Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

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イングリッシュラベンダー

2021年09月23日 | ハーブ

            7  イングリッシュラベンダー

 

イングリッシュラベンダーは、いや、総じてラベンダーは他のハーブと同じように取り扱えない、切り口を変えて切り込まなければならない大きな問題点があります。

 

問題に入る前に;

「ラベンダー」といえば「ヨハネによる福音書 第12章」の中の一シーンが思い浮かびます。何故なら聖書の中の「過越の祭の六日まえに、イエスはベタニヤに行かれた。そこは、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロのいた所である。」に続く文言の中の「ナルドの香油」に「ラベンダー」が繋がっていることを思い出すからです。

ギリシャ人はラベンダー(Lavandula latifolia:スパイク ラベンダー)を、シリアの都市(ナアルダ)に由来する名前で「ナルド」と呼んでいました。福音書の中でベタニアのマリアがイエスの足に注いだ「ナルドの香油」は、高価なスパイクナードのオイルではなくラベンダーの香油である可能性があります。ギリシャ人は二つを取り違えていたのです。この頃から既にラベンダーは正しく? 認識されていませんでした。

 

香油には保湿、抗炎症作用があり、長旅でひび割れを起こしたキリストの足の指には適切な処置だったのですが、水蒸気蒸溜法で抽出する「ナルドの香油」はスパイクナードであれ、ラベンダーであれ、当時の精油方法からすれば、賞味期限が短いオイルであったろうと思われます。ベタニヤに「過越の祭」の当日ではなく、6日前に着いた、キリストの足にタイムリーにオイルを塗るには前もって連絡を取っておく必要があります。

ひび割れたキリストの足に香油を塗り、足の指から垂れる香油を自分の髪で拭き取ったマリアはキリストにとって唯の女性であったとは思われません―――このシーンは有名で、いくつもの絵画に写し取られているので、皆様も記憶にあることでしょう―――気になるところです。

Christ in the House of Simon  Dieric Bouts 1440s 画(ディルク ボウツca1410/142 - 1475)

 

お話を戻すと、古代ギリシャ時代から、既にラベンダーは他の植物と取り違えられていたとは驚きです。更に、詳しく調べるとヒポクラテスもテオプラストウスもカトもプリニウスもディオスコリデスも、これまでたくさんのハーブの知識を提供してくれていた人達が、一片の情報すらこのラベンダーに関しては書き残してはくれていないのです。いつも通りの方法ではラベンダーを料理できないようです。どうやってこのラベンダーに切り込んでゆこうか。頭を使わなければならない展開となりました。

 

Tim Upson & Susyn Andrew の ”The Genus Lavandula, 2004.” によれば、ラヴァンドラ属にはラヴァンドラ亜種【ラヴァンドラ節(3種)、デンタータ節(1種)、ストエカス節(3種) 】、ファブリカ亜種【(プテロストエカス節(16種)、スブヌダ節(10種)、カエトスタシス節(2種)、Hasikenses 節(2種) 】、サバウディア亜種【サバウディア節(2種)】の計3亜種(39種)があると言います。それに産地により抽出される精油の成分組成や香り、効能が異なる事から、ラベンダーの同定は困難を極めています。それではどうやってイングリッシュラベンダーの過去を探り出せば良いのでしょう。

                              2021‎/7‎/4‎

 

世の中がどれほど変わっても、イングリッシュラベンダーは穂状の花や葉、茎から芳香を発散させて心の安らぎを提供してくれます。何とかするしかありません。出来るところからイングリッシュラベンダーのお話に突入することにします。

 

 

  一般名称        学名            生息地         

  ラベンダー  Lavandula angustifolia Mill.     地中海地域                         

    Lavandula angustifolia Mill. ( イングリッシュラベンダー )        2021/8/2

花が咲くと根元から数センチのところで刈り込みます。来年の花を咲かせるためなのですが、1ヶ月もするとこのような優しい葉が次から次へと伸びてきます。

 

ラベンダーは交雑種を生みやすく、学名が間違って付けられている場合もあれば、学名が同じものでも違う名称で呼ばれていることもあります。ここでは一般に呼称されているところの、いわゆる「ラベンダー」を取り上げます。

学名Lavandula angustifolia Mill.(Lavandula officinalis)には、イングリッシュラベンダー、ラベンダー、真正ラベンダー、コモンラベンダーの日本名があり、英名では、English Lavenderの他、 True lavender、Garden lavender、Narrow-leaved lavender, Lavandula pyrenaica、 Lavandula spica、Lavandula vera、Common lavenderと呼ばれています。 

ラベンダーの分類に関しては現在も整理の付かない状態で、混乱しています。すっきりと整理が付くにはあと数年はかかるでしょう。ラベンダーはまわりの環境で形態を変化させやすいハーブだから名前と種類がたくさんあります。長い人間とのつきあいの中で今の様になったのです。乱れた状態は数千年前からのことで、さすがの古代の知識人も為すすべがなかったのかも知れません。それに無理をしてでもラベンダーを区別する理由もなかったからです。ラベンダーは精油さえ採れれば種類はさほど問題ではなかったことにも理由があります。しかも、栽培して刈り取り、精油を得るのではなく、野生の、自然に生えているものを採取するだけの作業がつい最近(1930-1940年頃)までなされていたからです。品種にまで注意を向ける存在ではなかったことも一因です。古代に、唯一ラベンダーに触れているディオスコリデスでさえもフランス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャの地中海諸国で自生している Lavandula stoechas, Spanish lavender, French lavender (U.K.) (全て同じ種です) には興味があったようですがその他のラベンダーには言及していません。

 

イングリッシュラベンダーは、地中海に自生し、背丈は低く、花は紫だけではなく白、ピンクがあります。lavandre の語源には様々な説がありますが、中世ラテン語のlavindula 「青みを帯びた、青みがかった」に由来するという説が有力です。英語のlavender は古フランス語のlavandre に由来しています。

種名のangustifoliaはラテン語で「狭い葉」の意で、以前は、薬効のあることからLavandula officinalisとして知られていました。他の種類よりも香りが強く、高温多湿が苦手です。日本では育ちにくいからでしょうか、私は余り見たことがありません。

最近よく目にするのは、赤紫色のウサギの耳のような花を咲かせるフレンチラベンダーです。4枚ほどの苞葉が花穂の先端についており、「ウサギの耳や小さなパイナップルのように見える」と言えばわかるでしょうか。古来よりSTOICHASの名で呼ばれていたのは上で述べたとおりです。

 

 

 

  

 

イングリッシュラベンダーは地中海原産の多年草です。シソ科のラヴァンドラ属に属し、半耐寒性の小低木です。寒さに強いが高温多湿に弱い。鮮やかな紫色の花と芳香が特徴です。高さ1-2mになる常緑低木。古くから香料植物として有名です。茎は灰緑色で4稜があり、葉は対生し、披針形~線形で全縁、厚みがあり、縁は裏側に巻きます。

 

イングリッシュラベンダーに関する情報は1597年刊のジョン ジェラードのGeneral Historie Of Planets辺りまで待たなくてはなりません。厳密にはこれ以前にもあったかも知れませんが、この本を取り上げようと思います。(固執することにさして意味はありません。単に好みの問題です。)“General Historie Of Planets”の583ページにその姿があります。

  

字が判読出来るように画像操作してあります。全体が緑っぽいのはそのせいです。

 

ラベンダーはヨーロッパ人が古くから利用してきたハーブですが、種の判別をする術を持っていなかったのでしょうか、フレンチラベンダーとその他のラベンダーくらいの区別しかしていなかったようで、書物の中にイングリッシュラベンダーの名を見つけることは容易ではありません。名前でイングリッシュラベンダーを見いだせなければ、絵でその存在を確かめるしかありません。恐らくイングリッシュラベンダーであろうという絵がジェラードの時代にまで下ってきてやっと現れました。木版画なので、詳細までは確認できませんが、ページの上にLavander Spike の文字が、絵の上に1. Common Lavanderと2. White floured Lavanderの文字があります。説明文には;

『 1. ラベンダースパイクには、たくさんの木質の硬い枝があり、ほとんどの場合、灌木状に成長し、数多くの灰色の長い葉が対生に付いています。心地よい強い香りがします。 青い色の花が穂状花序(spike fashion)の上部に咲きます。 根は固くて木質です。』とあります。Lavander Spike 或いはSpike Lavanderの名は 花の付き方 ”穂状” に由来している事がわかりました。上のラベンダーは恐らくイングリッシュラベンダーでしょう。続けてジェラードは、

『 2. 二番目は花の色が乳白色で最初の青のものとはこの点で異なります。』

『 3. 私たちのイングリッシュガーデンには、他のラベンダーよりも小さなラベンダーがあり、花は紫色が濃く、短い穂状ですが、素晴らしい香りがします。 葉はまた、通常の種類のものよりも少なく白です。 ホワイトホールにある陛下のプライベートガーデンでは大きく成長すると思います。 これは単にスパイクと呼ばれており、時にラベンダースパイクと呼ばれています。そしてこれを蒸留したものは、広くOleum spicæ (Oil of Spike) またはスパイクのオイルと呼ばれています。』と書いています。

 

先に「イングリッシュラベンダーは、地中海に自生し、背丈は低く、花は紫だけではなく白、ピンクがあります。」と述べたように、絵の2つのラベンダーは同じ種です。この頃はまだハッキリとラベンダーの全体像が把握されていなかったのでしょう。

1596年以前、ジェラードはロンドンのストランド(Strand)とヘルトフォルスディレ(Hertforsdhire)で庭の管理を任され、ホルボーン(Holborn)に自分の庭を持っていました。 イギリス国王ジェームズⅠ世の下、17世紀初頭のロンドンには多くの庭園があり、ロングエーカー(Long Acre)にはジョンパーキンソン、ラルフタギーの庭園が、ホルボーンにはジェラードの庭園が、そしてプリムラ家に従事するエドワードモーガンの庭園がホワイトホールに向かって並んでいました。)ジェームズ1世の母親、ヘンリエッタ マリア オブ フランスが 好んだのがこの白いラベンダーで、ラベンダーの砂糖漬け、ラベンダー水、ラベンダーワイン、ラベンダーオイル、ラベンダーティー と様々な方法でこのラベンダーの香りを愉しんだと言われています。 

 

ここでもう一つ。助っ人を頼みました。1200年代のシチリアの、東西文化の交わる地で刊行された、当時のヨーロッパ最先端の料理書(An Anonymous Al-Andalus Cookbook)からラベンダーに纏わるレシピを引用しました。古代ギリシャ、ローマの文化は帝国崩壊後一旦、西ヨーロッパを離れ、アラブ、イスラムに移ります。再びヨーロッパに、真っ先に戻ったのがシシリーです。古代の文化そのままではありませんが、古代ギリシャ、ローマ文化のおおよその雰囲気くらいは知ることが出来るでしょう。これしか手がないと言うのが本当のところですが。取り上げたレシピはアラブ社会では有名だったようでこの時代のそこらここらの料理書の中に同じものを見ることが出来ます。

 

Sicily's Arabo-Sicula Cuisine (シシリーのアラビア-シシリー料理)

ラベンダーシロップハルハル (Halhal)

ラベンダー1ラトル (ratl= 468g / 1lb) を取り、鍋に入れ、水を被るくらい入れて加熱する。次に、漉してその透明な部分を取り、蜂蜜を1ラトル入れる。シロップになるまで加熱する。これを1 1/2ウキバ(1 uqiya = 39g / 7tsp) 取り、その2倍のお湯で薄めて飲むと、脳と胃をきれいに、体を軽くし、黒胆汁をゆっくりと乾かし、活力が戻ります。元気づけの為の飲み物に適しています。

 

 ( Halhalはラベンダーの意。レセピの中の ”乾かす“の意味は、神秘家ヒルデガルト フォン ビンゲン;1098-1179がラベンダーを、神の啓示と称し、熱で乾の4度と評価した影響です。さしたる意味はありません。四元素説で言えば、冷で寒の性質を持つ黒胆汁気質の者には、熱で乾の性質を持つラベンダーを与え、正常な体液-体質に戻そうという考えです。(ヨーロッパ中世の思考は、生活の全てがキリスト教にどっぷりの状態ですから、呪縛、秘儀、黒魔術・白魔術の世界観の中に浸った状態と言えます。)

 

このレシピは、効果の理由付けは誤っているものの、効果は確かなもののようです。

ラベンダーに含まれる香り成分である水溶性の酢酸リナリルを蜂蜜の中に溶かし込み、ホッコリ感を提供してくれるこの薬湯は様々な症状を和らげてくれることでしょう。ラベンダーの薬効に特別のものはありません。あるのは香り成分の「酢酸リナリル」によるものです。酢酸リナリルは水溶性なので水で煮るとその中に溶け込んでくれます。ラベンダーの香りが精神を安定させ、頭痛、生理痛、筋肉痛、神経痛、腹痛などの痛みを和らげてくれるのです。香りにはまだ理由の説明できない力が眠っているのです。

 

虫除けの目的でラベンダーを使うときは、アルコールにラベンダー成分(リナロール)を溶かして噴霧します。リナロールは脂溶性で水には溶けないからです。

 

主な有効成分       酢酸リナリル    リナロール               

              癒しの香り    防虫効果                     

 

ラヴァンドラ属は、古くから万能薬として利用されており、不安、不穏、不眠、うつ症状、精神安定、鎮痛、胃のむかつき、脱毛、防虫、殺菌などに効果があるとされ、民間療法または伝統療法として使われています。種によって成分組成は異なり、香りだけでなく薬効も異なります。

 

イングリッシュラベンダーは、酢酸リナリル、リナロール、オシメン、テルピネン、酢酸ラバンジル等を葉や茎に含んでいます。(このうち水に解けるのは酢酸リナリルだけです。その他はアルコール、脂に溶けます。)繰り返しになりますが、イングリッシュラベンダーを特徴付けているのは、酢酸リナリルとリナロールを多く含んでいることです。そのため、鎮静作用や神経のバランス作用が強く働く「癒し」の香りと言えます。強い鎮静作用は、神経だけでなく、炎症や火傷を起こした肌にも効果的です。

ラヴァンドラ属の精油は、皮膚への感作性を除けば、比較的安全性の高い精油です。

 

ラベンダーの開花前の花には、リナロールが 80%も含まれていますが、精油を採る為に水蒸気蒸溜したとき、リナロールの半分程度が酢酸リナリルに変化すると言われています。

 

花の咲いた後、地面から10cmのところで切ると1週間目に出てきた新芽

 

 

  栽培           春又は秋に挿し木                     

  

     

---ハニーラベンダーシロップ(約1½カップ分)---

 

蜂蜜1/2カップ、グラニュー糖1/2カップ、水1カップ、新鮮なラベンダーの花大さじ1

蜂蜜、砂糖、水を鍋に入れ、沸騰させ、砂糖が完全に溶けるまで煮ます。 鍋を火から下ろし、ラベンダーを加え、蓋をして30分間浸します。浸したシロップを濾し、ラベンダーを捨てます。シロップは冷蔵庫の密閉容器に入れて最長1ヶ月間保存できます。

 

 


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