2013年のメジャーデビュー以来、こちらでもその動向を追ってきたケイシー・マスグレイヴスが、2021年の「star-crosses」以来となるニュー・アルバムをリリースしてくれました。その前作以降あまり新曲がチャートに登場する事もなく心配していましたが、最近になってザック・ブライアンとのコラボで久々に声が聴けたと思っていたら、待望の新作と共に好調な歌声と音楽を届けてくれました。リリースに合わせてインタビューにも精力的に対応しているようで、その彼女の言葉を拾ってみたいと思います。
ニューヨークでレコーディングしたという本作の全体を通しての印象は、まさにケイシー本人が語っている通りのモノを感じました。「間違いなく、今までで一番地に足がついた時期だわ。私は今35歳で、前の年や前のアルバムよりも自分自身をよく理解しているし、自分がいるべき場所にいるような気がするの。結局のところ、ここでの曲は、30代半ばの私が、自分にとって愛とは何か、友情とは何か、自分にとって必要なものは何か、本当に大切なものは何か、役に立っているもの、役に立っていないもの、それを見極めて実際に本当に大切なもののための場所を作っている、ということを要約しているのよ」シンプルに言えば、アコースティックな大人のポップ・アルバムという感じがしましたが、それもアメリカーナ風でなく、あくまで(時にデジタルなリズムやコーラスなども交える)ポップな親しみを保っているところに好感を持ちます。プロデュースは、グラミー賞受賞作の「Golden Hour」以来となるDaniel TashianとIan Fitchukと共同です。
リード・シングルでタイトル曲の"Deeper Well"は、リード・シングルには似つかわしくないほど牧歌的なスタイルですが、ミュージック・ビデオの撮影はかなり刺激的な状況に見舞われたそうです。アイスランドにまで赴いて撮影した時について、「強風注意報が出ていたのよ。崖から飛ばされそうになったわ。『このビデオが私の死亡発表になるわ』って感じだった。海まで真っ逆さまってなるような。つまり、危険だったの。地元の人たちでさえ、"これは怖いぞ "って言ってたんだから」
オープニングの"Cardinal"から、アルバム全体にも通じるように、いわゆるカントリー的な感じとは少し距離を置いた、むしろフォーク音楽的なものをベースした曲想を感じさせます。特にこの曲は、彼女が敬愛してきた、今は亡きジョン・プラインへの賛辞を含ませたもののようです。
゛私はサインを見た/あるいは前兆を/枝の上で/朝に/友人を失った直後だった/何の前触れもなく/言葉にならない/緋色の赤/カージナル(枢機卿、或いは鳥の名)/あの世からのメッセージを持ってきたのか/カージナル/私が誰かの心にいると言っているのか/私を置き去りにしないで゛
ケイシーはジョン・プラインと生前に交流もありました。「ジョン・プラインは、誰よりも私のソングライティングに影響を与えた。彼は、フレーズを変えながらも、シンプルであり続けることの王様なの」彼女のお父さんもジョンのファンだったようで、こんなエピソードも語っています。「これまで父が泣いているのを見たのは2回だけなの。"それは、私のお母さんのお葬式の時と、ジョン・プラインと一緒に演奏できた時よ」
"Too Good to be True"(オフィシャル・ビデオ)
実はこのアルバムのジャケットには別バージョンが有って、姉のケリーが撮影した、野原に裸で横たわるケイシーを後ろから撮った写真をフィーチャしたもの。「広々とした緑地だったからね。もし私が本当に小さかったら?胎児のような姿勢で、大地の中に入っていくような。そして、無防備で、ほとんど再生のようなものだと思う」というのがその狙いのよう。彼女のソーシャル・メディア上では拝見できて、オフィシャル・ストアではそのバージョンが購入できるようです。
この写真を家族に見せた時、いつもケイシーの突飛な言動に小言をいうおばあさん、バーバラといつも通り論争になりました。「彼女は『ケーシー、あなたはシンガーよ、ストリッパーじゃないわ!』って。それで私はこう言ったの。『どっちにもなれるよ』って」おばあさんはとにかくケイシーの活動に協力的で、「彼女は皆にCDを渡して私のイベントに予約させようとするの。不思議なことにたいていの場合は上手くいくのよ。彼女は面白い人よ」と基本的におばあさんとは良い関係を保っているそうが、ケイシーが突飛な行動をするたびに、身震いして「ケイシー!」という感じで詰め寄るのだそうです。案外このおばあさんが彼女の重要なインスピレーションの一人なのかもしれません。
"Jade Green"
本作のレコーディングが終了した後、ケイシーはニューヨークで家を買おうと考えたりもしたそうです。「私はいつも夜遅くにZillow(不動産サイト)をブラウズして、バカみたいにはしゃいでいたの」「でも、やっぱりナッシュビルには他にはないコミュニティがあって、そんな場所は他では見つけられそうにないのよ」。ケイシーの言葉や、その意思の確かさを表現する上質の音楽や歌声を聴くと、改めて彼女は別格のタレントを持つ有能なアーティストなのだと感じます。
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