ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Mark Wills マーク・ウィルス - The Definitive Collection

2009-08-27 | カントリー(男性)
 カントリーゴールド2009に来日する”HONKEY TONK TAILGATE PARTY”のキー・パーソンで、事実上のヘッドライナーであるマーク・ウィルスMark Wills。一見男性三人でチョッと華にかける印象をもたれるかもしれませんが、このマークは90年代後半から2000年代前半にかけて、そのスムーズで温かいクルーナーを駆使したクロスオーバーなバラードでヒットを連発した大スターなのです。最新作、「2nd Time Around」は、それら過去ヒット曲のリメイクと言う事もあり、今回は商業的なピーク、1996~2003年のMercury レーベル時代のベスト・アルバム(とMartin Huxley氏のライナーノーツも参考に)を通じて彼の音楽を紹介しましょう。

        

 マークは1973年テネシー州はClevelandで生まれます。少年時代はジョージア州Blue Ridgeで育ち、地元のハード・ロック・バンドでプレイしていました。しかしティーンエイジャーの頃から既にカントリーへ心が傾き始め、ほどなくいろんな地域のホンキー・トンク・バーでのコンテストで優勝をさらうようになります。そして17歳の時、数年前にトラヴィス・トリットが成功への足がかりを掴んだ有名なクラブ、Buckboardでのコンテストでも優勝。マークはそのクラブのハウスバンドのリードシンガーとして迎えられるのです。以後5年間、週に5日、3~4セットのライブをこなす事で、彼は自身のライブのスキルを磨き、レコーディング・キャリアへ向けて大きく歩を進めるのです。この時期に、マークはデモ・レコーディングの為に頻繁にナッシュビルを訪れるようになり、そのデモがMercuryの代表Carson Chamberlainと、プロデューサKeith Stegall(Alan Jacksonで有名)の興味をひきつける事になります。Keithはわざわざジョージア州までマークの声を聴きに行くほどに惚れ込み、レコーディング契約を獲得できたのです。

        

 Carson ChamberlainとKeith Stegallがプロデュースした、1996年のデビュー作「Mark Wills」で早くも時代を代表する新人としての地位を確立。裕福な少女と貧しい少年のラブ・ストーリー"Jacob's Ladder"と、高揚するロマンティックな叙情詩"Please I've Never Been"の2曲のトップ10ヒットを生んだのです。前者は軽快でなホンキー・トンク・スタイル、そして後者も切々と聴かせるカントリー・バラードと、この時点ではまだストレート・カントリー志向と言えるでしょう。

        

 そして彼のブレイク作となった、セカンドの「Wish You Were Here」が1998年にリリースされます。私も当時買いました。デビュー作のデリケートでバラード・メインのスタイルを更に推し進め、曲調もモダンなAOR風に振った野心作。"Don't Laugh at Me"は、CMAアワードのシングル、ソング、そしてヴィデオ部門でそれぞれノミネートされ、"I Do (Cherish You)"は、98 Degreesというポップ・グループにカバーされました。ともにカントリー・チャート2位。アーバンな雰囲気のコーラスが印象的な"She's In Love"もトップ10に入っていますが、堂々ナンバー1を獲得したのが、愛する人を失う喪失感を喚起させるタイトル・ソング"Wish You Were Here"です。これらヒット曲のおかげで、アルバムもプラチナ・アルバムになっています。そしてマーク自身も、1999年のAcademy of Countryアワードで、新人男性シンガー賞を獲得したのです。

 これらのヒット曲の中で特に触れておきたいのが、"Don't Laugh at Me"の当時アメリカ社会へ与えた影響の大きさです。このナンバーは、身体的な特徴や障害、そして社会的立場によって、無理解や虐待にさらされている人たち(歌詞中、いじめに逢う子どもや、未婚の母、ホームレスが取り上げられる)の立場に立って、「私の事を笑うな」と訴えかける道徳的なメッセージソング。特に子どもの教育のたずさわる人たちに影響を与えると共に、ピーター・ポール&マリー("Don't Laugh at Me"をカバー)のピーター・ヤローに「オペレーション・リスペクト」という、子どもへの虐待をなくそうと活動するNPOを発足させるキッカケとなりました。この曲は、子ども達のサマー・キャンプや青少年セミナーで広く取り上げられ、人としてお互いを尊重する事の大切さを教えるとともに、感動を与えていると言います。(参考文献:ロバート・T・ロルフ著「カントリー音楽のアメリカ」)

        

 2000年の3枚目「Permanently」は幾つかのスタイルの変化をもたらし、成功しました。ここでは何と、R&Bスター、ブライアン・マックナイトBrian McKnightのペンによる"Back At One"の自信に満ち溢れた解釈が、カントリーチャートの2位を獲得。"She's In Love"に通じるアーバンなコーラスがポップです。そしてもう一つのハイライトは、女性R&Bスター、ブランディBrandyでヒットした"Almost Doesn't Count"の絶妙なカントリー・リメイクです。物悲しいマンドリンの爪弾きに導かれて、ロンサム感溢れる見事なカントリー・バラードになっていると思います。

        

 2001年の4枚目「Loving Every Minute」では、さらにコンテンポラリーな手触りを取り入れ、スタイルを広げます。タイトル・トラック"Loving Every Minute"は、打ち込みリズムがフィーチャーされた、グルーヴィーでドラマティックなミディアム・スロー。この手の”パワー・バラード”が散見されだしたのがこの頃でしたね。"I'm Not Gonna Do Anything Without You"は、当時人気の女性シンガーJamie O'Nealとのデュエット。スムーズなポップ・ミディアムで、心地良いです。

        

 それまでの成功にも関わらず、2002年の「Greatest Hits」でフィーチャーした新曲で、マークは新たな挑戦を試みます。これまでのプロデューサーCarson ChamberlainとKeith Stegallに替えて、Chris Lindseyを起用。それまでトレードマークにしていたバラードでなくアップテンポなナンバーで勝負に出たのです。結果、"19 Somethin'"はカントリー・チャートで5週連続ナンバー1の大ヒット。80年代のニュー・ウェイブ・ポップ風の弾むギター・サウンドを持つこの曲は、2003年始めのカントリー・ラジオで最もオンエアされたナンバーになったのです。

        

 そしてMercuryレーベルでの最後となる「And The Crowd Goes Wild」が2003年にリリースされます。引き続きChris Lindseyがプロデュース。リード・シングルとなったタイトル・ソング"And The Crowd Goes Wild"は、ソングライティングに売れっ子ライターJeffrey Steelsが加わったハード・ロッキン・ソング。"19 Somethin'"に続いて、自身のバラディアー的イメージを覆さんとする意欲作で、ラフなシャウトやラップっぽいボーカルを披露します。チョッとここまで行くとマークらしさが・・・・てな印象もありますが、"That's A Woman"では本来の彼らしい優しみを披露し安心させてくれます。

 メジャー・レーベルを離れてからもレベルの高い作品を提供し続けていて、2005年のライブアルバム「Live at Billy Bob's Texas」は高い評価を得ています。最新作の「2nd Time Around」も、決してヒットの再録でお茶を濁す、などというのではなく、クリアなアコースティック・アレンジで彼のボーカルにフォーカスしたサウンドが、代表曲に新たな解釈を与えていると好評です。何をおいてもセールスが求められるメジャーを離れ、本当に自分の目指す音楽をやれる環境に身をおくことができ、精神的には充実しているのでしょう。カントリー・ゴールド2009でのパフォーマンスに期待が高まりますね。

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2 コメント

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Unknown (フランソワ)
2009-11-01 12:51:38
MARK、最高でした。
これ以上は何も言えないぐらい素晴らしかった。TRENT 、JEFF素晴らしかったです。
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マーク (bigbird307)
2009-11-11 23:54:28
フランソワさん、コメント感謝しております。

私、今年は行けませんでした。で、先週のBSを見ました。マークは、アラバマ・メドレーが「何で?」って思いましたが、"Don't Laugh At Me"をオンエアしてくれたのが嬉しかったです。このブログで取り上げたから?何て言ったら、おこがましいでしょうか!?でも、嬉しかったですね。でも、他のマークのヒット曲も聴きたかった。

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