レガスピ出張編もあと2タイトルアップしようかなと思っていたけど大して面白くもないのでヤメにして、妻が買った土地に家を建て、何か商売して家族と暮らす本来の目的に話を戻すと、買った土地はゴーストタウンで、こんなところで暮らすなんてトンデモない、まず気が強い妻がフィリピーナの夢である家を諦めさせることが先決となった。鉄より硬い頭の妻は夫の言うことなんか聞くことはない。そこで考えたのは妻に銀行の住宅ローンの申し込みをさせること。で、実際、レガスピの銀行へ行き、妻は支店長から住宅ローンの説明を受けた。
結果は勿論融資不可。なんたって夫婦共々無職、無収入のプータロー。しかも夫は外国人。そんな輩に銀行が金を貸すワケがない。預金担保でもダメなのだ。さらに現金出金を銀行は嫌がる。つまりまずは収入を得る商売をしなければならない。後先なら商売が先で家が後だから支店長は住宅ローンに続いて事業用ローンの説明を妻にした。事業用ローンを受けるには事業計画が必要となり、畢竟、何か商売をしてからつーことだ。
以上のことは事前に話しておいたが、まったく耳を貸さず、銀行の支店長からだと舞い上がって話を聞く摩訶不思議な脳内構造の妻。寂れた漁村では商売のほうも儘ならず、結局家を断念せざる得ない算段だった。
ところがどっこいフィリピーナの夢はそう容易く消えるものではない。上記写真のワゴン車はGTエクスプレスつー乗り合い自動車で州都レガスピのターミナルを拠点にビコール地方各地を結ぶ路線を形成している。妻の実家からレガスピへの往復はいつもこのGTエクスプレスを利用している。レガスピの銀行へ行った帰り、何気にドライバーに中古ワゴン車の値段を聞いたところ、そいつはオーナードライバーで値段は日本円で40万円、1年半で投資した資金を回収できる効率のよい安定したカービジネスだと答えた。これが興味を引いた。
通常フィリピンのカービジネス~タクシー、トライシクル、ジプニーは投資額の回収に4~5年掛るといわれメンテナンスやドライバーの契約等の問題がありビジネスとして決してよいものではない。念のため妻はターミナルにいる他のドライバーに同じ質問をしたところ皆40万円、1年半の回収だと同じ回答を得た。GTエクスプレスを3台買い家を建てればそれだけで安定した暮らしができる。そうなると俄然興味を持ったのは妻で後日GTエクスプレスのビジネスをさらに詳しく調べた。家を建てるというフィリピーナの夢のパワーは強力だ。
レガスピターミナルのGTエクスプレスの場合、12人乗りに改造した中古ワゴン車を買い、5年間のフランチャイズ料を本部に支払ってカービジネスがスタートする。そして各路線の運行スケジュールと運賃は本部のスタッフが管理し、それぞれのオーナーへ均等に利益配分されるシステム。そして妻は各ドライバーにメンテや契約でのトラブルはあるのかと聞いたところ皆、トラブル、事故は一切なしと答え妻はヤル気満々になった。
しかし、甘い夢はそう長く続かない。人生とはそういうものだ。車を買ってフランチャイズ料を払えばすぐにGTエクスプレスを運行できるのかいえばそうではない。最初に質問したオーナードライバーは2ヶ月待ち、最長で8ヶ月待ったと答えたドライバーもいた。各路線で空きが出るまで待たなければならないのだろうか。さらに妻の実家とレガスピを結ぶ路線のフランチャイズ応募状況はどうなのか、一体いつからGTエクスプレスのビジネスを始めることができるのか。このことは本部でないとわからない。ターミナルのスタッフに本部の所在を聞いたところたまたま本部マネージャーのド派手なオバサンがいて妻は彼女にそれら疑問を問質した。
GTエクスプレスには時刻表なんてものはない。乗り合い自動車のジプニー同様、満席になれば出発、時間がくれば(GTエクスプレスは1時間リミット)空席があっても出発つーフィリピンスタイル。フランチャイズ応募も同様で毎年応募期間も設け募集、フランチャイズ料を払って空きが出るまで待つ。この空きがクセモノ。何らかの事情でオーナーが契約を放棄したとき順繰りに割り当てられる。ドライバーがトラブル、事故は一切なしと言ったのは当然で、あれば契約を放棄しなければならないから。そしてその年の応募期間は終わっていた。
本部マネージャーと話し終えた妻は落胆した。商売も家も夢の夢となってしまったからだ。
ビコールプリンセスの妻と夫プリンスは根なし草。これからどこへ漂流するのだろか、物語は続く。