これは面白そうな本だ。フィリピン暮らしなんで買って読めないのが残念。
でもまあ書評はネットで検索できるのでそれで我慢。以下、そのサイト。
“日本の国民食”の雑学的要素と論考が詰まった速水健朗『ラーメンと愛国』–石井千湖
タイアップ歌謡曲、自分探し、ケータイ小説。流行しているのに、批評されない。マジョリティなのに、軽視されてしまう。フリーライター速水健朗氏はそんな対象に着目し、刺激的な論考を展開する書き手だ。
最新刊の『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)は、日清食品の創業者である故・安藤百福が、終戦直後の大阪の闇市で屋台の支那そばを食べるために並んでいる人々を見るところからはじまる。そして百福がインスタントラーメン=“工業製品としてのラーメン”を考案するきっかけになった光景から、日本人とラーメンの関係を解き明かしていく。
本書によれば、戦前は都市に住む下層階級の夜食だった“支那そば”が、戦後の食糧難とアメリカの小麦輸出政策を背景に国民全体へと普及し、現在のラーメンになったらしい。戦時中に増産した小麦が余ってしまい、買い手を求めたアメリカが日本人にパン食を推奨したという話は、阿部和重氏の小説『シンセミア』にも出てくるが、スパゲティナポリタンやラーメンまでもがアメリカと結びつくとは驚いた。
また、エンターテインメント作品におけるラーメンの記号的役割を指摘したパートも興味深い。例えば今年、二十年の歴史の幕を閉じたドラマシリーズ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)。岡倉家の五姉妹のそれぞれの人生を描いたホームドラマだが、泉ピン子演じる二女の五月が嫁いだ“幸楽”は、ラーメンの味に定評がある小さな街の食堂だ。それはなぜかということを論じながら「ドラマや漫画におけるラーメン屋は、庶民的であることや貧困な生活の象徴として用いられる」点を指摘している。
なかでもスリリングだったのは、第四章の「国土開発とご当地ラーメン」だ。著者は「繁殖力の強い外来種であるご当地ラーメンは、古来地方に根づいてきた郷土料理を、短い期間で駆逐してしまった。ご当地ラーメンはむしろ、戦後日本の地方の均質化を代表する食べもののひとつだったと捉えるべきである」という。ほかの地方と差別化するために生まれたようにも見えるご当地ラーメンが、均質化を代表する食べものだなんて! いままで考えたこともなかった。ご当地ラーメンと言えば博多豚骨ラーメンと札幌ラーメンをまず思い出す。同じラーメンという料理のカテゴリに入れられているが、ふたつのラーメンはそのルーツも進化の過程も違うのだそうだ。それをつなぐのが、冒頭の章に出てきた“あるもの”だったとわかるくだりに、ミステリの謎解きを読んだときのような興奮さえおぼえる。
時代によって流行り廃りはあるけれど、ラーメンという食べもの自体は一貫して人気がある。しかし、最近のラーメン屋の店員というのは、どうして作務衣や漢字が書かれたTシャツを着ているのだろうか? その疑問に答えてくれるのが、第五章「ラーメンとナショナリズム」だ。高度成長期からバブル崩壊までのラーメンブームの立役者は雑誌や映画だったが、90年代以降はテレビが大きな役割を果たす。夕方のニュースでラーメン店の競争が取り上げられ、『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の『ラーメン王選手権』などフード系番組が隆盛。有名ラーメン店の主人がスターにまつりあげられていく。やがて素人の候補生がラーメン職人になるまでの経緯を追うリアリティショーも注目を集める。
「ラーメン屋になるための修行を、武士道的なギミックとして捉え、そこに“ラーメン道”を見いだしていくというような態度」の象徴となるのが、あの作務衣や手書きの漢字がプリントされたTシャツだ。著者はそういう陶芸家的な出で立ちで頭にバンダナやタオルを巻いた職人がいる店を“作務衣系”と呼び、プロトタイプになった人物を確定する。これだけでもすごいのだが、さらに国粋主義的な要素を取り入れていった近年のラーメン店に掲げられた説教臭い広告コピーを“ラーメンポエム”と名付けているのが秀逸。引用された“ラーメンポエム”を読んであまりのおかしさに悶絶した。
身近な料理のラーメン、加えて紹介されているエピソードの一つひとつに発見がある。読後は、この本で知ったことを誰かに伝えたくなるだろう。ビジネス書とは毛色の違ったコミュニケーションツールとしてもおすすめの1冊だ。
WJC vol.70 (2011.11.20発行号)掲載
よく書けた書評だが以下はもっとスゴイ
1972年に長野県軽井沢の別荘へ連合赤軍のメンバーが立て籠もり、警察と銃撃戦を展開した事件(あさま山荘事件)は、そうした若者による一連の運動の終焉を象徴するものとなった。このとき、現場の警察官たちへ前年に日清食品から発売されたばかりだったカップヌードルが支給されたことはよく知られている。
本書はまた、連合赤軍の側も軽井沢に迷いこむ前、冬山での軍事キャンプ中にインスタントラーメンを食べていたという事実にも触れている。さらに《そこでの食生活に注目した栄養学者が、彼ら冬山のキャンプ生活でのインスタントラーメンを中心とした食事が、栄養バランスの偏りを生み、中でもカルシウム不足が精神的な不安定を引き起こし、連続リンチ殺人事件へと発展したと指摘していた》という話も紹介される。
こちらは長いので全文転載は割愛。上記にはタマゲタ。
興味のある人はクリックして読んでちょ。ではまた。