誤算もあったが二人の最高神の同意を得られて、ネプチュヌスは安堵する。
彼自身もだが、永き時を生きねばならぬ神々の最大の敵は倦怠である。
ネプチュヌスも若かった頃は、力に満ちあふれさまざまないたずらや遊びをしたものだった。
緑の衣に身をまとい真珠の王冠をかぶり七つの海を駆けめぐり、陸や空の覇権を争った頃からすると、自分も丸くなったものだと思う。
神々と言っても年を取れば短気にも頑固にもなる。ゲームを持ち出して二人の倦怠につけこんだようでネプチュヌスは気がとがめた。
だが、第二次神界大戦だけは起こしてはならぬと決めていた。
人間たちの扱いをめぐっての第一次神界大戦時では、人間たちの救済を主張するユピテルと人類絶滅を望むプルートゥの立場が逆であった。あの時はユピテル・ギデオンの雷が四次元空間に降り注ぎ、プルートゥ・ギデオンの業火が百日間にわたり吹き荒れた。その影響は人類の住む三次元空間にまでおよび、結果として九十九万年続く氷河期が引き起こされた。しかも、第一次神界大戦によって結界がゆるんだ結果として、魔界の波動が入り込み四次元空間の住民たちに多大な被害がもたらされた。
ユピテルとプルートゥを必死に仲裁した後に、「揺るがすもの」ネプチュヌスが海底火山を活発化させてようやく地球を居住可能に戻したのである。
ナオミの未来に待つ運命に思いをはせるとネプチュヌスの胸が痛んだ。
しかし、彼らの考えが変わらぬうちにとシンガパウムの一族を呼び寄せる。
「忠義をつくすもの」でマーライオンの勇者シンガパウムと、「うらなうもの」でとびきりの英知に恵まれた マーメイドのユーカの娘たちを神々の中で知らぬものはいなかった。
第一次神界大戦で魔界からの波動攻撃によって命のほむらを散らしながらも神界を勝利に導いたユーカは伝説の巫女であった。最高神たちを前にシンガパウムは、いつもの全体の焦げ茶色に部分的に青のまざった珊瑚礁のよろいに身を包んでいる。
長女アフロンディーヌは祖母や母の後を次いで最高位の巫女の地位にある。今日もコバルトブルーのショールで顔を隠し表情をのぞかせない。その美しさは天界や冥界まで知れ渡っており、これまでに求婚した神々は数知れず。だが、一生を巫女として過ごすと決めており、求愛した神々は己の運命を呪うことになった。
天主ユピテルの玄孫ムーに嫁いだ次女アレギザンダーはセイレーン三姉妹にもおとらない美しい歌声を持ったマーメイド。今日は夕焼け色の鮮やかな衣装に身を包んでいる。海主ネプチュヌスの玄孫レムリアに嫁いだ三女ジュリアは気象をあやつり、シンガパウムと共にマーメイドながらネプチュヌスの親衛隊員だった。闇夜の漆黒の海と同色の戦闘服が一人異彩を放つ。
冥主プルートゥの玄孫アトランチスに嫁いだ四女サラはやさしい性格だった。白波の美しさそのままの純白のドレスがよく似合う。
姉妹のうち、五女ノーマだけがこれまで人間界に行き不幸な晩年を送った。
末娘ナオミはシンガパウムの血を最も色濃く引いており、戦いならマーライオンにもひけを取らない。真珠でできた戦闘服は鮮やかな七色に反射して目立ちたがり屋の面目躍如だった。
大広間ではユピテルが右、ネプチュヌスが中央、プルートゥが左の龍の飾りのついた椅子に座る。中央に呼び出されたナオミの後ろには、親衛隊長シンガパウム、巫女アフロンディーヌ、祖母トーミが朝焼けの光をはらんだ豪奢な色のドレスを着てひざまずいていた。他の姉たちも、呼びつけられていた。
めったにお目通りさえかなわぬ最高神たちの前で、ナオミは緊張の色を隠せない。
天界、海神界、冥界の支配者たちが揃って一介のマーメイドに過ぎぬ自分にいったい何の用か、ナオミには見当がつかなかった。
あるいは、もしやとひとつの可能性に思い当たった時、ネプチュヌスが思念を発した。
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