前エントリーに続いて賢人会議ネタ。
そもそも賢人会議とは浜名湖畔にある友人H宅で暇な週末、サーファー仲間のT君を交え、賢者3人が酒を飲みながら時事問題を話し合うことを目的だった。ところが今回はT君が急遽召集した。聞けばT君がまた夫婦喧嘩をして奥さんは子供を連れて実家に行ってしまった。そこでT君は奥さんに帰ってくるよう仲人でもあるHに仲介を依頼した、が、結局、Hが説得することなく奥さんは翌朝帰ってきた。
さて、話題をバリ島に戻せば前回バビグリンを手に彗星の如く登場したホテル従業員ダルマワン。
今回は君がメインだぞ。
ダルマワンは内気で真面目な典型的なバリ人。年齢不詳(会った当時で30代半ばか)で褐色の肌をしたオラウータンって感じの風貌。T君とは友達同士だが、Hとの関係となると別でHのパシリだ。
パシリつーと聞こえは悪いが、バリ島はアジア最大のリゾート観光地でマージン社会。現地のバリ人は観光客のマージン(手数料)でメシを食っている。例えばHはブンクス(テイクアウトの食事)やアラック(焼酎)を買いに行かせるのもホテルのレンタルバイクを予約するのもすべてダルマワンに頼む。ダルマワンは金額に応じてその都度マージンを受け取る。持ちつ持たれつの関係なのだ。
マージン社会を理解するとお土産なんかを買う場合さらに効果を発揮する。売り物にはすべて観光客価格と現地人価格があり、交渉によって売買が成立する。Hはダルマワンに依頼して欲しい物を現地人価格で交渉させ、マージンを乗せてダルマワンに支払う。結果、観光客価格より半値以下で買い物ができる。逆にT君の場合、マージンの発生しない友達関係だからダルマワンは観光客価格の現地ルールを守り価格交渉はしない。従ってT君は観光客価格(ボッタクリ価格)でしか買えないのである。
バリ島のマージン社会については渡航前、Hから口うるさくレクチャーされた。
それからHとダルマワンの関係で感心したことがある。バリ島で最初の爆弾テロがあったとき観光客が激減した。当然ホテルは閑古鳥が鳴いてダルマワンのお給料も半減した。このときHは当時の現地人妻とともにダルマワンを日本語学校へ3ヶ月間通わせた。無論授業料はHが払った(1人5000円だけど現地人には1ヶ月分のお給料に相当する)。Hは自分がバリ語を学習するより彼らに日本語を覚えさせたほうが楽チンだつー動機らしいけど、ダルマワンは日本人顧客が増え、マージンも増えた。
ここまでならダルマワン物語もハッピーなんだけど、奥さん、そうは問屋が卸しません。
ダルマワンが生涯背負うことになる不幸は2005年、2度目の爆弾テロに始まった。
そう、2度目の爆弾テロから暫くしてHに誘われHのサーファー仲間とともに2度目のバリ島渡航をした。Hの現地人妻からダルマワンが女房、子供に家出されて酷く落ち込んでいるらしいつーことを事前にHから聞かされていた。バリ人にとって女房、子供に逃げられるのは非常に恥ずかしいことで、ましてそのことを恩義のあるHに言えるワケがなく、ダルマワンの聞き役をしてくれつーことだった。
もー運も寸もなく了解した。
バリ島に到着してダルマワンのホテルは2日間滞在した後で移動する予定だった。Hとサーファー仲間は朝早く起きてローカルなサーフスポットへ行き、ホテルへ戻るのはお昼。午前中はまったく1人で暇だからホテルの近くをジャランジャラン(散歩)したり、股間をイジって妄想に耽り時を過ごす。
どうだ奥さん、これぞリゾートライフの真髄、ワンダフルな時間の過ごし方だろ。
でもって2日目の朝、案の定、夜勤明けのダルマワンが部屋に訪ねてきた。
d:「シャワー、カシテクダサイ」
いつものようにダルマワンは日本語と英語のチャンポンでたどたどしく語り始める。
ダルマワンの話を要約すれば2度目の爆弾テロに遭ってホテルは暇になり給料は半減された。しかし最初の爆弾テロと違ったのは、今回はオーナー夫人が毎日ホテルに来てミーティングした。従業員を一人一人みんなの前で面罵した。それは耐えがたい屈辱なのである(フィリピンも同じ)。
そんなストレスが続くなか、ついにダルマワンがみんなの前でオーナー夫人から罵倒された。屈辱にまみれ疲れ果て、夜、小雨が降るなか2時間かけて帰宅した。そして女房からも罵倒された。
ここでダルマワンの目に薄っすら涙が滲んで、ひと呼吸おいて、腹の底から唸る声でつぶやいた。
d:「ロストコントロール・・・ロストコントロール・・・」
もーこの瞬間は最高だった。そのつぶやきは忘れようにも忘れられない。
我を失ったダルマワンは思わず女房を突き飛ばしてしまった。バリでは女房に少しでも手を掛けるのはご法度でどんな言い訳も通用しない。突き飛ばされた女房はそのまま子供を連れて家を出た。
そしてダルマワンは地元の村人から白い目で見られ、生涯恥を背負って生きていくことになった。
ダルマワンは目に涙を浮かべ「悪いのは自分、それをHに伝えてくれ」と言い放ち部屋を出た。
その後、ホテルに戻ったHに一部始終を伝えると「ロストコントロール」がウケまくり、Hはダルマワンに「気にするな、今まで通りおまえはオレのパシリだ」と連絡した。もースゴイ経験だった。
んで、賢人会議でも忘れかけていた「ロストコントロール」で盛り上がった。
h:「おい、T、女房の家出はバリなら一生の恥、それで終わり。日本でよかったな。」
かくして賢人会議の幕は閉じた。(完)。
では奥さん、盆休だ。