アメリカのドナルド・トランプ大統領はシリア北東部の石油を盗み続けるために自国軍によるシリア占領を続けると公言している。アメリカ軍を撤退させるという宣言は事実上、撤回されたと言える。占領を継続する理由として、アメリカの国防総省はダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)から油田を守るためだと11月7日の記者会見で主張した。
それに対し、記者の中から装甲車も航空機も保有しないダーイッシュから油田を守るためにアメリカ軍がいる必要はないという指摘が出た。さらに記者はシリア軍が油田に近づいたら攻撃する許可を得ているのかと質問、それに対して国防総省の広報官は敵対行為に対する「自衛権」は持っていると答えた。
言うまでもなく、シリア政府の承認を得ずにアメリカ軍はシリア領内を攻撃し、地上部隊を侵攻させた。つまり侵略軍にほかならない。自分たちには侵略を続ける権利があると言っているわけである。
油田地帯をアメリカ軍は占領しつづけられるだろうが、盗掘した石油の輸送は誰かに頼まざるをえないだろう。シリアのメディアSANAによると、盗掘された石油をクルドがタンク車を使い、イラク北部を経由してトルコ領へ運び出している。そのタンク車と仮設の石油精製施設をシリア政府軍が11月26日に空爆で破壊した。
ダーイッシュがイラクからシリアにかけての地域を支配するようになったのは2014年に入った頃だが、そうしたことが引き起こされると2012年8月の段階でアメリカ軍の情報機関DIAは警告していた。その時のDIA局長がトランプ政権の最初の国家安全保障補佐官であるマイケル・フリン中将だ。
その報告書はシリアで政府軍と戦っている武装勢力の中心がサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、アル・カイダ系とされるアル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)の存在も記述している。ちなみに、アル・ヌスラの主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団だ。
これも繰り返し書いてきたが、ダーイッシュとアメリカとの関係は深く、その事実はさまざまな人に指摘されてきた。例えばアメリカ空軍のトーマス・マッキナニー中将は2014年9月、アメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで語っている。
またマーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語っている。2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べた。
そして2015年8月、アル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われたマイケル・フリン元DIA局長は自分たちの任務について、情報の正確さをできるだけ高めることにあると反論。その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だと指摘している。
アメリカは自分たちが作り出した怪物を口実にしてシリア占領を続けようとしている。「マッチポンプ」だ。2005年に故ロビン・クック元英外相は「アル・カイダ」について、CIAが訓練したムジャヒディンの登録リストだと書いている。
アラビア語で「アル・カイダ」とはベースを意味し、データベースの訳としても使われる。その中からピックアップされた戦闘員を中心として編成されたのがアル・カイダ系の武装勢力で、その主力はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団。ジハード傭兵と言うこともできるだろう。ダーイッシュも基本的に同じだ。
少なくともシリアの場合、ジハード傭兵の雇い主はアメリカだけでなく、イギリス系、フランス系、トルコ系など複数存在している。その雇い主が2016年に分裂し、必然的に傭兵集団も分裂した。分裂した最大の理由は2015年9月末にロシアがシリア政府の要請で軍事介入したことにある。ロシア軍はジハード傭兵を敗走させ、その支配地域を縮小させた。そこでアメリカが新たな手先としたのがクルドだ。
壊滅状態になったダーイッシュは油田地帯をクルドへ明け渡した。油田地帯の中でもデリゾールを含むユーフラテス川沿いをアメリカは重要視、バラク・オバマが大統領だった2016年9月には近くに迫ったシリア政府軍を空爆して80名以上の兵士を殺害している。勿論、負傷者も多数出た。
その1年後、デリゾールの近くで作戦を指揮していたロシア軍のバレリー・アサポフ中将が砲撃で殺されている、アメリカ側からアサポフ中将の位置に関する正確な情報が戦闘集団側へ伝えられていた可能性が高い。
ところで、トルコ政府が雇っているジハード傭兵の主力はムスリム同胞団だと言われている。オバマ政権は傭兵を使った侵略計画PSD-11を作成したのは2010年8月だが、その主力はムスリム同胞団だった。そこで、それを快く思わないサラフィ主義者がムスリム同胞団を攻撃するという事態も生じている。
トルコは2016年の前半にアメリカ主導の侵略軍から離れてロシアへ接近、7月13日には外相がシリアとの関係正常化を望むと示唆、その2日後にアメリカはクーデターでレジェップ・タイイップ・エルドアンを倒そうとした。
この軍事放棄が失敗したのは事前にトルコ政府へロシアから警告があったからだ言われている。トルコ政府はクーデターはフェトフッラー・ギュレンの一派が実行したと主張、アメリカでCIAに保護されている同派の指導者、ギュレンを引き渡すようにアメリカ政府へ求めているが、拒否されている。トルコ政府はクーデター計画の背後にアメリカ中央軍のジョセフ・ボーテル司令官やジョン・キャンベルISAF司令官がいたとも主張している。
このクーデター失敗でトルコ政府とアメリカ政府との関係は決定的に悪くなったが、ムスリム同胞団が両国の関係修復で動く可能性もある。トランプ政権としても、エルドアン政権を再び自分たちの陣営へ引き戻したいだろう。
オリンピックにロシアの代表を参加させるべきでないと11月25日にWADA(世界反ドーピング機構)は勧告した。当事者であるアスリートにとっては深刻なことかもしれないが、部外者にしてみると茶番だ。
来年に東京で開催されるオリンピックでのドタバタを見てもわかるように、このイベントはアメリカのネットワーク局の意向に従って動いている。圧倒的な資金源だからだが、そのネットワーク局が資金を持っている理由はアメリカなど西側の巨大資本がカネを投入しているからだ。WADAはIOC(国際オリンピック委員会)が1999年に創始した基金であり、当然のことながら、WADAも巨大資本の影響下にある。
オリンピックからロシアを排除する口実をWADAに提供したのはロシアで反ドーピング・センターの責任者を2005年から務めていたグリゴリー・ロチェンコフ。
ロシア側の説明によると、この人物は風邪薬を飲んだ直後に検体を採取されてパニックになったアスリートから陰性の結果を示す書類と引き換えに金品を要求するなど不正を働いていた。それが発覚して捜査の対象になり、2015年11月にアメリカへ逃げて「告発」したのだという。
この「告発」はアメリカ支配層の意向に沿うもので、代償としてアメリカにおける地位や収入が保証されているのだろうが、そのほか、自分の犯罪行為を追及するロシアへの報復という意味もあるようだ。
この問題はリチャード・マクラーレンというカナダの法律家が調査し、報告書を発表しているものの、具体的な証拠は示されなかった。MH17の墜落やシリアでの化学兵器話と同じ。つまり信頼度は低い。
アメリカはシリア政府軍が化学兵器を使用したという口実でミサイル攻撃を実施したが、それが嘘だと言うことをOPCW(化学兵器禁止機関)の現地調査チームはつかんだ。それをこの機関の幹部は改竄している。アメリカ支配層に命令されたのか、「忖度」したのだ。WADAがOPCWより独立しているとは思えない。
2016年8月にはブラジルでオリンピックが開催されている。その直前にドーピング話が持ち上がったのだが、もし何事もなくオリンピックが開かれたなら、アメリカ支配層にとって好ましくない光景が世界に発信されていた。
本来なら主催国の大統領としてスタジアムへ現れたのはジルマ・ルセフ。アメリカ支配層が押しつける新自由主義からの離脱を試みていた人物だが、スキャンダル攻勢で2016年5月に停職、8月に大統領の座から引きずり下ろされた。
当時のラテン・アメリカにはアメリカ支配層に嫌われていた大統領が名を連ねていた。ベネズエラ大統領のニコラス・マドゥロ、ボリビアのエボ・モラレス、エクアドルのラファエル・コレア、ニカラグアのダニエル・オルテガ、ウルグアイのタバレ・バスケス、チリのミシェル・バチェレだ。そしてロシアのウラジミル・プーチン。
ロシアを中心にアメリカからの自立を目指す指導者が並ぶ光景はアメリカ支配層の敗北を印象づける。ルセフの失脚とロシア排除によってこうした事態を避けることができたと言えるだろう。
事実上、2016年に大統領の任期が切れるバラク・オバマは当時、必死にロシアを攻撃していた。そこにロシアとの関係修復を訴えるドナルド・トランプが登場、トランプを引きずり下ろすために「ロシアゲート」を仕掛けたが、失敗した。ウクライナを舞台とする新たなスキャンダルも見通しは暗い。そうした中、WADAはロシアに対する攻撃を再び強めている。
今年7月25日にドナルド・トランプ米大統領がウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談でジョー・バイデンの話をしたことを民主党は問題にしているが、ウクライナからはバイデン親子に関する疑惑が伝えられている。
バラク・オバマ政権では国務次官補だったビクトリア・ヌランドなどのネオコンがネオ・ナチのグループを使い、ウクライナでクーデターを仕掛け、2014年2月にビクトル・ヤヌコビッチ大統領の排除に成功した。その2カ月後にジョー・バイデン副大統領の息子であるハンター・バイデンは天然ガス会社ブリスマ・ホールディングス(本社はキプロス)の重役になる。
そのブリスマを2002年に設立したひとり、ミコラ・ズロシェフスキーは2010年からエコロジー資源大臣を務めているが、検察当局は彼をマネー・ロンダリング、脱税、汚職の容疑で12年に捜査を始めている。その年にズロシェフスキーは大臣を辞めた。
捜査が進めば起訴される可能性があったのだが、2014年にクーデターでヤヌコビッチ政権は倒される。その年の終わりにズロシェフスキーは国外へ逃げるが、資産はイギリスの当局に凍結された。その凍結が解除されたのは2016年。その翌年に帰国した。
ジョー・バイデンの圧力で検事総長を解任されたビクトル・ショーキンの下で、ウクライナの検察はブリスマを捜査していた。捜査の対象にはズロシェフスキー、バイデン親子、大統領だったペトロ・ポロシェンコ、ポーランド大統領だったアレクサンデル・クファシニェフスキーが含まれていたと言われている。
ウクライナ側の説明では、検事総長の解任をアメリカ大使館は2015年終わりから16年初めにかけての数カ月にわたり、求めてきたという。その工作の黒幕はオバマやジョージ・ソロスが関係しているNABU(ウクライナ反汚職局)だと言われている。
捜査の結果、ハンター・バイデンを含むブルスマの重役4名は少なくとも1650万ドルを会社から受け取り、ジョー・バイデンはロビー活動の報酬として、ロズモント・セネカ・ボハイ経由で90万ドルが支払われたという。
すでに本ブログでも書いたことだが、ロズモント・セネカ・ボハイはハンターやデボン・アーチャーが経営する会社。アーチャーはエール大学の出身で、そのときのルームメートがジョン・ケリー元国務長官の義理の息子であるクリス・ハインツだと伝えられている。
バイデンの問題をゼレンスキー大統領がどのように処理するのかは興味深いところだが、その後ろ盾と噂されている人物がオリガルヒのひとりであるイーホル・コロモイスキー。2014年のクーデターの際にはネオ・ナチ集団へカネを出していたクーデター派だ。
ところが、ここにきてロシアとの関係修復を訴えている。ウクライナで経済的な基盤を築くことに成功したので、それを利用してビジネスを展開しようと考えている可能性がある。ビジネスの相手ならアメリカよりロシアだと考えても不思議ではない。