気の向くままに

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欧州が認めた春画

2015-10-23 15:08:43 | 日記

 

 

 

 10年前に46歳の若さで亡くなった江戸文化研究家の杉浦日向子さんによると、江戸時代の絵師や作家は、葛飾北斎から曲亭馬琴まで残らず、春画本の制作に携わっていた。にもかかわらず、性の快楽を描いた春画を平成の時代に研究しようとすると、世間から特別視されてしまう。

 ▼さらに平成に入るまで市販されていた春画集は、修整や伏せ字だらけだった(『一日江戸人』新潮文庫)。「真っ暗闇の世界」だと、春画の境遇を嘆いていた杉浦さんにとって、想像を絶する光景であろう。

 ▼東京都文京区の「永青文庫」で開催中の「春画展」は、大盛況である。極彩色の作品に多くの女性が見入っている。ブームに乗り遅れるなとばかりに、週刊誌もこぞって特集を組んだ。

 ▼春画の関連図書も刊行ラッシュが続く。大型書店をのぞくと、やはり都内で展覧会が開かれている、印象派の巨匠、モネの画集とともに並んでいた。19世紀に欧州に渡った浮世絵が、ジャポニスムの花を咲かせた事実はよく知られている。実は、当時の画家たちに、春画が与えた影響も大きかったらしい。

 ▼江戸時代「笑い絵」と呼ばれた春画が発散する、おおらかな遊び心は、性の快楽を禁忌としてきたキリスト教文化の対極にあったからだ。今回の春画の「再発見」も、欧州から始まった。2013年から翌年にかけて、イギリスの大英博物館で開催された春画展は、約9万人が訪れ、大きな話題となった。

 ▼明治の初期、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ、仏像は破壊の対象にすぎなかった。それを日本人がありがたがるようになったのは、お雇い外国人として来日したフェノロサが、「すばらしい芸術だ」と称えてからだ。歴史が繰り返しているとすれば、すこし情けない。

2015.10.20 05:05更新 【産経抄】