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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第5章−7 ヌーヴェルヴァーグ・シニア

2019-11-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九七二年秋。ここ数ヶ月でジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグが行った改革は見事の一言に尽きた。

 賠償起訴を乗り切ったジェフは、遊休資産を次々有利な条件で売却し、リストラを徹底的に行った。さらにヨーロッパの製薬会社と提携話を成立させ、あっと言う間にヌーヴェルヴァーグ製薬の業績を回復させてしまった。

 社内の雰囲気も一変した。

「わかるかい。頭のよい者が生き残るでもなければ、強い者が生き残るのでもない。変化に適応出来る者だけが生き残るのだ。ピンチは今まで変えられなかったシステムを変えるチャンスなのだ。だが、ピンチをピンチと認識出来ない者が社内にいたとしたらそれこそピンチだが」

 深夜にしか開かれなくなった会議でジェフが発言すると取締役連中の背筋が引き締まった。お坊ちゃまと思われていた彼からおどおどした雰囲気が消えて自信満々に物事を進めていく。「ジュニア」と呼ぶものはいつしかいなくなり、立派な後継者と社内外で認められるようになった。

 人々はいったい彼に何が起こったのかと噂した。ある者は有能なアドバイザーがついたのではないかと考えた。またある者は悪魔が彼の後ろ盾についたのではないかと真剣に噂した。

 それがジェフのいくところ必ず見かける赤ん坊だとは誰も思わなかった。彼女の足下から三匹の子犬たちが離れることがなかった。彼らは一人前の盲導犬のつもりだった。

 マクミラは折衝の場面でも重要な役割を演じた。

 初めて同席した商談相手は大銀行の融資担当者だった。

「ヌーヴェルヴァーグさん、御社の財務状態が劇的に改善したとかでもなければ互いの時間の無駄ではないですか?」夜間に呼び出されたグルーディホーンは不機嫌そうに言った。生き馬の目を抜くどころか、にこやかに飛び降り自殺者のポケットから借金を取り立てかねない血も涙もない銀行家だった。

「最近、結婚しましてね」

 グルーディホーンは、それがどうした。やけに血色の悪い顔をしているが、とうとう頭がどうにかなったのかと思った。

「それはおめでとうございます。ですが御社の追加融資申し込みとあなたの御結婚と何か関係があるんでしょうか?」

「娘が生まれたのです」

「はあ」なるほど、結婚したのは、そういうわけかという表情が相手に浮かんだ。

「かわいい娘です。どうぞ見てやってください」

 

 

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