気の向くままに

終着はいつ、どこでもいい 気の向くままに書き記す

「カエデもやはりどこにでも自生する木で…

2015-10-31 18:39:08 | 日記

 

 「カエデもやはりどこにでも自生する木で、葉は種類によってさまざまの色に彩られるが、秋になると、みな深みを増して、日本の国は鮮麗な目のさめるような景観を呈する」。幕末に来日した英国人R・フォーチュンはそう記す。

▲彼は世界中の植物を採集する「プラントハンター」として名高い人物だが、日本の紅葉についてはよほど感心したらしい。別の箇所でも「群葉の鮮明な色彩はたいへんすばらしく、目をみはるような美しい眺望と書いている(「幕末日本探訪記」講談社学術文庫)。

▲植物の専門家ゆえ、その理由も見抜いた。紅葉する木の種類が多く、色合いが多彩だからだ。黄、赤、深紅色−−「あらゆる色彩の集団がカシやマツのような緑の群葉と好個の対照」をなしているという。紅葉する樹種の多さで日本列島は他に類を見ないといわれる。

▲昨年は訪日外国人数の月別内訳で10月が最多だった。夏休みや桜の季節を超えたのは、中国の連休の影響のほかに観光キャンペーンでの紅葉のアピールがものをいったらしい。すでに先月までに昨年1年間の累計人数を超えた今年、紅葉狩りのお客もさらに増えよう。

▲聞くところでは今の日本列島の紅葉の多彩さは、北米や欧州で死滅した落葉広葉樹が氷河期を生きのびたおかげという。色づく山の美しさを当然と思っていた日本人だが、列島の周りの暖流をはじめとする固有の気象条件が残した地球上でもまれな自然の恵みらしい。

▲今や紅葉の名所では、実にさまざまな国々の言葉が聞こえる。彩り豊かな紅葉をめでる喜びは、できるだけ多彩な言葉や文化を生きる人々と共にしたいこの秋だ。

2015年10月30日 毎日新聞