寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫) 価格:¥ 580(税込) 発売日:2007-02-01 |
クイズショー『アタック25』の司会としてもなじみ深い方ですし、『白い巨塔』や、最近では『龍馬伝』などのドラマも印象的ですが、私はなによりも氏の海外ミステリなどの書評のファンだったので。
そうして、私が氏に強い印象を持ったのは、EQ(エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン日本版)に載ったエッセイにおける一言でした。
もう二十年も前に読んだものなので記憶が曖昧で間違いがあるかもしれませんが、こんな一文だったと思います。
《私は、クリスティーとクイーンの作品を、ひとつも読んだことがない》
え?と思いました。私もそうだったのですが、だいたい海外ミステリファンというものは、ドイル、クリスティー、クイーンから入り、三種の神器のごとく外せないものだと思っていたのです。
もちろん、いずれ別のジャンルや作家に興味が移ったりもするのですが、でも、クリスティーの『そしてだれもいなくなった』とか『アクロイド殺人事件』とか、クイーンの『エジプト十字架の秘密』とか『Yの悲劇』などを一冊も読まないなんて!と衝撃でした。
もっとも児玉氏の愛する作家は、フランシスとかグリシャムとかデミルとかクランシーとかであったので、骨太タイプの海外ミステリが好きなのかなぁ、という印象でした。
失礼ながら、少し趣味が偏っているのかも、と小娘の私は生意気にも思ったものです。
けれど、そのエッセイに反発したかと言うとそうではなく、逆に、“なんだかカッコイイ!”と思いました。多数派はこうかもしれないけど俺はこうだ的な文章が新鮮で、たしか当時ロス・トーマスとかも推してらしたような気がするのですが、思わず買ってしまいました。思うツボです(笑)。
もっとも、私は当時、ミステリ専門誌ではEQよりハヤカワ・ミステリマガジン派だったので、氏のエッセイはたまにしか読めなくて残念でした。
でも、EQが廃刊(休刊?)してからはハヤカワの方にも書かれるようになり、嬉しかったのを覚えています。
今になって思えば、氏は日本作家の作品も幅広く読んでいらっしゃって、偏食、と思ったのは私の誤解かとも思うのですが、そのキャッチーな一言と、自分の大好きな海外ミステリを、《こんなに面白い!》と強く推していたエネルギーは、本当に印象深いものでした。
知的で、紳士で、ダンディな方なのに、そんなときは自分の大好きなもののことを話す少年みたい。
もっと、おススメ作品を知りたかったです。
ご冥福を、心からお祈り申し上げます。