最近のカントリーのヒット・チャートを見ても、極端に女性アーティストが少ないという実に残念な状況の中、"Tennesee Orange"をビルボードのカントリー・エアプレイでトップ10に食い込ませて気を吐いているのが、この新人メーガン(ミーガン)・モロニーです。このタイミングでデビュー・アルバムをリリースしてくれました。レトロな雰囲気の少し風変りな、コケティッシュとも言いたいイメージの人で、近年のカントリー界ではなかなかに個性的な感じ。ただ、どうもそのヒットの背景には、あのモーガン・ウォレンと恋仲との噂が囁かれている事が関係してそうなのです。しかし、このアルバムで展開される音楽はルーツ志向のアーシ―な質の高いアメリカ南部サウンドで、見た目のような浮ついた感じは全くありません。それもそのはず、プロデューサーは、あのシュガーランドのクリスチャン・ブッシュが担っているのです。
プロフィールです。1997年、ジョージア州出身。子供の頃に、家族からクラシックなカントリー、サザン・ロック、アメリカーナを教えてもらい、お父さんとピアノで一緒歌ったりして、音楽に親しむようになったようです。ジョージア大学1年生の時に、チェイス・ライスのコンサートの前座を務めるという経験を経た後、大学卒業の際にナッシュビルへの移住を考えました。しかし両親は、まず音楽ビジネスの学位を取得する事を優先させました。そして、その勉強中にクリスチャン・ブッシュのインターン生となって学位を取得したのです。卒業後もブッシュとはコンタクトを持ち続けました。
2021年に"Wonder"を自作リリースして以降、クリスチャンがメーガンのナッシュビルでのセッションを手伝うようになります。その最初の成果が、2022年のEP「Pistol Made of Roses」でした。続いてブッシュは、"Tennesee Orange"をプロデュースし、その歌のテーマでもある大学フットボールのシーズンに合わてリリースしたところ、数千万単位の数字を記録し、ビルボードホット100にランクイン、最終的に38位となったのです。なお本アルバムも、ビルボード200で38位にチャートインしています。
70年代ポップス風なイントロで始まるミディアム"I'm Not Pretty"から、肩の力の抜けたアーシ―で雰囲気有る歌声が個性的です。
あなた、たぶん、わたしの服装が嫌いなんでしょうね
私の話し方が嫌いなんでしょう (あなたの心に幸あれ)
勘弁してよ、裁縫を習ったり、ケーキを焼いたり
散歩したりして、そのうちにあなたは迷子になるわ
どこかで元カレの新しい彼女が私のインスタグラムをスクロールしてるのよ
私を引き裂こうとして、電話で悪い事ばかりを言いふらしてる
ズームアウト、ズームイン、オーバーアナリシス
意地悪女委員会の女王のように
でもね、どうでもいいのよ
自分に言い聞かせるの
"私は可愛くない "
こんな風に、現代の若い女性同士のどこにでもありそうな話(といっても、そのあたりに明るいわけではありませんが・・・)を、今風の空気で自然に歌う語り口が彼女の大きな魅力の一つになっているようです。
ママ、電話してるの私だよ、ニュースがあるの
パパには言わないでね ヒューズが飛んじゃうから
心配しないで、私は大丈夫だから
あなたが育ててくれたんだもの
あなたが思ってるようなことはないわ 私はまだ歌を書いてるの
こんな日が来るとは思わなかったわ
こんな風に感じたことはなかった
青い瞳をした誰かに出会った
彼は私にドアを開けてくれた 私を泣かすことはしないわ
出身地は違うけど 故郷のような気がするの
彼は私がしたことのないことをさせてくれる
ジョージア州では罪と呼ばれてる
彼のためにテネシー・オレンジを着てるの
゛テネシー・オレンジ゛とは何ぞや、ですが、テネシー大学のアメリカン・フットボールチーム、ボランティアーズのオレンジ色の応援Tシャツの事です。フットボールでは、テネシー大学はメーガンの出身校であるジョージア大学ブルドッグズ(メーガンはファンでもあるそう)のライバルであり、ブルドッグスが好きな父をもつ女性が、ボランティアーズのファンである彼氏からもらったオレンジ色のTシャツを着ることが、゛罪と呼ばれる゛と言っているのです。
そして、この曲のプロモーション写真でメーガンが着ているオレンジ色のTシャツが、実はテネシー・ボランティアーズのファンであるモーガン・ウォレンからもらったものである事が判明し、インスタグラム上でも二人が仲よさげなやり取りをした事もあり、二人の噂が急速に広まったというわけです。メーガン本人はインタビューで、確かにTシャツはもらったけれど、テネシーのTシャツを着た時、間違っていると感じたし、ただのTシャツだと語っています。ただ、この曲のフックとなる、゛ジョージア州では罪と呼ばれてる/彼のためにテネシー・オレンジを着てるの゛のフレーズを思いついて曲を膨らませた、という事らしいです。
楽曲は、3連のサザン・バラードで、メーガンの力の抜けたソウル・ボイスが素晴らしいです。かつてのメンフィスのソウル・ディーバ、アン・ピーブルズを思い出してしまいました。
今のカントリー・チャートは、モーガン・ウォレンに端を発した、ハスキー・ボイスのシンガーが人気になっているようですが、メーガンはその女性版という感じでしょうか。バラードの"Girl in the Mirror"の切ない歌う口とか(ファルセットにひっくり返すとことか良いです)、その一方で、リズム・ナンバーの"Traitor Joe"、"Another on the Way"はクールなアウトロー感のある佳曲も歌いこなします。アルバム全体として、アメリカ南部サウンドを変な誇張や装飾を排し、現代に体現させた素晴らしい作品だと感じました。
メインストリーム・カントリーの王道を行くキャラではないかもしれませんが、早くもアワードにノミネートされるような存在になっていて、カントリー界を盛り立てる女性アーティストとしてさらに飛躍してほしいと思います。
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