だいすき

基本的に自分の好きなものについて綴っていきます。嫌いなものやどうでもいいこと、さらに小説なんかもたまに書きます。

いつか、空へと

2008年02月04日 00時52分46秒 | オリジナル小説
 《ネット小説ランキングより来られた方へ》
 はじめまして、kouといいます。
 僕の小説に興味を抱いてくださってありがとうございます。
 ここはブログがメインなのですが、少し小説も置いてあります。
 カテゴリーのオリジナル小説のところにおいてありますので、もしよろしければそちらもご覧下さい。
 もちろん、ブログの方も読んでいただけると幸いです。
 拙いものばかりで構成されているブログですが、暇なときにはまた遊びに来て下さい。
 これからも、どうかよろしくお願いします。
 では、前置きが長くなりましたが、小説の方をどうぞ。



 ~いつか、空へと~

 紡城由岐斗には翼がある。
 佐原祥子はそう確信していた。
 二週間前の放課後、彼が空から舞い降りてくるのを目撃したからだ。
 それは喧嘩をする為に、二階の廊下から飛び降りてきたところだったのだが、彼女の目にだけは、背に生えた翼と舞い散る白い羽根が見えていた。



 佐原祥子は人生に絶望していた。
 高校に入って最初の中間試験で、赤点をひとつ取ったからだ。
 これまで自分を平凡な女子高生と認識していた佐原祥子は、たったひとつの赤点だけで、自分は出来の悪い駄目な女子高生、と思うようになっていた。
 何故ならそれは佐原祥子にとって初めての躓きで、これまで何事もそつなくこなし、褒められることもないけれど、誰にも迷惑をかけないことを誇りとしてきた彼女の自尊心を、大きく傷つけたからである。
 佐原祥子は自分ではそうと認識していなかったものの、想像力が多少豊か過ぎるきらいがあった。それは心が前向きであるときには自身を前進させる推進力となったが、心に暗い暗雲が立ち込めているときには強いブレーキとなって、それどころか落下させるための錘にさえなっていた。
 いまの彼女は日々の生活に喜びを見出すこともなく、ため息ばかりの毎日を送っていた。
 そしていつしか、空を見上げる回数が増えていった。
 ここではないどこか。
 すでにある駄目なことを全部置き去りにして、一からやり直せる場所。
 その場所が、空の向こうにあると佐原祥子は信じ込もうとしていた。
 そして、この息苦しい世界から抜け出す為の翼を、佐原祥子は求めていた。



「ここから出たいの だから、あたしも連れてって」
 それは衝動的に口から出た言葉だった。
 言われた紡城由岐斗も驚いていたが、口にした佐原祥子も驚いていた。
 だが、言葉にしてみてすぐに納得した。
 そうだ、自分はこれを求めていたんだ。
 彼の存在を知って以来、ずっと追いかけてきた。それはまるで恋する乙女のようであったが当然そうではなく、ではなんなのかと問われても答を見出すことが出来ず、ずっとモヤモヤしたものを抱えてきたのだ。
 そのもやもやを晴らすため、ここまで来た。昼休み、チャイムがなると同時に学校を抜け出そうとした紡城由紀斗を追って、校舎裏にある鍵のかかった通用口まで。
 紡城由岐斗はその門を超えたところだった。佐原祥子の肩口まである鉄の門も、翼を持つ紡城由岐斗の行動を妨げることは出来ない。
 しかし、運動神経に自慢があるわけでもなく、規定通りの裾丈の長さのスカートをはく佐原祥子にとっては、越え難き壁だ。
 だから、佐原祥子は「待って」と紡城由岐斗を呼び止めた。
 そして思いの丈をぶつけた。
 紡城由岐斗はしばらく呆然としていたが、すぐに笑顔を返してきた。
「いいぜ。門を越えて来いよ。とっておきの場所につれてってやるよ」
「駄目よ。あたしじゃこの門越えられないもの」
 笑顔に応える佐原祥子の顔は暗い。
「だからお願いしてるんじゃないの。あなたのその翼で、あたしもここから連れてってよ」
 翼の一言に、再び紡城由岐斗がキョトンとした顔を見せる。
 それでも、紡城由岐斗はかなり聡明であるらしく、佐原祥子が言わんとすることをきちんと理解したようだった。
 そしてやわらかな笑顔を浮かべたまま、きっぱりと言い切った。
「無理だ」
 簡潔な拒絶に佐原祥子の身体が揺らぐ。
「確かに俺は翼を持っちゃいるが、天使ではない。お前の心は救えない。そこから出たいのなら、自分の翼ではばたけよ」
 言い捨てて、紡城由岐斗は去っていく。
 残された佐原祥子は、茫然自失の態で昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いた。



 三日後。なんとか我を取り戻していた佐原祥子は、変わらない日常を過ごしていた。
 決められた時刻に起床し、同じ電車で学校に通い、時間割通りの授業を受ける。
 相変わらずの退屈な日々。
 しかし、その日々を送る佐原祥子自身は少し変わっていた。
 紡城由岐斗に置いてけぼりにされた後、激しく後悔したからだ。
 どうして自分はあんな馬鹿なことをしてしまったのだろう。そんなこと誰に出来るはずがない、と冷静に考えればわかるはずなのに。
 彼は良いことを言った。天使ではない。その通りだ。
 たとえ翼を持っていたとしても、万能ではありえない。ひとの身であればなおさらだ。
 ならば、翼は自分で手に入れるしかない。赤点だなんだと嘆いている場合ではない。
 やるべきことを見出した彼女にとって、常の日々に閉塞感を感じることなどなかったが、今度は逃げる為ではなく、辿り着く為に空を見上げる回数が増えた。
 そして佐原祥子は強く決意する。
 いつか、自前の翼を自力で手に入れてみせる。
 その翼で、大空にはばたいてみせる、と。



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1 コメント

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拝見しました♪ (未来斗)
2008-04-05 17:38:21
こんにちわ♪はじめまして。未来斗といいます。
貴方様のの小説を拝見いたしました。
すばらしい作品だと思います。
実は、私は小説投稿系のサイトを運営してるのですが、
私のサイトで貴方様の小説を連載していただけませんか?
お願いです。無理ならかまいませんが。
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