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ユッタリとしたもの悲しいカントリー・バラードを、しっとりと、そして希望をも感じさせるような可憐なカントリー・ボイスで歌うディーバLee Ann Womackの新作がリリースされました。トラディショナルとコンテンポラリーの間を絶妙にバランスを取りながら安定した作品を提供し続けてきた彼女。2005年の前作「There's More Where That Came From」がその極みともいえる名盤だったものですから、本作への期待はいやがうえにも高まります。プロデュースはMCAの重役、Tony Brownが担当。多くのヒット・カントリーを送り出してきた彼らしく、少しコンテンポラリーに振った作風になってます。正直、前作に追いついているとは言えないけれども、心を捉える異色の魅力を感じる部分もあったりでLee Annの魅力は十分堪能できる必聴アイテム!です。ただ、このジャケットはいただけないなぁ・・・ユニークで目立つけれでも、コンテンポラリーって言うより俗っぽくてアルバムの雰囲気を伝えているとは言えない(つまり、趣味が悪い)。残念。
「There's More Where That Came From」
オープニングはリード・シングルの"Last Call"。このメランコリックなナンバーを最初に持ってくるのがLee Annらしい。ほのかにきらびやかな感触が加わっているところが、「There's More Where That Came From」との違いですね。"Solitary Thinkin'"は、タメのあるドラムとキーボードが印象的で、しっとりとしたクラシック・ソウル調のサウンド。もちろん、Lee Annの声は全然ソウル調じゃなく自分のスタイルで魂を表現しています。ライターのWaylon Payneって、Sammi Smithの息子のハズです。Lee Annは彼の事をこう語っています。「彼は真実のソングライターよ。彼は様式には拘らない。そういものを意識してるとは、私に思えないのよ」アルバム中最もユニークなのが、打ち込みリズムと共に陰鬱なオルガンのイントロで始まる"The Bees"。しかしけして場違いな存在感はなく、かつてないイメージのナイスなLee Annが楽しめます。サウンド全体のダークなイメージと、コーラスでの浮遊感あるファルセットの対比が上手い。Lee Ann自身も意識していて、「"The Bee"はグレイトなナンバーで、型にはまったヒット曲じゃないわ」キース・アーバン(Keith Urban)がハモっています。私、気に入っています。
前作に入っていてもおかしくない、クオリティの高い正調カントリー・バラードももちろん聴けます。しかも多くがLee Ann自身もソングライティングに加わっている事に注目したいですね。やっぱり物悲しいアコースティック・ギターの響きが王道の、Lee Annが自らを歌ったと言う"Have You Seen That Girl," 3拍子のリズムとエモーショナルな歌唱が心に引っかかる"If These Walls Could Talk"など絶品。ジョージ・ストレイト(George Strait)とのデュエット"Everything but Quits"は、ストリングスが印象的(で、少々大げさで甘いかな・・・)な、かつてのナッシュビル・サウンド調バラードです。スト様とのデュエットはコレで2曲目(もう一つは"Good News, Bad News")。やはり彼女にとって特別な事のようで、「ジョージとレコーディングした両方の作品を誇りに思っているわ。彼の声って、とてもスムーズで豊かで、そして和めるのね。彼に歌ってもらえる曲を書くのって、とても楽しいわ」
"I Think I Know"はシンプルでアコースティックなアンサンブルが柔らかなカントリー・ミディアムでグッド。しかしそんな和やかなカントリー・サウンドでLee Annは栄光のレジェンド達一人ひとりについて、彼らの命を奪った真因を明かしていきます~キース・ホィットリー(Keith Whitley)を殺したのは、ウィスキーではなく成功してもなおつきまとう悲しい孤独、ハンク・ウィリアムスはキャデラックの後席で虚無感におしつぶされ、そしてジョニー・キャッシュは体力の衰えのせいなどではなく、妻ジューンの後を追ったのよ。私にはわかるの~彼女自身の孤独を慰めるかのように歌われています。Lee Annは実は最初この曲を取り上げるのは乗り気ではなかったそう。なぜなら、最近猫も杓子もジョニー・キャッシュの事を軽々しく取り上げるのを面白く思ってなかったからです。しかし~成功してもなおつきまとう悲しい孤独~というフレーズが心を掴んで離れなくなってしまったそう。ライターはTom Shapiro/Mark Nesler/Tony Martinの3人、ジョージ・ストレイトのヒット曲を多く書いてるチームです。
1966年、テキサス州Jacksonville生まれ。父親がパートタイムのディスクジョッキーをやっていて、時折スタジオに行ってはお気に入りのレジェンドのレコード~Bob Wills、Ray PriceとGlen Campbellなどなど~をかけて貰っていました。家では、天気のいい日に聴こえるグランド・オール・オープリーを、スピーカーの間に寝そべって聴いていたとか。ブルーグラスとカントリー・ミュージックで学位を与える初めての学校の一つ、テキサスのSouth Plains Junior Collegeで学んいる時にカントリー・バンドのメンバーになり、南西部や南カリフォルニアをツアーするなど音楽活動を開始。まもなくナッシュビルのBelmont Universityで音楽ビジネスを学ぶように。そのときにMCAのA&R部門にインターンで出入りする事ができました。在学中に、CDもリリースしているJason Sellersと結婚(後に離婚)、ますます作曲に注力していき、1995年にソングライター契約を、そしてトントン拍子にMACとのアーティスト契約にこぎ付けるのです。1997年のデビュー曲"Never Again, Again"は(信じられないことに)ヒットしませんでしたが、 アラン・ジャクソン(Alan Jackson)やジョージ・ストレイトのお墨付きを得て、その後お得意のカントリー・バラードでヒットを連発するように。そして2000年、トリプル・プラチナに輝いたサード・アルバムからタイトル曲"I Hope You Dance"が5週連続No.1をモノにし、現在に到るまでのキャリア最大のヒットとなったのです。 2001年にはCMAアワードの女性ボーカルのウィナーを獲得。さらに2005年には「There's More Where That Came From」でAlbum of the Yearを、そしてそのアルバムからの"I May Hate Myself In The Morning"でSingle of the Yearを受賞するのです。こうして、メインストリーム・カントリー・シーンで、最もトラディショナルなカントリー・ボイスとサウンドを持つ女性シンガーとして君臨しています。
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