どちらかというとアメリカーナ系のカントリー・アーティストになるタイラー・チルダースが、ここ最近素晴らしい2曲のスロー・ナンバー"In Your Love"と"Help Me Make It Through the Night"でメジャー・カントリーのプレイリストにも顔を出すほどの注目を集めているようです。ストリーミング・サービスのリスナー数をみても、ポップとクロスオーバーするくらいの人気者でないと到達しないような数字になっていて、もはや確固たる地位を築いていると感じます。今年9月に、6作目となる7曲入りの本作をリリースし、そこにこの2曲が収められています。最近なかなか楽しんで聴ける新作がない中、久々に気骨のある音楽を堪能できました。
リード・シングルと言える"In Your Love"は、男性の同性愛をテーマにしたもので、舞台を(同性愛に理解がなかった)1950年代に設定したストーリー仕立てのビデオも話題になっているようです。保守的で新しい考え方が浸透しにくいとされるカントリー界に、このテーマで斬り込もうとするところがタイラーらしいところです。ピアノの調べに導かれる甘く落ち着いたサウンドをバックに、タイラーの悲痛さを漂わせるしわがれ声が張りつめた空気を醸し、けっして甘いだけのバラードにはならないのが素晴らしいです。
"Help Me Make It Through the Night"のほうも同系統のサウンド仕立てですが、そもそもクリス・クリストファーソンの曲が良い上に、タイラーの声が時によりエモーショナルに燃え上がるところなどが聴きモノです。ソウル~R&B・バラードの名唱と言いたいです。オリジナルのサミ・スミスもそうですが、この曲はやはり陰影のある歌声を持つシンガーが歌うと実に映えます。
その他の作品は、タイトル曲のような、カントリーミュージック黄金期1950年代風の曲想やスタイルを基本にして、より現代風にハード仕立てにしたザラついた手触りの作品が並びます。ロックンロール以前のカントリーミュージックが持っていたであろう熱気を現代に再現しようとしているようで、ここらは以前にもご紹介した「Country Squire」でも見られたタイラーの独壇場といったところでしょう。これ以上ないというくらい原始的な音楽に見えますが、テクノロジーの時代にあって、とてもラジカルに聴こえて何とも魅惑的です。
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