結城沙織は図書館で嘱託として働いていた。
一日の勤務を終え、暮れゆく空を眺めるのが、沙織の楽しみである。
一番星を一心に見つめる沙織は、紺のコートとおかっぱ頭が、まるで学生のように見える。
確かに沙織の時間は、20年前の23歳で止まっているのだ。
23歳の冬、沙織は恋人の権藤秀樹を殺した。
正確には、沙織の記憶の中で、愛しい秀樹を刺している。
沙織と秀樹は大学の入学当時に知り合った。
お互いに好意を持って、何度もデートした。
デートと言っても喫茶店で気の向くままに喋ったり、図書館で待ち合わせたりする程度のものだった。
会う度に嬉しく、もっと会いたいと思うが、ある理由のために二人はそれ以上の進展を抑制していた。
お互いに故郷を出て貧乏な下宿生活をしている。
アルバイトに追われていたし、ましてやお互いに超えねばならない目標を持っていた。
司法試験である。
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