~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

安全な脊椎手術を求めて

2011-06-19 07:39:24 | 脊椎手術術中モニタリング
教えてください (中2女子の母)

2011-06-19 00:40:20

august03様。身体の具合はいかがでしょうか。ずっと書かれないあいだあったので、心配しておりました。娘がニ年前に側わん症と診断されて以来こちらのブログで勉強してまいりました。不安でいっぱいでしたが、勉強することで頭がおかしな方向にいくことがなくここまでこれたのは本当にaugust03様のお陰と感しゃしております。残念ながら、娘は進行性でやはり手術をすることになり、この夏休みを計画しています。先日のお話に神経モニターのことが書かれてございましたが、娘が通っている大学病院では、神経モニターはまだ使用していないけど、心配ないという説明でした。しかし不安になり、august03様にお聞きしたいと思い、書かせていただきました。神経モニターがないとどういうことが起こるのでしょうか。時間も迫っており、病気が見つかったとき以上に不安でしかたありません。よろしくお願いいたします。
中2の娘の母

ご投稿いただいたコメント欄への回答として下記を記させていただきます。
私august03は、基本的に医学を信じ、医療現場で働く先生がたの努力、コメディカルの皆さま方の献身に敬意と感謝を捧げる立場であることをご理解いただきたいと思います。このStep by stepの基本基調も、その姿勢で、先生がたと皆さま方を、医学の現実と可能性をベースとして結びつける役目を果たすことができれば、という思いで書き続けてまいりました。側弯症という病気治療に対して、最終的には外科手術が必要となる、ということから、「手術」とはどういうものであり、どういうリスクも現実に存在するか、ということも、できるだけご理解いただけるように説明してきたつもりです。手術には必ずリスクが伴います。ですから、できれば手術をしなければしないで済む方法......つまり、それが側弯症の場合は、装具療法ということになりますので、装具治療についても多くの情報を集めてまいりました。
しかし、最終的には、手術による外科治療が選択されなければならない、という局面があるわけです。

ここから先の記述は、私august03の私的意見、個人的見解となります。医学的根拠や客観的事実があるわけではありません。ですから、間違っている可能性もあります。それを踏まえてお読みいただきたいと思います。

脊椎手術に限らず、「外科手術」は医師の技術力(知識、経験を含めた技術)が80%、医療環境(手術に関与する他の要素)が10%、患者さんの状態(重篤な状態-手術が難しい状態なのか)が5%、そして、運が5%。医学の世界に「運」ということばを用いるのは奇異な感じを受けるかもしれませんが、例えば、どこの病院を選択するのか、どちらの先生に手術してもらうのか、そういう選択をするのも「運」のひとつだと思ば、ご理解いただけるのではないでしょうか。もちろんそれだけに限らず、「不測の事態」というものはありえます。それも「運」という言い方をせざるえないと思います。

 医師の技術力 80%
 医療環境    10%
患者さんの状態  5%
 運命       5%

患者さん、そしてご家族の方が、安全な手術を求めてできることは、どこの病院(どちらの先生)で治療してもらうかの選択(選択の為の情報収集)、そして、手術の難易度があがり困難な手術になるほどに「進行」「悪化」する前のタイミングで手術を決断する。という「タイミング」の選択。カーブが50度のときの手術と、100度の手術では、その難易度は大きく異なってきます。1才のこどもや、90才の方への手術と、10代~20代の方の手術では、やはり困難さや、不測の事態の発生率は大きく違います。そういうことを検討するのが、皆さんの責任の範疇になると思います。

先生がたが、不断の努力で技術を研さんし、学習し、知識と経験を増やすことに日々つとめている。という事実も、皆さんにご理解いただきたいと思います。ですから、例えば、なに何の手術なら、なに何先生のところ、なに何の治療なら何何先生のところ、ということが事実としてあり、そういう中で側弯症の場合であれば、全国から先生がたが、名城病院に手術技術を学ぶために手術研修をされたり、手術の見学に訪れたりしていると聞きます。ドクターの世界も古風で、ある意味で、権威主義の.....簡単な言葉でイメージしていただけるならば、「白い巨塔」の世界、テレビドラマなどでよくみかける「俺が最高だ」という医師がいる世界というのも事実です。 でも、それが決して患者さんにとっては良い世界ではないことは、自明の理です。 もし、皆さんのお子さんを診ていて下さる先生が、名城病院で手術技術を学んだことがある、という先生でしたら、その先生は、白い巨塔の世界を抜けでた、患者さんの為に技術研鑽をしようとされてる先生だと思います。そのような不断の努力による技術力が果たす割合が80%ということです。
でも、それだけでは 100%にはなりません。

手術という現場では、「医療環境」の果たす役割が非常に大きい、というのも現実なのです。TVドラマ「仁」が劣悪な状態のなかで、患者さんを手術により救っている姿を見るのは、とても感動的で、すがすがしいものがあります。しかし、現実の手術はテレビの世界のようなわけにはいきません。
手術にいたる以前の「診断」の段階においても、レントゲン写真だけで判断するのか、CT撮影をするのか、MRI撮影をするのか、その他さまざまな検査方法がありますが、適宜必要な診断方法がとられるのかどうか....そういう医療設備を有する病院なのかどうか、というところから始まり、手術室においては、ここにも様々な患者さんを守るための設備、医療機器が数多くあります。.....あるかどうか、という次元の話になるわけです。つまり、それは、さきほどの「運」ということとも繋がる話ということになります。

 ここで、脊椎の具体的な話をしたいと思います

 

 これは脊椎の解剖図ですが、脊椎手術が他の整形外科手術と大きく異なる点は、手術をしている部位が
 「脊髄」と「神経」のそぐそば、直近である。あるいは、それ自体に対する手術をする外科治療。という点です。
 脊髄や神経にダメージを与えてはいけない手術であり、仮にすでにそれらが痛んでいる場合でも、それ以上の悪化を与えるような手術では困る。という、いわば、医師の立場からすれば、かなり「しんどい」立場で手術に取り組まなければならないのが脊椎手術ということになります。 (付則のことになりますが、手術以前にすでにダメージを受けた脊髄や神経は、手術では治らない、と考えて下さい。圧迫を受けた神経が手術により解放され、痛みやしびれが軽減することもありますが、軽減しないこともあります。それが5%の患者さんの状態と、5%の運の範疇に入ります)

 

 上図のような写真や、画も、多くの皆さんが目にされていると思います。
この図自体は、側弯症手術自体ではなく、たえとば脊椎すべり症とか、変性性脊椎症などで「後方固定術」を模擬した図なのですが、側弯症手術でも基本は同じ形態となります。つまり、ペディクルスクリューと呼ばれるチタン製スクリューを左右の椎弓根に挿入し、それを土台として、上下の椎体を締結するための金属性ロッドを橋渡しし、それらを締結することになります。側わん症手術の場合は、このスクリューが左右で各10本づつとかに並び、それを左右各1本づつの長いロッドで締結して、その構成体(コンストラクト)をそくわんの矯正させたい方向に曲げたり、押したり、引っ張りっしながら、真っ直ぐな脊柱を獲得するための土台となるわけです。
このときに、さきほどの上図の解剖図と比べていただきたいのですが、脊椎手術の持つリスクが読み取れますでしょうか?

 脊椎手術がリスクを持つのは、すぐそばにヒトの身体の動きと機能をつかさどる「脊髄」が上から下へと走っており、そして、その脊髄からは、各椎体ごとに神経が身体の左右にむかって走っている。このダメージを与えてはいけない脊髄、神経のすぐそばに「スクリュー」を打ち込まなければならない。というまさにその点からリスクを負っているわけです。スクリューを打ち込まなければ土台作りができず.....それは矯正ができない、ということを意味します.....そして
そのスクリューを打ち込むことは、ちょっと手元が狂えば、脊髄、神経にダメージを与えることになる。という危険性を内在しているわけです。 これが脊椎手術の有する第一義的なリスクということになり、これは全ての脊椎手術、つまりそくわん症に限らず、このようなスクリュー固定を行う脊椎手術すべてにおいて言えるわけです。

脊椎手術に限らず、「手術」あるいは「治療」ということには、100%の安全というものはありません。100%の安全を求めること自体に...... これは、一種の哲学的言説になりますが、この世界に「100%」というもの、逆に「ゼロ」というもの自体が存在しない。ということと同じく、100%の安全を求める、ということ自体が無理なのだ。ということをまず皆さんご自身も「覚悟」されて「手術」にのぞんでほしいと思います。こういう言い方をしますと、恐怖心をあおっていることになるのかもしれませんが、医療現場をある意味で「いびつな影」で覆っているのは、医療は100%安全なもので、手術は100%安全で、何か不測の事態が起こると「医療ミス」という言葉で全てをくくってしまう。そういう風潮があり、そして医療の現場を警察が捜査し、手術結果を刑事事件として扱う、という異常な状態を作り出しているのも、すべての根底において、「100%」という幻想が存在するためです。

私august03は、上記において、必死に先生がたをとりまく異常な環境について擁護させていただきました。この幻想はまさに異常な幻想であり、その意味で、私は医療で働く皆様を擁護したいと思うのです。
と、同時に、先生がたにも、安全を追及して欲しいと願うものでもあります。

 
 
 
 

ここに引用した四枚の写真をご覧になられても、素人のかたにはちょっと何がどういう意味の写真なのか、おわかりにはならないと思います。
実は、これら四枚の写真は、すべて、スクリューの挿入方向を間違えているのです。間違えたことにより、脊髄や神経へのダメージを与える危険性が高まっている。そういう写真なのです (すでに神経障害を起こしているものもあります)

発生率は非常に少ないものですが、こういうミスは実際に日本でも発生しています。ペディクルと呼ばれる骨にスクリューを挿入する技術というものは、そんな簡単なものではありません。ゆえに、技術の研さんが必要なわけであり、先生がたはそれを学ぶことに必死であり、さらに技術を高めようと努力されているわけです。

しかし、それでも、こういうことは起こりえます。なぜなら、100%の技術というものもありえないからです。人類の歴史とは、哲学的には完全なものなどありえないはずのところに、それでも完全を求めて挑戦を続ける歴史ともいえます。そしてその不完全を、できるだけ完全なものに近付けるサポートとなるものが「医療環境 = 医療機器による技術サポート」ということに繋がるわけです。

神経モニターというのは、医療機器の一種で、その中でも手術中に使用するものを「術中の神経モニターリング機器」と呼びます。その原理は、また別の機会にこのブログにてご説明させていただきますが、この術中神経モニターを使用することで、上に掲げたようなスクリュー挿入のミスを防ぐサポートができます。

ただし、国内では「神経モニター」といいますと、MEPと呼ばれる「脊髄の運動機能」へのダメージを防ぐためのアラーム機能として利用する機器、あるいはSSEPと呼ばれる「脊髄感覚機能」へのダメージを防ぐためのアラーム機能として利用する機器が使用されていますが、上写真のようなスクリュー方向のミスをアラームする神経モニターはまだ使用は限られた病院でしか用いられていません。脊椎手術において MEPによる神経モニターを使用している。と先生が言われた場合は、そちらの病院は安全のためのコストをちゃんと考えている病院と言えると思います。もし、神経モニターはまったく使用していない、という場合は、それはおそらく次の理由のいずれかによると考えられます。

 ・医師は必要と考えているが、病院側の経済事情の為に導入(購入)できずにいる
 ・病院には神経モニターはあるが、使用できる検査技師がいない
 ・医師が必要とは考えていない (過去何十年も手術をしてきて一度もミスしたことがないから)

安全とは、つまり「コスト」との裏表の関係になります。例えとして卑近ですが、福島の原発事故はまさに安全とコストとの関係を示す代表的な例と言えます。そんなこと起こりえない、起こりえないことに(起こりえないリスクの為に)金をかけて安全策を講じる必要はない。そして、起こりえないことが起こった。

いま、どこの病院も赤字を抱え財務状態は芳しいものではありません。ですから、先生が欲しいと思っても、必要だと思っても、すぐに最先端の医療機器を揃えるということは非常に難しいものがあります。そういう現実のなかで、どうやって医療の....つまりは患者さんの安全を守るか ? ということで先生がたも頭を悩まされているのが実態です。それはまたは、皆さんにとっても切実な問題でもあるわけです。
私august03にとっても、そのような病院事情がわかるだけに、どういう解決策があるとも示すことはできません。ここで言えますことは、少なくとも、例えMEPやSSEPだけであれ、神経モニターを使用している病院を選択されるのが、安全な手術の確率を高める道に繋がる、ということだと思います。

先生がたのなみなみならぬ日々の努力に感謝するとともに、ぜひとも、さらに患者さんの安全を高める方策として、神経モニターが国内でも普及することが期待されます。国内でも筆頭の手術技術を持つ先生として有名な名城病院の川上先生は、さらに安全な医療を患者の皆様に提供するために最先端の神経モニターを使用されているという話です。技術に100%はありえず、安全に100%もありえません。だからこそ、その100%に近づくための努力と手段を講じることが、いま求められているのだと思います。

august03

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2 コメント

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69歳の母 (MaliEli)
2011-06-27 09:30:08
69歳の母が手術を受けることになりました。1回目は骨の癒着を取る手術。2回目は後ろからスクリューを入れて固定する手術です。現在1回目の手術が終わったところですが、右足がマヒ状態となってしまいました。脊髄に造影剤を入れてみたり神経科の専門医に見てもらったりしておりますが、右足が動きません。執刀して下さった先生も困惑しており、2回目の手術は延期になったままです。こんなに辛い痛い思いをして1回目の手術をしたのに、このまま何もしなければ、1本の足を失い、且つ状況は何も改善しないままになってしまいます。この麻痺は直る見込みはないものでしょうか。2回目の手術は行うべきなのでしょうか。本人を含め家族が絶望の淵にいるところ、貴殿のブログを見つけ、思わずコメントをしてしまいました。何かアドバイスお願いします。
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Unknown (みやこ)
2011-06-20 15:14:28
いつも参考にさせていただき感謝申し上げます。

便乗で申し訳ないのですが、我が家も手術予定の子供がいます。
手術予定の病院ではナビゲーションシステムはないのですが、神経モニタリングは導入されていると聞きました。

どのような違いがあるのでしょうか。
また、ナビゲーションがなくても特に問題はないのでしょうか。
お忙しい中申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。
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