1995年、その男勝りのカウボーイハット・ルックや、"Better Things to Do"を始めとする、ホンキー・トンク・フィール溢れる10曲連続のトップ10ヒットによって、彗星のごとくカントリー・フィールドのスターダムに躍り出たテリ・クラーク。カナダ出身の彼女は、コレまで3枚のプラチナ・ディスク(「Terri Clark」「Just The Same Way」「How I Feel」)を獲得すると共に、CMAアワードにも4度ノミネートされてきました。彼女の美しさやギター・ヒーロー的なカリスマ性、そして象徴的なカウボーイハットによる、叩き上げ的な強いイメージが彼女の個性と言えるでしょう。そんなテリの最新作は、これまでのメジャーレーベルであるMercuryから離れ、自身で立ち上げたカナダのインディ・レーベルからリリース。プロデュースも彼女が単独で行っている意欲作で、これまでになく自身のパーソナルな思いが綴られた作品になっています。裏ジャケットでの、18番のカウボーイ・ハットをかぶらずに、ナショナル社のリゾネイター・ギター~戦前のカントリー・ブルースマンが好んで使った事で知られる~を弾く姿からも、従来の彼女とは少し違う方向性が感じられますね。
このアルバムの制作には、彼女の母親が癌を宣告された事が大きく影響しました。「医師が私の母の余命を宣告したの」テリは回想します「身近にいる人を失ってしまうかもしれない時、何の動揺も感じない人などいないし、またそれはクリエイティブな創造を育むきっかけにもなるのよ。それは私を立ち止まらせて、自分のこれまでの人生や、向かおうとしていた方向を見つめなおさせたわ。それは、人が何を受け入れる事を望み、また何を受け入れるのを拒むのかを明確にしてくれた。だって全ては一時的なものでしかないんだから」
「The Long Way Home」の当初の制作コンセプトは、母にカナダから車でナッシュビルに連れてきてもらった18歳の頃となんら変わらず、メジャー・レーベル、Sony Musicへ移籍してヒットを狙い続ける事でした。「しばらくすると、自分が何を求めているのかが分からなくなったのよ。ただレコーディングし続けて、お金を使って、アルバムを売る為のシングルを見つけるだけ」そしてテリは、Sony MusicのチェアマンJoe Galaneの願いを振り切ってカナダの自宅に帰り、母の看病に専念するのです。この経験によってテリは、これまでの”タフ”なイメージに加えて、”優しさ”というこれまでにない素直な姿を、「The Long Way Home」で獲得しました。「誰にでも直面するだろう最悪な経験をした時、それはその人の歌に反映されるものよ。歌うこと、プレイする事、そして曲を書く事は、私にとって感情の表現であると共に逃避の手段なの。健康的な形のね」
オープニングでリードシングルとなった"Gypsy Boots"は、ホーン・セクションをフィーチャしたサザン・ソウル調(ブルース・ブラザーズ的なヤツね)ジャンプ・ナンバー。ある意味安定したホンキー・トンク・スタイルで通してきた彼女のイメージを早々に壊すところが痛快。そしてラストには、同曲のアンプラグドなスタイルのデモ・バージョンも収録。こちらは幾分カントリー・ブルース・スタイルで仕上げていて、ダウンホームなメロディが引き立ちます。コレ、先に触れた裏ジャケのイメージですね。シンコペイトする軽やかなバンジョーがアーシーな"What Happens In Vegas(Follows You Home)"は、カントリーらしいアコースティックなアンサンブルが気持ち良いミディアム曲。お気に入りです。
そして注目のスロー曲、派手さはなくとも堅実なバックの響きが美しい充実した作品群です。テリが単独で書き上げた"A Million Ways to Run"、この純粋な正直さを歌ったカントリー・バラードは、彼女曰く「神様からの授かりモノ」とのこと。"Merry Go Round"を共作したTom Shapiroは、デビュー・ヒット"Better Things to Do"から共作しているという長い付き合い。本作でも4曲で名を連ねています。Tom曰く、「コレは人が人生の中でどこにいるのか、というテーマについての曲だ。止めるのか?、それとも続けるのか?私は長年コマーシャルな曲を書いてきて、テリもそういう曲が好きだったけれど、私も年齢を重ねたんだよ。曲で何かメッセージを伝えたくなったんだ。テリと僕は、良い場所を探し当てたんだ」ヴィンス・ギルがコーラスで参加した"The One You Love"も、重鎮ソングライター、ゲイリー・バーGary Burrが共作したモダンなスローの佳曲です。要所で響く乾いたストリングスが、曲に見事な陰影を与えています。テリがゲイリーにこう持ちかけた事で生まれたそう。「こういう曲って貴方の目指すものに比べると、おそらく重すぎるんだと思うの。決してラジオではかけてくれないでしょうから。でも、私には大切なものなのよ」テリがこのアルバムをパーソナルなコンセプトで仕上げようとした思いが、良く分かるエピソードだと思います。
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