と答えるのが定石みたいなもの。
 週刊碁の新初段シリーズやネット記事によれば、大森さんの目標は、
「囲碁ファンを笑顔に出来る棋士。困っている人を救える人」

 大森さんの故郷の大先輩、瀬越憲作先生。その瀬越先生の盟友であった木谷実先生は『仁風』の精神「囲碁を通じて世界平和」をモットーとされていた。その木谷先生の精神を受け継いだのが、実娘である小林礼子先生と、孫娘である小林泉美さん。
 時代も一門も地域も全然違いますが、大森さんの記事を読んで、

「木谷先生の大志を受け継ぐ後継者が、広島県で生まれ育っていたんだな……」

 と、感慨深いものが私にはありました。
(2回目・完)

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C》参考情報

【参考】大森らんさんの特集記事

https://www.sankei.com/smp/life/news/190523/lif1905230011-s1.html


※平成31(2019)年度採用新初段。
 うち女流棋士は、10人が新採用

◇女流特別推薦◇

◎東京本院に所属
……辻華
……五藤眞菜
……森智咲

◎関西総本部に所属
……大森らん

◎中部総本部に所属
……高雄茉莉
……羽根彩夏

◇女流特別採用◇
……上野梨紗(東京本院所属)

◇英才特別採用推薦◇
……仲邑菫(関西総本部所属)

◇夏季採用◇
……武井太心

◇冬季採用◇
……豊田裕仁
……福岡航太郎

◇関西総本部採用◇
……池本遼太

◇中部総本部採用◇
……寺田柊太


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プロが認めるプロ、鈴木歩さん。

2019年11月18日 | 女流棋戦ふりかえり

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 第38期女流本因坊戦は、「上野愛咲美・女流棋聖の優勝⇒⇒女流本因坊位の初奪取」と言う結果になりました。そしてこの対局を以って、2019年の囲碁の女流棋戦(タイトル争奪戦)は全て終了。
 2019年の女流囲碁は、上野愛咲美さんと藤沢里菜さんの2強時代。

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  ==女流棋戦ふりかえり2019

    ……No.01(全3回)==
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 ただしこの投稿『女流棋戦ふりかえり』では、タイトルを争った棋士やその時の棋譜に限らず「再見の価値有り」「気付かれざる逸話」に注目しています。
 今回の注目は、鈴木歩・七段。日本棋院・東京本院所属の女流棋士。2000年代の女流棋戦での優勝経験あり。

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【写真】鈴木歩・七段(日本棋院所属)
【プロフィールサイト】
http://archive.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000380.htm

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A》ファンの眼 vs プロの眼

 2019年の女流棋戦での、鈴木歩さんの結果。
 女流立葵杯と女流本因坊戦では、鈴木歩さんは本戦トーナメントで準優勝。挑戦権獲得ならず。その相手は、どちらも上野愛咲美さん。
 こうした結果を見てか、

「鈴木歩さんって、大事な対局で勝てないイメージがある」

 と言う類のコメントが、ネット上に数件ありました。実際には〈歩さんが弱い〉のでは無く、対局相手の〈愛咲美さんが強すぎる〉だけなのですが……
 一般的なファンはそう評価していても、プロの間での評価は、実は正反対。以前に小林覚・女流九段は、

 ☆女流棋士に強い謝依旻
 ☆男性棋士に強い鈴木歩

 と言う評価を紹介されていました。どうやらこれは〈お世辞・おべっか〉では無く、本当らしい。現に男性棋士の間では「歩さんとの対局では、最後まで気が抜けない」と警戒されているらしい。
 そこで最近の戦績を調べた所、中堅棋士が参加する中庸戦では、男性棋士相手に〈本戦で8位〉になっている。プロフィールを見れば、〈七段〉になっている。
 同じ人物の内容や成果を評価するのでも、ファンとプロとでは全然違ってところいる。そうした事は珍しくありません。

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B》育児・子育てを経て強くなり

 実戦譜を取り上げます。2019年、女流立葵杯の準決勝より。
 白番は鈴木歩さん、黒番は万波奈穂さん。
 左下で黒が三々に入り、左上では流行定石。現地解説の小林光一・名誉棋聖によれば、「右下の戦いは、黒が失敗したかな……?」

 この碁の注目点を【参考図】に。
 白1のツナギを見届けて、黒2と大桂馬。
 これに対する白の返事は、白3の〈上ツケ〉

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【参考図】

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 白3ついて、小林光一・名誉棋聖はこんな解説をされていました。

「このツケ1本は好手、最新の囲碁AIも高く評価します。
 ただし人間のプロの感覚では、右上の黒石を強くし、黒地も増やしている。ですので、プロにとっては〈内心、打ちにくい感じもある手〉」
「歩さんは筋の良い碁を打つ人なので、白3の様な手は〈昔の鈴木歩さん〉であれば打たなかった。でも〈今の鈴木歩さん〉は打った。
 ……と言う事は、歩さんは、タイトルを持っていた当時より間違い無く強くなっています。
 子育てや育児で忙しい中、AIを使って勉強しているんだと思います」

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C》AI流と熟練芸

 参考図の白3。局後の検討タイムで、鈴木歩さんは次の様に返答。

「右上をどう打つのが良いかを考えていたら、白3はAIが選びそうだな……って。
 ですので、AIっぽく〈格好つけた手〉を打ってみました( 〃▽〃)」

 鈴木歩さんの打ち回しは、プロ入り当時から〈玄人好みの熟練派〉。地にカライく、ヨセが上手い。攻めや戦いを急がず、じっくりと打ち進める。
 また、難解詰碁を解く早さや正確さでは張栩・九段をも脱帽させ、計算の早さ正確さでは絶対的な信頼をされている。
 こうした点から、鈴木歩さんは「プロが認めるプロ」と言えます。

 蛇足として。鈴木歩さんの碁についての、棋譜並べの視点で一言添えますと……
 〈AIを使わない人間流〉の羽根直樹・碁聖の棋風が好き──と言うファンが、最近増えているらしい。
 そうした羽根碁聖の打ち方が好きな人にとっては、(もしかしたら)鈴木歩さんの打ち方も気に入って頂けるかも知れません。

(1回目・完)
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