今回は「非主流」なカントリー歌手を取り上げます。テキサス・カントリーの第一人者として長年活躍して来た、アーロン・ワトソンによる今年1月リリースのニューアルバムです。ビルボードにはテキサス・カントリーなどというチャートは有りませんが、テキサスやオクラホマ(Red Dirt)の音楽を熱烈に支持するファン層が存在し、メインストリーム・カントリーとは一味違う音楽が展開されています。
テキサス(あるいはオクラホマ)・カントリーのアーティストとされるには、チャートによっては定義付けをしていたりして、例えば、①テキサス(オクラホマ)に住んでいる事、②この地で固定資産税を払っている事、③最近6カ月のツアーで30%以上のショーをこの地の会場で行っている事のいずれかを満たすこと、などと条件を付けています。そんなアーティスト達の中でも、ローカルな個性は守りつつ、メインストリーム・シーンにも切れ込む親しみやすさも持ち合わせるアーロンのストレートなカントリーは、独自の存在感を放っています。
これまでの主な音楽キャリアも含めてのプロフィールです。1977年、テキサス州アマリロ生まれなので、今年で44歳になります。子供の頃の最初の音楽は家族と共に教会で歌ったゴスペル・ソングや、地元の人たちが良く演奏していたジョージ・ジョーンズ、マール・ハガード、ウィリー・ネルソンらのカントリー・ソングでした。アビリーン・クリスチャン大学を卒業するやいなや、テキサスのホンキー・トンク・バーでレギュラーで演奏するようになります。
「Underdog」から"That Look"
デビューは2002年、アルバム「Shutupanddance」はテキサスのローカル・シーンで熱狂的な成功を納め、全米レベルでも名が知られるようになります。続くセカンド「The Honky Tonk Kid」では、ヒーローでもあったウィリー・ネルソンをゲストに迎える事ができました。その後、2008年の「Angels & Outlaws」あたりから、テキサスらしさは残しつつ、ラジオでオンエアされやすい、より親しみある音創りを取り入れるようになりました。その結果、ビルボード・トップ200にチャートインするほどの存在となるのです。
「Vaquero」から"Outta Style"
その後も堅実に成長を続け、2012年の「Real Good Time」が同カントリー・アルバム・チャートで9位、さらにアラン・ジャクソンのプロデューサーとして著名なKeith Stegallを迎えた、2015年の「Underdog」にいたっては、同カントリー・アルバムで初登場1位の栄冠をモノにしたのです。シングルでは"That Look"が同カントリー・シングルに、"Getaway Truck"がテキサスのラジオ・チャートにそれぞれラインクインし、人気の面ではキャリアのハイライトとなりました。その後も2016年の「Vaquero」がカントリー・アルバムで2位、2019年の「Red Bandana」がビルボードのインディ・チャートでトップになるなど、テキサスを拠点とするアーティストとしては最も商業的な成功と影響力を誇ってきています。
前作の「Red Bandana」は自身の20年近くのキャリアを集大成するというコンセプトで、ストリングスなどもフィーチャしたスケールの大きい作品集でした。テキサス・カントリーの人ながら、そういう幅広い音楽に目配せが出来る人なのですが、今作はストレートなバンド・サウンドに徹しており小気味よいです。オープニングでシングルにもなっている"Silverado Saturday Night"は、結構コンテンポラリーなサウンドとも言いたいアップ・テンポですが、ギターの音色が、艶やかな響きが常なメインストリームの音とは感触が違って、ドライでエッジの効いた音なのが肝です。アーロン自身のテナー・ボイスの軽やかさには、ジョージ・ストレイトのような艶やかな重厚感とは違う、親しみやすい個性があります。
やはりタイトル曲"American Soul"に、テキサスから発信するアーロンの今の思いが込められてます。゛“Amazing Grace”の言葉/そして“Born in the U.S.A.”/プレイオフを戦うヤンキース/日曜日のカウボーイ/それは赤、白、青(※星条旗)/それは黄、茶、黒(※多様性)/腐った共和党の連中/極端な民主党の連中/(コーラス)君の振る幡が見えるかい/自由はただで得られない/勇敢さの中にあるんだ/それはルーツでありブーツだ/硬いカウボーイ・ハットから鉄のつま先まで/頑張り、せわしなく働く/血と汗と涙がアメリカの気骨を築いていくんだ゛政治家などあてにせず、自らの腕と力で困難を切り開いてきた、アメリカ人そしてテキサス人として有るべき姿を歌っているように思います。
今テキサスでヒット中の"Boots"
旬のポップスとしてのアフロ・アメリカンによるソウル・ミュージックが存在しなくなった今、確かにテキサスこそが「ソウル」を語るにふさわしい地になったように感じます。テキサスのカントリー・チャートを聴いていると、リズム・ループなどほとんど聞かれず、時に粗野とも言えるローカルなカントリー・ナンバーもありなかなか楽しいのですが、そんなローカル・シーンとメインストリームの間をまたぐアーロンの音楽は、ポップなヒット・カントリーよりも、ピュアなアメリカの魂を求める方々には注目されていると思います。
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