Patty Lovelessは、最近こそヒット・チャート上の最前線からは一歩引いていますが、80~90年代のスーパー・スター。もうほとんどレジェンドの域に達しつつある人です。まだまだ忘れてもらいたくない、お気に入りのアーティストなので取り上げます。Amazon見てると、新品で買いにくいCDも出だしてるみたいですし。
レジェンドのLoretta Lynn や Crystal Gayleが従兄弟という、大変な血統書の持ち主。その声はパワフル、そしてダウン・トゥ・アースなカントリー・ヴォイスで、他のシンガーとは完全に一線をかし、一目置かれる存在です。メジャー級でトップクラスの人気を持ちながらも、近年のサウンドのクロスオーバー化にも常に一定の距離を置き、クオリティの高い南部のサウンドを聴かせ続けてくれました。私事で恐縮ですが、これまで長くカントリーを聴いてきた中で、最高のフェイバリット・アーティストです。
When Fallen Angels Fly
いつも安定した質のアルバムをリリースしている人なので、どれがベストかは非常に難しいですが、まずはCMA AwardのAlbum of the Yearを獲得した1994年作品「When Fallen Angels Fly」。Pattyは自身も作曲をしますが、ここでは当時ナッシュビル最高のコンポーザー達の作品(Tony Arata、Jim Lauderdale、 Gretchen Peters、 Gary Gurrなどなど)がズラリ並んでおります。スロー系では、身を滅ぼすほど酒を煽る男性を憂う"Here I Am"。チョッとFleetwood Macの"Landslide"を思わせ、幾分幻想的な浮遊感をもつカントリー・バラード。そして、お涙頂戴的と分かっててもイントロのアコギとスティール・ギターが聴くたびに心にしみてくる"You Don't Even Know Who I Am"。これは カントリーではよく題材になる離婚ソング。妻が出ていった後、もぬけの殻になった家の様子を一つ一つ切々と写実的に描写していき、エモーショナルなコーラスへ繋げる、ツボを得た見事な構成でハマります。このようなカントリー特有の都会生活の負のテーマが、極上のマウンテン・ヴォイスに見事にマッチするのです。一方、リズム・ナンバーでのノリの良さも彼女の魅力(下積み時代、ロックやってた時期があった)で、ダブル・ビートのノヴェルティなロッキン・カントリー"I Try To Think About Elvis"などは、その年のベスト・チューンの一つとの評価もあるようです。同じくシングルヒットした"Halfway Down"も同系のロカビリー調ナンバー。この手のジャンプ・ナンバーでのPattyはまさにパワーハウスでワイルド。この静と動の高レベルでの両立が彼女の魅力です。
Honky Tonk Angel
そしてもう1作。2003年の「On Your Way Home」。カントリー・ミュージックのサウンドがどんどん幅広くなり(いわゆるポップ化)、”カントリー的過ぎる(Too Country)”とラジオでオンエアしてもらえない業界事情などものともせず、Sonyという大メジャーからの見事にカントリー的な作品です。全体的なサウンド・イメージは、ギター楽器が中心のカッチリと引き締まったソリッドで情熱的で感動的なロッキン・カントリー。オープニングからの"Draggin' My Heart Around""Nothing Like the Lonely""I Wanna Believa"のジャンプ・ナンバー3連発を聴けば、カントリー・ミュージックが死んでなどいない事が分かります。Pattyの喉も相変わらず快調。前へ前へとツンのめったような勢いが凄い。一方、バラードの"On My Way Home""Born-Again Fool"での彼女の声はどこまでもディープで、哀感に溢れています。シングルになった"Lovin' All Night"は、先日来日してくれたRodney Crowell作のホンキー・トンク風ロックンロール。このように、このアルバムの各曲も全て、ナッシュビルの著名作曲家の手による物ですが、コンセプトにマッチしたアーシーなメロディを基調にした物ばかりです。なお、"Lovin' All Night"のビデオで見られる、黒のレザー・スーツ姿のPattyがなかなかカッコよく素敵でありました。このCDにはボーナスDVDが付いており、その"Lovin' All Night"のビデオはもちろん、TV番組Austin City Limitsでのスタジオ・ライブが3曲(先に紹介した"Here I Am"も)収録されています。これも実に素晴らしい・・・・。売れ線無視とはいいながら、アルバム・チャートはしっかり7位まで到達。Pattyの底力を見せつけてくれました。
Only What I Feel
1957年、ケンタッキー州生まれ。子供の頃は非常にシャイで、大好きな歌も人前では歌えないくらいでした。13歳のときに兄とナッシュビルに行き、Porter WagonerとDolly Partonに出会い、その後もアドバイスをもらうなど交流が続いたようです。また、Dollyに刺激され自身でも作曲を始めています。そのうち、Loretta Lynnを育てたWilburn Brothersの目に留まり一時活動を共にするものの、ロック・ミュージシャンと駆け落ちし結婚。しばらくロックをやっていましたが、80年代半ばにそれも挫折し離婚。再び兄の尽力により、MCAのプロデューサTony Brownを廊下でつかまえPattyのテープを聴かせることに成功。1曲聴いてTonyは全てを理解したそうです。1987年のデビュー以降、MCAには6年所属し名作をいくつも物にしたものの、MCAはReba McEntire、Wynonna、Trisha Yearwoodらのビッグな女性アーティストを多く抱えており、そこに埋もれる事を嫌ってEpic/Sonyに移籍、現在に至っています。なお、現在のプロデューサーは、元Emmylou HarrisのHot Bandのベーシスト、そして何より現在のPattyの旦那であるEmory Gordy Jr.。
Mountain Soul
その他お勧めオリジナル・アルバムとしては、MAC時代では最初のヒット連発アルバムとなった「Honky Tonk Angel」(1988年)。"Chains," "Timber I'm Falling in Love" の必殺の2曲を収録。また、バラードの"Don't Toss Us Away," は80年代のアメリカン・ロック・バンドLone Justice(Maria McKee)のカントリー・カバーです。Epicに移籍後の第1作「Only What I Feel」(1993年)も好盤。オープニングのロッキン・カントリー"You Will"で、まずノックアウトされました。各楽器の絶妙なアンサンブルと流れるようなノリ、”アイ・ノ~~ウ”の雄たけびがカッコ良かった。
Dreamin' My Dreams
異色なのが、2001年の「Mountain Soul」。Patty が自身のルーツに立ち返って製作した、ブルーグラス・アルバム。当時の”Too Country”拒絶症のカントリー・ラジオ局へのPattyからの痛烈なメッセージでした。Pattyのこれまでの実績があってこそ実現した作品です。「On Your Way Home」に続く2005年の最新作「Dreamin' My Dreams」に到っても、ダウン・トゥ・アースな南部的持ち味を頑なに守り続けて、全盛期と変わらない高レベルのアルバムに仕上がっています。前作に比べると、少しどっしりと腰を据えた雰囲気。Tony Arata、Jim Lauderdale、Leslie Satcher、Allen Reynoldsらによる素材も極上です。その中でも地味な作品ですが、Lee Roy Parnell とTony Arataによる"Old Soul"は、タイトルどうりサザン~ディープ・ソウルの現在形を提供してくれます。今、こんな生気溢れるアーシーでソウルフルなサウンドと歌を聞かせてくれるブラック・アーティストはいません。
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