2年ほど前にスキャルピングとデイトレーディングについて考察したことがあった。最初は今も増刷を続けている「最強のFX、1分足スキャルピング」という教本についてであり、もう一つはFXの人気商材と言われる「D AI Strategy」についてであった。
一、最強のFX、1分足スキャルピング
この書籍では、1分足のチャートにEMA(期間20)を表示し、その上下に各6本、計12本のエンベロープ(Envelopes)を表示する。そして、エンベロープの幅を0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.4%に設定せよとある。これがまず間違い。数字が1桁大きすぎる。考えても見ていただきたい。ドル円の現値を109円とすると、その0.1%は;
109.00 x 0.1/100 = 0.109、即ち10.9銭である。そこから0.05%刻み幅は;
109.00 x 0.05/100 = 0.0545、即ち 5.45銭刻みとなる。
EMA(20)から最高ライン(又は最低ライン)までの値幅は;
0.109 + 0.0545*5 = 0.3815、即ち上下各38銭、計76銭もの大幅なバンドを描くことになる。毎日が米雇用統計発表日でもない限り、1分足がそれほど開くことはない。スキャルにそんな値幅は無用である。
該当するページをスキャンしてみる。
計算通りのエンベロープをMT4の1分足に表示させると何も現れない。書籍では、MT4に表示できるようにわざわざ「ここを下にドラッグする」とチャートの縮尺幅を変更するよう指示している。数値が1桁間違っていることも、表示されたローソク足がEMA(20)の上をミミズのように這いまわっており、σ1にも決して達しないことにも著者自身が気づいていない。アマゾンの書評欄にはエントリーできないとのコメントが氾濫している。肝心かなめの個所が酷い状態なのに☆5を献上している人が結構いるのは不思議な現象だ。
この書籍は、2017年11月に発刊されている。筆者の手元にあるのは、2019年2月の第9刷とある。昨日、近所の書店に2020年6月刷版が飾ってあった。手に取ると、問題のページの数値や2-7図もそのまま、少なくとも数ページは訂正する必要があるのに、一片のお詫びも断り書きもない。
著者に成り代わり、USDJPYに正しいEnvelopesを表示させてみる。こちらは、一挙に13本のEnvelopes描くことのできるインディケータを特別に用意した。MetaGenic Super Signal(矢印)は追加表示。
これで、各通貨ペアの1分足には正しいエンベロープが表示されるようになったが、このエンベロープではまだまだ満足できない。もし、5分足~1時間足でこのチャートを利用しようとしても、1分足の設定では利用できないからである。5分足の%や1時間の%をトレーダー自身が探索・検証する必要があるからである。
実はそちらもATR Envelopesとして解決済みである。一見すると同じに見えるが、ATRをベースにしているから通貨ペアや時間軸を問わない。下チャートはEURJPYの15分足。
赤や青の矢印は、D AI StrategyやB AI Strategyが大げさに取り上げる魔法の矢印に関係する。あたかもAIで相場分析するかのように喧伝するが、それらはAIとは全く関係のない使い古されたSuper Signalの一種に過ぎない。次回には、ATR EnvelopesとSuper Signal(改良版)を組み合わせたスキャル&デイトレ兼用のScalping & Day Trading Chart Setupについて述べたい。
少し長くなったので、【その二】に続く。
MT Studio21では、スキャルピングとデイトレを兼ねるチャート・テンプレートを既に展示公開済みであるが、広報活動が不足しておりトレーダーの皆様に認知されていない。【その二】まで読んでいただけると、その汎用性に賛同いただけるはずである。展示済みテンプレートはこちら