「アメリカン・アイドル」シリーズに対抗し、NBCで放送されて人気を博している音楽オーディション番組「ザ・ヴォイス」。その番組に審査員として出演以降、すっかり全米のTVスターとなったブレイク・シェルトンによる2013年作のアルバムです。「アメリカン・アイドル」で審査員をしているライバル!?キース・アーバンからの”僕はブレイクほどビッグでないよ!”との言葉に対し、”素晴らしいキースが僕の後ってことはないよ”との余裕の発言も出ていますね。2012年にCMAアワードの最高峰であるエンターテイナー賞を受賞した原動力が番組にある事は確かでしょう(ちなみに、先輩キース・アーバンは2005年に受賞済み)。今年、連続受賞なるかが注目です。
元々ホンキー・トンク系のトワンギーなカントリーで出てきた人ですが、次第にラウドなギター・サウンドを取り入れ、「ザ・ヴォイス」の1シーズン後にリリースした前作「Red River Blue」からはかなりポップ味も感じる音作りになってて、本作もそれを踏襲していると言えるでしょう。豪快なロッキン・チューンやスケール大きいバラード、しっとりしたミディアムなど多様で、彼らしい賑やかな作品集です。しかし、やっぱり究めつけは"Boys 'Round Here"でしょう。ヘヴィーでダンサブルなリズム・セクションにのってブレイクがワイルドにラップを披露。そこにアーシーなドブロの響きと、ピストル・アニーズPistol Anniesの人を食ったようなフワフワしたコーラスが絡まり、レッドネック感がたっぷりです。掛け値なしにカッコイイ、カントリーならではのダンス・チューン。
"Small Town Big Time"や"I Still Got a Finger"は快調なロッキン・カントリーでブレイクの真骨頂を聴かせてくれますが、違和感を感じるのが"Small Town Big Time"のコーラス。歌の音程を安定させる為に使われるAuto-Tech処理を極端に利かせて、トリッキーなサウンドに聴こえるのです。高い歌唱力を持つブレイクですから、あくまで都会のポップ・リスナー向けの音作りをしたって事でしょう。芸が細かいね。彼らしいパワーバラード"Sure Be Cool If You Did"や、メロウな"Mine Would Be You"でも安定した歌声を聴かせてくれて、ファンの期待を裏切りません。個人的にはドラマティックな"Do You Remember"がお気に入り。
ブレイクは今年、こんな発言をして物議を醸したそう。゛もうだれもお爺さんの頃の音楽を聴きたいとは思わないよ。それにお年寄り達はもうレコードは買わないしね゛最近のクロスオーバーな活動への指摘に対する発言でしょうが、ここらあたりの現代メインストリーム・カントリーのビミョーな立ち位置が、この「Based on a True Story」にも垣間見えるのです。"Boys 'Round Here"にしても、テーマは南部のレッドネック賛歌(”このあたりのヤツらはビートルズなんか聴かない~”)ですが、これは(ビートルズから出た脈流の一派と言える)サザン・ロックの雄レイナード・スキナードのハードなギター・サウンドと、南部の若者にもじわじわと支持者を増やしているラップ~ヒップ・ホップのミックスであり、それをビートルズを好まないカントリー・ファンが楽しんでるとしたら、なんとなく矛盾してるように見えてしまうのです。やはり、文化というのはそんな理路整然と説明できるようなものじゃないんですかね。
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