いつも不機嫌なプルートゥの顔が、なぜか機嫌よさそうに見える。
(これより我が名にかけて、ミスティラの裁きをおこなう。アストロラーベよ、代理の神官として神事を執り行うがよい)
ミスティラをかわいがっているアストロラーベに、この役は酷であった。
しかし、マクミラ無き今、最高位の神官の地位をついだミスティラを裁けるものなど、元神官の経験を持ち、冥界親衛隊の軍師役の彼以外にはなかった。
実の兄によって妹が裁かれる場面に、プルートゥは興味津々だった。
(ミスティラ殿、何か言い残したいことは?)
ミスティラが、はかなげでかよわいが、きっぱりとした思念を伝える。
(アストロラーベ様、何も申し上げることなどございません。一刻も早く罰を受け、我が眷属にこれ以上の恥をかかせずにすませたいと願うのみ)かわいらしい顔に不釣り合いな“ドラクール”の眷属の証、鋭い八重歯がキラリと光る。
(殊勝な心がけである)
頭が暗い闇になっているために、青白いドクロの面をかぶっている死神タナトスに、アストロラーベが思念を送った。(魂百万裂きの刑を執行せよ!)
もはやミスティラの運命は風前の灯火と、誰もが思った時。
ミスティラの首を落とすため持ち上げられた大鎌の動きが、止まった。
何かが、ミスティラの両手の間にいることに気づいた。
最初、それが何か誰にもわからなかった。
八咫烏(やたがらす)のやや子であった。
さらにミスティラの周りに、吸血コウモリや黒猫、ジャッカルなどのファミリア(使い魔)たちが集まってきていた。吸血コウモリと黒猫は悲しみの声を上げ、ジャッカルは悲嘆の叫びを上げ、八咫烏は血の涙を流した。次々と、冥界中のファミリアたちが処刑場に集ってきて、元々暗い冥界の空が真っ暗闇になりつつあった。
彼らの意図は、はっきりしていた。
ミスティラの助命嘆願である。
冥界の住人なら、絶対に逆らうなど想像することさえかなわぬプルートゥの決定に命がけで反対の意志を示していた。
誰にも情け容赦のない死刑執行人タナトスさえ、途方に暮れていた。
(ファミリアたちに好かれていることが幸いしたか・・・・・・愚か者に冥界中のファミリアを殉じさせるわけにはいかぬ。処刑は中止とする!)プルートゥが面倒そうに、思念を送る。
それまで一切の表情を示していなかった父ヴラド・ツェペシュの顔に、安堵の表情が浮かんだような気がした。
(だが、ミスティラよ、無罪放免とはいかぬぞ! 後であの時、魂百万裂きの刑になっておけば楽だったと思うかもしれぬ。最高神会議で、マクミラに助太刀を送ることになった。冥界からは、お主が行くがよい!)
(ありがたき幸せに存じます。プルートゥ様のご厚情に感謝いたします)
数百万のファミリアたちが、ミスティラの無事を知りよろこび、周りを駆け回り飛び回っている。ミスティラは、処罰をまぬがれたことよりファミリアたちへの感謝と敬愛するマクミラのところに行ける喜びに胸がいっぱいになった。
(よろこぶのは、まだ早い。人間界で肉の姿を持つ存在となれば、精神体なればこそ途方もなく長い時を生きられるお前らも、1日ごとに60日分の歳を取り、1年ごとに60年の歳を取る。限られた期間内に魔女たちを取り除かねば、人間界で100年と経たずに朽ち果てる。その覚悟はできているのか?)
(もちろんでございます)
(おそれながら、プルートゥ様、私めに願いの議がございます)アストロラーベが思念を発した。
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