(なんじゃ?)
(ほとんど戦闘能力を持たぬミスティラを送り込んでも、足手まといにはなっても助っ人にはほど遠いかと)
(それでは誰が適任と申すか?)
(妹の汚名をそそぐは兄の使命かと)
(うるわしい兄妹愛よのう)
愛か? またしても、ここで・・・・・・思わずアルトロラーベが、独り言の思念をつぶやく。
例によって何かよからぬことを思いついたのか、プルートゥが意地の悪そうな笑みを浮かべている。
(ローラよ、愛とはなんじゃ? 満足のいく答えをしたならばアストロラーベの願いをかなえてやろうではないか)
沈黙を守っていたサラマンダーの女王ローラが思念を返す。
(わたくしに・・・・・・愛とは何かと、問いまするか?)
(そうじゃ、あえてお主に問うておる。「愛するとは、お互いに見つめ合うことはなく一緒に同じ方向を見つめること」などと、戯言はまさか言うまいな?)
(サン=テグジュペリとか申す、元飛行機乗りの作家のセリフですね。一緒に同じ方向を見ている振りをして別のことを考えているよりは、まだお互いに見つめ合っている方がマシでしょう。たとえ憎みあっていたとしても・・・・・・)
(我が問い、冥界中の反対を押し切り“ドラクール”との婚姻を決めたお主ならば答えることができよう)
やりとりを聞いて、冥界の住人たちの背筋が凍り付く。
なぜならばローラがヴラド・ツェペシュとのちぎりを結ぶ前、彼女とプルートゥが恋人同士だったことを知らないものはいなかったから。しかし、なぜローラが最終的にヴラド・ツペシュを選んだ理由を知るものも、それを知ろうとするものもいなかった。
誇り高いローラは、投げかけられた質問に答えられない恥辱よりも勇気を持って進むことを選んだ。
(いいでしょう。 愛とは?
シェイクスピアとかもうす作家は、『真夏の夜の夢』で、
「恋は目ではなく、心でみるもの」といったそうですが。
愛とは、論理や倫理にはけっして当てはまらぬもの。
愛とは、喜怒哀楽のどれにも似て、どれとも非なるもの。
愛とは、すべてを奪うもの。だが、奪うことでなにかを与える。
愛とは、苦しめるもの。だが、苦しめることで歓喜を与える。
愛とは、すばらしきもの。だが、すばらしきがゆえに破滅にみちびく。
愛とは、貴きもの。だが、貴きがゆえにはかなくうつろいやすい。
愛とは、愛し合うものがいるときは誰もその価値を知らず、失って初めてどれほど大事であったかを知る)
周りの予想を裏切って、プルートゥが付け加えた。
(そして、愛におぼれたものは相手の醒めることを知り、
より少なく愛するものがつねに勝利を収めるか・・・・・・
愛などこれまで考えたこともなかったが、つい戯れ言につられてしまったわ。よいであろう。褒美にアストロラーベの降臨、認めようではないか)
その時、スカルラーベが思念を発したことはローラには幸運であった。
そうでなければ、いつもなら炎に照り映えて威厳にあふれる顔が血の気がひき青ざめたところを見られていただろう。
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