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あのときわたしが着ていた服 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:1997-10 |
今日はお気に入りの本の話を。
これは12年ほど前に買って、大切にしている本。
お洒落だけれどあまり上手くはないイラストと、そっけないくらいの文章で、子供の時から今日に至るまでの、着てきた服を書いただけの本。
作者のアイリーン・ベッカーマンについても、なじみはなかった。
けれど、私はこの本で、服というのはただ身を飾るだけのものではなく、人生にもかかわるものなんだ、ということを知ったのだ。
最初の数十ページは、小学生の頃の思い出の服や、姉の服について語られる。
カラフルなかわいい服。エピソードも微笑ましいのがほとんどだ。
だが、“母が死んで、それでも春がめぐってきた時”という一文が、いきなり、しかしさりげなく挟み込まれ、かえってはっとさせられる。
そのあと続くのは、彼女の父が、13歳の誕生日に買ってくれた紺のドレスのエピソード。
そして、次のページでは祖母に引き取られることになり、“そこに暮らすようになってから、私は二度と父に会うことはなかった”と書く。
自分がどう思ったか、は語られない。ハードボイルド小説みたいに、事実だけを淡々と書くだけだ。
だが、丁寧に絵と文章で描写される服たちが、雄弁に彼女の心を映すのがページを繰るにつれ、伝わってくる。
夫の裏切りを知った夜身につけていた、夫の勧めで買い、自分でも“それはそれは好きだった”虹色の豪華なドレス。
二度目の結婚をするが、グリーンのお気に入りのラップドレスを着て、髪型を変えた日のことを、彼女はこう書く。“帰り道、車を走らせながら、わたしは心を決めた。アルに、これ以上もういっしょに暮らすことはできないと告げなくては、と”
そして離婚後の豊かではない経済状態の中買う毛皮のコート。ここだけは少し感情の入った文章で、彼女の万感の思いが、感じられる。
今手に取ると、相変わらず心揺さぶられる一方、着る、ということを大事にしていない自分を思って、少し恥ずかしい気分になる。
けれど、エピローグを読み返したときは思わず微笑み、少しだけ思った。
20代と同じように、50代にも、心華やぐ服がある。
たぶん、歳をとることは悪いことばかりではないんだ、と。
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