ウクライナゲート
アメリカ議会では民主党がドナルド・トランプ大統領に対する弾劾を叫んでいる。いわゆる「ウクライナゲート」に絡んでのことだが、この疑惑は2014年2月にバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使ってウクライナの合法政権を転覆させたことに端を発する。
民主党が問題にしたのは、すでに本ブログでも書いたが、トランプ大統領が7月25日にゼレンスキー大統領へ電話した際、ジョー・バイデンが2018年1月23日にCFR(外交問題評議会)で行った発言を話題にしたこと。バイデンはウクライナのクーデター政権に対し、10億ドル欲しければ検事総長のビクトル・ショーキンを6時間以内に解任しろと恫喝、実際に解任されたと自慢したのだ。その際、バイデンは「ウクライナを支援する欧米諸国や国際機関が同国の腐敗問題に取り組む中、同国の検事総長が汚職捜査に消極的だとして解任させようとした」と主張している。
ブリスマ疑惑
しかし、ショーキンは宣誓供述書の中で、解任の理由は天然ガス会社ブリスマ・ホールディングス(本社はキプロス)を捜査していたことにあるとしている。
ジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンは2014年4月から同社の重役を務めたが、エネルギー産業に詳しいわけではない。しかも検事総長を解任しろという圧力は2015年終わりから16年初めにかけての数カ月に及んだという。トランプがゼレンスキーへ電話する前の今年2月の初めにはハンターに対する捜査を再開する動きがあったとも伝えられている。
問題のブリスマは2002年に創設された。創設者のひとりであるミコラ・ズロシェフスキーは2010年からエコロジー資源大臣を務めているが、検察当局は彼をマネー・ロンダリング、脱税、汚職の容疑で12年に捜査を開始。その年にズロシェフスキーは大臣を辞めた。
捜査が進めば起訴される可能性があったが、2014年にクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権は倒されてしまう。その年の終わりにズロシェフスキーは国外へ逃げ出す。資産はイギリスの当局に凍結されたが、2016年にその凍結は解除され、17年に帰国した。ズロシェフスキーが国外へ逃亡している中、ハンター・バイデンは雇われたわけだ。
ブリスマの重役としてハンター・バイデンは高額の報酬を得ていたのだが、ウクライナのアンドリー・デルカチ議員によると、バイデン前副大統領もブリスマからロビー会社を介して90万ドルを受け取っているという。つまりブリスマ疑惑では創設者のズロシェフスキーだけでなく、バイデン親子も容疑者に含まれているわけだ。有力メディアの世界では、この疑惑をウクライナゲートが隠している。
ロシアゲート
ウクライナゲートの前、民主党や有力メディアはロシア政府が2016年に実施されたアメリカの大統領選挙に介入したと叫んでいた。いわゆる「ロシアゲート」だが、これはすでにFBIによる不正行為が追及される展開になっている。
ロシアゲートの出発点は外部に漏れたヒラリー・クリントンの電子メール。2016年3月にウィキリークスは民主党の幹部やヒラリー・クリントンの不正行為を明らかにする電子メールを公表、7月にはヒラリーを起訴するに十分な証拠を公表していくとジュリアン・アッサンジが発言する。実際、7月22日に公表したのだ。
この電子メールによって、民主党の幹部が自党の候補者選びでバーニー・サンダースの足を引っ張り、既定の方針通りにヒラリー・クリントンを選ぼうとしていることが判明した。当然のことながら、サンダースの支持者は怒った。
それに対し、民主党側はサーバーがGuccifer 2.0にハッキングされ、その黒幕はロシアの情報機関だと主張。それがウィキリークスへ渡されたというシナリオだ。
アメリカの電子情報機関NSAの技術部長を務めた内部告発者で情報機関で通信傍受システムの開発を主導したウィリアム・ビニーが指摘しているように、NSAはすべての通信を傍受、保管している。もしロシアゲートが事実なら、FBIは必要な証拠をすべてNSAから入手できるからだ。
また、コンピュータの専門家たちは早い段階から技術解析などで作り話だと指摘されていた。例えば、IBMのプログラム・マネージャーだったスキップ・フォルデンは転送速度などの分析からインターネットを通じたハッキングではなく、内部でダウンロードされたと結論、その分析内容を公表している。
実は、民主党の内部で電子メールをダウンロードしたのではないかと言われている人物が存在する。DNC(民主党全国委員会)のスタッフだったセス・リッチだ。
この人物は7月10日、つまり電子メールが公表される12日前に射殺されている。警察は強盗に遭ったと発表するが、それに納得できないリッチの両親は元殺人課刑事の私立探偵リッチ・ウィーラーを雇って調査を始めた。
この探偵によると、セスはウィキリークスと連絡を取り合い、DNC幹部の間で2015年1月から16年5月までの期間に遣り取りされた4万4053通の電子メールと1万7761通の添付ファイルをウィキリークスへ渡したとしている。この発言はウィラーガーが雇い主に無断で行ったことから問題になり、その後、探偵から情報は出なくなった。
トランプが大統領に就任した2カ月後の2017年3月、アダム・シッフ下院議員が下院情報委員会で前年の大統領選挙にロシアが介入したとする声明を出し、「ロシアゲート」なる茶番劇の幕を上げた。
シッフが主張の根拠にしたのはイギリスの対外情報機関MI6(SIS)の元オフィサー、クリストファー・スティールが作成した報告書。根拠が薄弱だということはスティール自身も認めている代物だ。このスティールに調査を依頼したのはフュージョン、そのフュージョンを雇ったマーク・エリアス弁護士はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の法律顧問を務めていた。
CIA疑惑
トランプを引きずり下ろすためにFBIの幹部が根拠薄弱の話を利用して不正捜査した疑惑が強まっているのだが、その背後にはオバマ政権でCIA長官(2013年3月から17年1月)を務めたジョン・ブレナンがいると以前から指摘されていた。
現在、FBIの不正捜査疑惑はウィリアム・バー司法長官の下でコネチカット州の連邦検事ジョン・ドゥラムが捜査中。そのドゥラムはブレナンの電子メールや通話履歴を含む関連文書を調べ始めたという。
この話はニューヨーク・タイムズ紙が伝えたのだが、この新聞も支配層の意向に従って情報を流してきた。そのメディアがこの話を伝えたことは興味深い。支配層内部の権力抗争が激しくなっているのかもしれない。
NATO(北大西洋条約機構)を世界展開させる動きがあるようだ。この軍事機構をアメリカ支配層は支配の道具として使ってきたが、それを知り、危険だと考えたシャルル・ド・ゴールは大統領として1966年にフランス軍をNATOの軍事機構から離脱させ、その翌年にはSHAPE(欧州連合軍最高司令部)をパリから追い出している。
1949年4月に創設された当時、NATOの目的はソ連軍の攻撃に備えることにあるとされていたが、その内部に存在する秘密部隊は参加国内でアメリカの支配システムにとって好ましくない人物や組織を潰してきた。
1991年12月にソ連が消滅すると、活動範囲は広がる。手始めにユーゴスラビアへ軍事侵攻して99年5月には中国大使館を爆撃。この大使館爆撃は「誤爆」とされたが、情況から考えて、計画的な攻撃だった可能性が高い。
さらにアフガニスタンでの戦争に参加、アメリカ主導軍が先制攻撃したイラクでは軍事訓練、2011年春にリビアで戦争が始まるとアル・カイダ系武装勢力と手を組んで軍事的にムアンマル・アル・カダフィ体制を破壊、カダフィ自身を惨殺した。このリビアは現在、暴力が支配する破綻国家だ。
中東から北アフリカへ活動範囲は拡大したわけだが、さらに太平洋へ出てオーストラリア、インド、日本と結びつこうとしていると言われている。日米安保やANZUSとの合体だ。
この太平洋に存在するふたつの軍事同盟は1951年9月にサンフランシスコのプレシディオ(第6兵団が基地として使っていた)で結ばれた条約によって誕生している。ANZUSに参加しているのはオーストラリア(A)、ニュージーランド(NZ)、アメリカ(US)のアングロ・サクソン系の国々。日米安保は言うまでもなく日本とアメリカの同盟だ。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、イギリスやアメリカにはユーラシア大陸の内側を沿岸部を支配することで締め上げるという長期戦略がある。
地政学の父と言われている地理学者のハルフォード・マッキンダーが1904年に公表した彼の戦略によると、西ヨーロッパ、パレスチナ、サウジアラビア、インド、東南アジア諸国、朝鮮半島をつなぐ内部三日月帯、そしてアメリカやオーストラリアを含む外部三日月地帯を想定している。朝鮮半島の外側にある日本も外部三日月地帯の一部とされている。
その日本では徳川体制が薩摩と長州を中心とする勢力に倒され、明治体制が始まった。1872年に琉球を併合、74年に台湾へ派兵するが、この派兵を進めたひとりが厦門のアメリカ領事だったチャールズ・リ・ジェンダー。この人物は1875年まで日本の外務省で顧問を務めた。日本を離れたのは1890年。その年から1899年まで李氏朝鮮の王、高宗の顧問を務めたという。当時、朝鮮では興宣大院君(高宗の父)と閔妃が対立していた。
明治政府は1875年に朝鮮半島で軍事的な挑発に出る。李氏朝鮮の首都を守る要衝、江華島へ軍艦を派遣したのだ。結局、「日朝修好条規」を結ばせて清国の宗主権を否定させ、無関税特権を認めさせたうえで釜山、仁川、元山を開港させることに成功した。
1894年に朝鮮半島で甲午農民戦争が起こり、閔氏の体制が揺らぐ。それを見た日本政府は「邦人保護」を名目にして軍隊を派遣、その一方で朝鮮政府の依頼で清も出兵して日清戦争につながった。
この戦争に勝利した日本は1895年4月、「下関条約」に調印して大陸侵略の第一歩を記すことになる。この年に三浦梧楼公使を含む日本の官憲と「大陸浪人」が閔妃を含む女性3名を惨殺している。日本の裁判で三浦公使たちは「証拠不十分」で無罪になり、三浦は枢密院顧問や宮中顧問官という要職につく。
その一方、中国では義和団を中心とする反帝国主義運動が広がり、これを口実にして帝政ロシアは1900年に中国東北部へ派兵、対抗するためにイギリスは1902年に日本と同盟協約を締結した。その日本は1904年2月に仁川沖と旅順港を奇襲攻撃して宣戦布告、日露戦争が始まるわけだ。
この戦争で日本に戦費を用立てたのはクーン・ローブを経営していたジェイコブ・シッフ。その融資に絡んでシッフは日銀副総裁だった高橋是清と親しくなる。クーン・ローブはアブラハム・クーンとソロモン・ローブがニューヨークで設立、経営を任されたのがロスチャイルド家と近いジェイコブ・シッフだった。
明治政府が始めた日本のアジア侵略はイギリスの世界戦略と密接に結びついていると考えるべきだろう。関東大震災後、日本の復興資金調達で重要や役割を果たしたJPモルガンはイギリスのロスチャイルドがアメリカでのビジネスのために設立された銀行。1933年から34年にかけてフランクリン・ルーズベルト政権を倒してファシズム体制を樹立するためにウォール街の住人はクーデターを計画したが、その中心はJPモルガンだった。
ジョージ・ケナンやズビグネフ・ブレジンスキーの戦略も基本的にマッキンダーのそれと同じだ。
NATOをこの戦略を実行するための主力にしようと目論んでいる人たちがいる。アメリカの世界支配システムが揺らいでいる現在、そのシステムを支える柱としてNATOを考えているのかもしれない。
明治維新の前、イギリスは中国(清)に対して侵略戦争を仕掛けている。1840年から42年にかけてのアヘン戦争や56年から60年にかけての第2次アヘン戦争だ。イギリスは中国全土の制圧と略奪をこの時から目論んでいるが、戦力が足りない。そのイギリスの支援を受けた日本がアジア侵略を始めたわけだ。イギリスの戦略はアメリカに引き継がれた。NATOの動きはそうした歴史と重なる。
アメリカでは2020年度の国防権限法(NDAA)を上院が下院に続いて可決した。宇宙軍の創設などが注目されているようだが、その法案の中にロシアからEUへ天然ガスを運ぶパイプライン、ノード・ストリーム2の建設に参加した企業に対する制裁が含まれていることも話題になっている。
ロシアとEUが天然ガスによって結びつきを強めることをアメリカの支配層は阻止しようとしてきた。天然ガスはパイプラインで運ばれているが、その主なルートはウクライナを通過していたことからウクライナを完全な属国にしようと目論む。それが2014年2月のクーデターによる政権転覆だ。
バラク・オバマ政権のネオコンは2013年11月にウクライナでクーデター計画を始動させた。キエフにあるユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)でカーニバル的な反政府の抗議活動を開始したのだ。12月には50万人が集まったという。
広場で活動が始まる前日、ウクライナ議会ではオレグ・ツァロフ議員がクーデター計画の存在を指摘する演説をしていた。その計画はアメリカのジェオフリー・パイアット大使を中心に準備され、11月14日から15日にかけて会議が開かれたとしていた。
その準備の一環として、2013年9月にポーランド外務省がウクライナのネオ・ナチ86人を大学の交換留学生として招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたって暴動の訓練をしたとポーランドで報道されている。
クーデターにより、アメリカはクリミアや東部地域の制圧に失敗したものの、とりあえずパイプラインをコントロール下に置くことはできた。が、ロシアは中国との関係を深めて戦略的な同盟関係を結ぶ一方、トルコやバルト海を経由して運ぶルートを建設。新たに建設されたバルト海のルートがノード・ストリーム2だ。
このパイプラインはほぼ完成、アメリカにも輸送を止めることはできない。今回の法案は嫌がらせの域を出ず、EUとアメリカとの関係を悪化させるだけだろう。相対的だけでなく絶対的にも自らの力が落ちていることを認識せず、恫喝(狂人)政策を続けてもアメリカは自らの立場を悪くするだけである。