だいすき

基本的に自分の好きなものについて綴っていきます。嫌いなものやどうでもいいこと、さらに小説なんかもたまに書きます。

永き夜を越えて 第五章

2007年07月01日 01時27分37秒 | オリジナル小説
 この騒動がこの後、どんな顛末を迎えたのかはよくわかっていない。
 どうせミルヒがなんだかんだと騒いで終わらせたのだと思うが、当のミルヒが忙しいらしく、わしに会いに来なかったし、わしも誰かに尋ねようとはしなかったので、結局はわからないままだ。
 あの夜わしの身に起きた奇跡の謎もそう。ロイドのお陰だとはなんとなくわかるが、魂のない彼がどうやって力を貸してくれたのか。何故貸してくれたのか。謎はすべて闇の中。解きたいとは思ったが、翌日より一週間、まるで生身の身体に戻ったかのような筋肉痛と腰痛に襲われ続けた為、それどころではなかった。
 グウェインはあの日の大冒険がよっぽど嬉しかったらしく、これまで通り動かず喋らず立ち尽くしているようにみせて、内心で色々企んでいるのがはっきりとわかる。動けないでいるわしを案じ、見舞いに来る顔がやたらと活き活きしているのだから。近いうちに、わしが幼馴染みに振り回される日が来るのかもしれない。
 街は忍び寄ろうとしていた夜の恐怖にも気づかず、相変わらずの日常をみせている。それはそれで大変素晴らしいことだ。
 素晴らしいといえば、アンナもそうだ。悩みが解決したアンナはいつもの笑顔を思い出し、これまで同様、毎朝わしの身体を磨いてくれている。いや、これまで以上かも知れない。なにせ、わしに話し掛けてくるのだから。
 もちろん、わしに意思があることがばれたわけではない。悩みが解決したことがよっぽど嬉しかったのか、その報告を物言わぬわしにしてくれるのだ。こぼれるほどの笑顔で助けてくれた騎士の話をしたときは、嬉しさのあまり思わず抱きしめそうになってしまったくらいだ。
 自分勝手に格好をつけようとした行為が、本当に格好よかったのかどうかはわからない。だが、永き夜を越えて得たものがこのありふれた日常なら、格好つけるのも満更悪くはない。
 ピカピカになった身体で、さして差し込まぬ陽光に恥じることなく、わしはそんなことを思っていた。


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