~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

医療費削減ではなく、病気を減らすという視点での行政を

2008-05-21 00:04:49 | 医療へのひとりごと
毎年の医療費に30数兆円の財源を費やしている / このままでは国家の破綻(破産)。
とても大きくて難しい問題ですので、私などが触れることができる次元ではありません。

ただ、こうして一年以上にわたり....側弯症というひとつの病気を勉強してきただけ
ですから、ここで考えついたことが、全ての病気に当てはまるかどうかはわかりません。
でも、いまのままよりは、少しでも前進できるのではないか、と思うことがあり、
意見として記させていただきます。

--------------------------------------------------------------------
新聞紙上等のニュースを読むと、行政府からでてくる政策/メッセージというものが
すべて「財源がないから医療費を削減する」「医療費を削減しないと国家財政が破綻
する」という、お金の話だけなのですね。

政治家はもとより、厚生労働省に働く官僚、職員の大半は医学(臨床現場、研究者等)の
背景を持たない人たちであり、目の前で「仕事」として財源を減らせという指示が
財務省からだされると「削減」ということだけに頭を集中するしかなくなってしま
うのだと思います。

感情論的にいえば、本末転倒ですね。

医療費削減の為に保険証を取り上げる→病院に行けない→病気が悪化して死亡

国民を守ることが義務のはずの「国家権力」がすべきことでないはず.....
でも、こういうことは今に始まったことではなく、国というものが成立して為政者
がいて、政治という次元で物事が動いていく限り、過去にも類似したことはあったし
これからも変わらずに似たようなことは繰り返されるのでしょう。

ただ、感情論だけでは現実は変わりません。現実を変えるのは、やはり具体的な
方法論であり、実践によるしかありません。

.....................................................................

病気を減らせば医療費は削減できる
あるいは、病気を悪化させなければ(手術に至らせなければ)医療費は削減できる

そういう視点/切り口で、医療というものを分析し、実践できることを少しづつでも
いいから、実施し、そういうメッセージを国民に流す。という努力を忘れているので
ないでしょうか?


病気を減らすには何が必要か ? 病気→診断→治療→医薬品/医療機器→手術/入院
こういう発想ではなく、それ以前の疫学調査も含めて、ある病気の発症以前から
発症→各種治療方法→治癒又は死亡にいたるまでの「エビデンス」を集める。
Evidence based medicine エビデンスベースドメデイシン (EBM)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E6%8B%A0%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%84%E3%81%9F%E5%8C%BB%E7%99%82
根拠に基づいた医療、が求められているとはよく耳にする言葉ですが、では現実の
医療現場で、どれだけのEBMがあるでしょうか?

分野、分野によりEBMとして確立されたものもあると思います。ほぼEBMとして認められた
ものもあると思います。EBMに近いものは、たくさんあると思います。
でも、それらも新しい知見が得られることで変わるものです。医学は日進月歩です。

平成20年5月17日朝日新聞「骨折リスク遺伝子で予測」という記事が掲載されて
いました。記事によれば、骨折の危険因子と考えられてきた骨密度との関係は特に
認められなかった / 遺伝子解析でリスクが高いとそれた人は5割が骨折、低い人は
1割が骨折 / 患者の体質と状態で骨折リスクが3段階に分けられることがわかった /
リスクに応じて薬を選んだり、生活指導できる

骨密度(の低さ)と骨折との相関性がほとんどない、というのはこれまでのEBMを
覆すことになると思いますが、このように、医学は、新しい発見により、これまで
信じられてきたことが全く逆転することも珍しくはありません。

私は、このブログの中で、米国NIHが側彎症治療における装具についての大規模な
臨床試験(治験 : IDE)が実施中であることをご紹介しました。
「心の弱さにつけ込む卑劣な手口 なぜ整体を勧めるのか?」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/140434c80f4deb99afb5d462802248e4

この臨床試験の根底にあるのは、年間4000症例以上実施されている米国内での思春
期特発性側彎症手術を減少させようという意図がこめられています。また装具の
効果的治療方法を確立させようという EBM づくりを目的としています。
EBMが確立し、装具療法の効果的対応が判明すれば、こどもたちにとっても朗報で
あると同時に、手術数を減らすことに直結しますから、医療費削減に繋がるわけです。

上述の「遺伝子で骨折リスク予測」は、東京都老人医療センターの森聖二郎内科部長
が遺伝子解析のシステム開発をベースとして、“患者112人の協力で血液を採り、
1年以上、背骨の圧迫骨折との関係を調べた”という地道な調査から得られたEBMです。

私は、先に医療行政シリーズ No.5[学者の研究が審査に影響?]で、机上で得た研究
の危うさについて書かせていただきました。皆さんにもおわかりいただけると思い
ますが、机上のデータはEBMではありません。医学におけるEBMとは、この森先生の
ような現場に根ざした研究を EBM というのです。そして、なぜか、この日本では
このような研究が行政府からかえり見られることは、まずありえないのではないで
しょうか。そこが日本の医療行政の弱さであり、欠陥と言いたい。

EBMの重要性については、ご理解いただけたと思います。
では、そのEBMを構築するためには何が必要か、ということですが、これには端的
には、エビデンスレベルの高い「臨床試験」つまり、ランダム化比較試験が求め
られるわけですが、残念ながら、日本ではこのランダム化比較試験実施を受け入れる
国民の理解が非常に低い状態にあります。
このあたりに事情は、ネット検索にて、「ランダム化比較試験 問題点」というよう
なキーワードで見ていただきたいのですが、おそらくは宗教観や犠牲的精神という
ような日本人の心の内面、メンタリティに深く関係してくる問題なのだと思います。

グーグルで[わが国の臨床研究の現状と課題]で検索しますと、このタイトルのPDFを
ダウンロードできますので、それを参照していただきたいのですが、これを見ますと
いかに日本が欧米諸国に比較してランダム化比較試験の数が少ないかがわかります。

厚生労働省は治験五カ年計画で国内治験活性化策をいろいろと打ち出しているよう
ですが、私は、この問題の背景にあるのは、基盤(インフラ)の問題もそうでしょうが、
それ以上に日本人のメンタテリィにいかに訴えるかにかかっていると思えます。
それには長い年月がかかるでしょう。例えば、脳死/脳死者の臓器移植/小児におけ
る臓器移植なども問題の根底は同じでしょう。これらが理解され受け入れられる
までには、10年単位の年月がかかります。

それでは10年後にならなければ、EBMは構築できないのか? いまの日本で何かできる
ことはないのか?

ひとつの方法は、市販後調査制度を充実させることだと思います。
現在も、PMDAによる安全対策業務が行われています。
http://www.pmda.go.jp/operations/anzen/outline.html
医薬品副作用報告 / 医療機器不具合報告制度もあります。
http://www.info.pmda.go.jp/fukusayou/menu_fukusayou_attention.html

しかし、これら副作用報告/不具合報告は、「発生した副作用、不具合」を医療機関
や医薬品/医療機器メーカーからPMDAに報告させる、というシステムであり、これ
自体の目的においては、妥当なのでしょうが、医学におけるEBMにはなりえません。

今回、VEPTRの早期認可を求める署名嘆願運動の開始から、日本の認可制度の問題点
などをずっと調べているのですが、その中で、思いついたのは、EBM構築と承認審査
(認可)とを表裏一体の形にできるだろう、ということです。

PMDA審査部(審査官)には、何を基準として製品を審査していいかがわからない、
という背景を持っていると思えます。その結果生じたのが、ドラッグラグ/デバイスラグ
問題であり、VEPTRもその渦中におかれているという状態です。そして、VEPTRに
代表されるように、多くの医療機器(特に体内に埋埴して治療するインプラント)は
欧米ではすでに認可をうけ、使用されているにも係らず、日本では審査が進まない
、という問題。

審査官の内面には、エイズ裁判の影響から「怖い」「石橋を叩いて渡らない」
「リスクの残存する製品は認可させたくない」という心理が働いていると想像でき
ます。欧米諸国のように、審査官に免責のない日本ではその心理も当然だと思います。
また、免責なしに「審査」と「その後の製品トラブルに対する責任」を個人に課す
という今の日本の法体系は間違っていると思えます。

そこで、彼ら審査官を安心させ、かつ今後の治療における EBMが構築ができ、
そして、早く認可を得たい医薬品/医療機器メーカーにとってもメリットのある方法
が、市販後調査(あるいは市販後臨床試験)制度の活用です。

これは法律を改正せずとも、いまの薬事法体系のなかに明文化されています。
ようは、行政がどう運用するか、という問題だけだ、というのが最大のポイント
です。

イメージするのは、次のような運用方法です。

新製品申請
→PMDAによる審査(基本的にFDA審査と同じ期間内でレビュー)
→製品リスクに応じて、パネル会議にて専門家からの意見を聞く
→リスクに応じた認可条件を付与して認可を与える(基本的にFDAと同じ期間内で
 レビューして認可or非認可決定する)
→認可を得た企業は市場で販売できると同時に、市販後調査(または市販後臨床
 試験)を行う
→年次報告の提出
→PMDA/MHLWによる再審査
→問題がある場合はパネル会議にて専門家からの意見を聞く
→継続販売認可または販売停止

実は、この方法論は、すでに多くの方々が発表しています。PMDA/MHLWの方々も
このような方法があることは既知のことでしょう。FDAはこのような方法で審査制度
を運用しています。

この方法の一番のネックは、最初のPMDA審査にあります。現状はここで止まって
しまうわけです。それを解消するには、法的に審査時間に制限を加えるしかない
と思います。それと、定期的に審査内容を各界の専門家と患者団体や市民団体の
代表者などを交えた会議の場で、審査のやり方をレビューしていくことだと思います。
いまは密室になっていることが最大の問題です。申請する側はやはり許認可権限を
もつPMDA/MHLWに対しては弱い立場ですから、PMDAがどういう審査をしているかの
詳細な情報までは公開してくれていません.....匿名メールで理不尽な質問が多い
という愚痴は聞くのですが。

審査官を教育せよ、という意見もあるようです。そういうことも含めて、情報公開
により、日本人にとってはどういう審査が適切であるかについて、様々な立場
(行政、臨床学会、看護師、基礎医学研究者、患者団体、市民、法律家等々)から
の意見を聞くことも必要だと思うのです。

上記システムの核になるのは、早期にレビューして認可を与える / ただし残存する
リスクに応じて、承認条件を付与する。という点です。

承認条件としては、例えば、次のような考え方があると思います。

1.リスクの比較的低い製品 ....市販後調査(副作用または不具合発生率1%に達する
 まで市販後での臨床データをメーカーは収集して分析報告すること)
 (ただし、販売後1年間を経過して収集しても、1%に達しない場合は終了とする)
2.リスクの中等度の製品 ......市販後調査(副作用または不具合発生率1%に達する
 まで市販後での臨床データをメーカーは収集して分析報告すること)
(ただし、販売後3年間を経過して収集しても、1%に達しない場合は終了とする)
3.リスクの高い製品 ..........市販後臨床試験(収集する症例数を設定して、
 有効性もしくは有益性と安全性データをGCPにもとづいて収集する。半年ごとに
 集められたデータを分析して報告する。計画書にもとづき最終報告をまとめて
 再審査をうける)

患者にとって何が最優先するか、それは安全かどうかということです。ですから
PMDAでの最初の審査はその点がメインで十分でしょう。そして良い製品は早く認可
して、市販によって市場で評価してもらう。年次または六ヶ月報告で問題が発見
されたら、その時点でパネル会議の意見を聞いて、必要があれば認可取り消し、
あるいは、販売を停止させてメーカーに対応策を求める。メーカーが販売を継続
したければ、あらためて治験なりを実施して有効性安全性を示して再度申請させる。

いかようにでも、運用は可能なはずです。いまの審査制度にも、日本人の頭の中にも
医療はリスク評価だ、ということが認識されていない (安全至上主義)ことが様々な
面での弊害をうんでいます。
その製品がどういうリスクを持っているのか(残存しているのか)、それに対して
どういうベネフィットが得られるのか。それを患者も知るべきであり、医師も明確
に伝えられる情報を得ていなければなりません。

リスクリベル1の製品として認可されたものである、とかリスクレベル2の製品
として、リスクレベル3の製品として認可された。ということが医師と患者に明確に
わかれば使用側の医師(患者)は、それを治療として用いるか、それとも既存の別の
製品なりを用いるかを選択するチャンスに恵まれます。

これは現在の4区分による製品クラス分類とは別の発想で、例えば、クラスIIIの
人工股関節でも、リスクレベル1で認可することはあり得るわけです。

そして、もうひとつこのシステムが目指しているのは、治療方法による結果の
エビデンスがデータとして蓄積される。ということです。

例えば、先の「整形外科インプラントの不具合データ」を例にとるならば、
あれからは、治療そのものは何も判断できる資料にはなりえません。それに対して
市販後調査という形であれ、さらには市販後臨床試験であれば、(プロトコルの
内容により異なりますが) 患者背景/治療内容/治療成績/副作用又は不具合内容
etc が生のデータとして蓄積されていきます。生きたデータベース、リアルタイム
のしかも、日本人の日本の医療現場での臨床データが蓄積されていくわけです。

仮に人工股関節Aと人工股関節Bがあったときに、PMDA/MHLWは、それぞれから上がっ
てくるデータ(年次報告)から、製品固有の問題を見つけることができるかもしれ
ませんし、人工股関節というセグメントとしての問題なりを発見できるかもしれ
ません。あるいは、リスクよりもベネフィットのほうが大きいと認識するかも
しれません。そこから、PMDA審査官の審査するポイントがどこにあるか、という
目が養われていくことにも繋がるでしょう。

もしも、経過観察データが5年必要であるならば、5年フォローを、10年必要ならば
10年フォローの義務を認可条件にすることも可能なはずです。
それこそが、医師側も、行政も、そして患者側も知りたい部分、つまりEBMです。
そのデータはやがて、メーカーが新しい製品を開発したり、申請するときにも役立ちます。

ネット検索をすると、日本の医療産業を育てるためにも、世界市場で販売できる
ようにするためにも、産/官/学の協力が必要だという話があふれています。
その為の施策や、研究も進められているようですが、そのプロジェクトにはPMDAに
よる審査の部分がすっぽりと抜けているように見えます。
JIS化が必要とは、国際時代に逆行する議論であり、長い目で日本という国に変化
をもたらす為に、そして、いますぐにできることは、上記のようなシステムで
臨床におけるEBMを構築していくこと。臨床におけるデータベース(例えば死亡にいたる
までの長期スパンでの疫学的調査も含めたデータ)を構築すること。そのための
財源は、製品から利益を得るメーカーに課すことで賄えるわけです。メーカーに
対しても、構築したデータベースを利用することで、申請における要求資料を減ら
すことを審査制度に組み込めば、彼らにとってもメリットは生まれます。

そして、これらのデータベースにさらに、疫学調査を組み合わせることで、
病気それ自体を減少させる方法も生まれる可能性があります。
例えば、糖尿病を減らすのに、体質が影響しているのか、遺伝子が影響しているのか、
食生活が影響しているのか、様々な要因をもとに、長期スパンで疫学調査に協力
してくれる人たちを探し、登録し、データを構築していく。やがて、その人たちが
実際に糖尿病で治療することになったとき、新製品の医薬品Aを処方したとしたら
その医薬品Aメーカーは、治療以前の患者背景データを入手し、治療後のその患者の
データを調べることになります。仮に、その医薬品Aの市販後調査の条件が、患者の
死亡までであったとしたら、医学データとしては、膨大かつ有益なデータを構築
できるはずです。そこから、病気自体の新しい治療方法が生まれる可能性もある
わけです。病気自体を予防する為のEBMを構築する可能性もあるわけです。

もちろん、私は疫学調査の専門家ではありませんから、それが方法論として正確か
どうかはわかりません。
しかし、医療費を削減するというそのことだけに捕われていたのでは、病気が減少
することは永遠にきません。高齢者ゆえに罹患しやすい骨折も、遺伝子検査により
その人のリスクレベルが判明すれば、それに応じた事前の予防もできるように、
全ての病気では無理でも、病気によっては、上記のようなシステムを運用すること
で、病気自体を患者自体を減らしたり、手術にまで至らせない方法を見いだす可能性は
あるはずです。

ネガティブなメッセージよりも、そのような、ポジティブなメッセージを国民は
求めているのではないでしょうか。



//////////////////////////////////////////////////////////////////////
ブログ内の関連記事
「学者の研究が審査に影響している ?」
 医療行政シリーズ No.5
 http://blog.goo.ne.jp/august03/e/86e1a33757782596a6b72d8e3cdcbbc0

「ISO 13485のコンセプトが機能しない日本の審査制度 ?」
 医療行政シリーズ No.4
 http://blog.goo.ne.jp/august03/e/1566984f5e3afa797007f69f9c99a242

「医療機器審査期間 500日以上 ! ?」
 医療行政シリーズ No.3
 http://blog.goo.ne.jp/august03/e/d6f05bcf3ebea4a03ede685845dac44b

「ひとつの仕事を達成するには2年は短すぎます」
 医療行政シリーズ No.2
 http://blog.goo.ne.jp/august03/e/6a2ceac56fb5ed50f0170c0cb144978e

「新しい法律を求めて 人道的必要性を有する希少疾病用医療機器」
 医療行政シリーズ No.1
 http://blog.goo.ne.jp/august03/e/b99a086d250884721f9ad030101adf6d


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 学者の研究が審査に影響して... | トップ | VEPTR嘆願運動の輪を止めない... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療へのひとりごと」カテゴリの最新記事