バードトレーニング

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「罰」が鳥に伝えること

2006年07月30日 | 罰について
悪いことは悪いとキチンと教えなくてはいけない。しつけは叱ること。
こんな考えが以前のしつけの「常識」でした。

新しい鳥のしつけは、「良い行動を見つける、伸ばす、生かす」です。
もう心を鬼にして叱らなくても良いのです。

鳥にとっては、ほめられる方が、叱られるよりもずっとよくわかるからです。

ほめる方がわかりやすいの? うそだぁ!

■どうして罰を使わないの?

【例】ヤマダさんとポーちゃんのケース

ポーちゃんは、いつも陽気なにぎやかさん。誰かが喋っていると一緒にお話ししたり歌ったり。ご機嫌なあまり、時々はエスカレートして叫んだりします。
ヤマダさんは、いつもはそんなポーちゃんをほほえましく見ていますが、自営業なので大切な電話がかかってくることもしばしば。そんな時は、ポーちゃんに静かにして欲しいと思っています。
電話の時には、小さな声で「シー」と言ったり、「ダメ」と言ったりしますが効果なし。ある時、コードレスの子機の充電が切れている時に大切な電話がかかってきたからさあ大変。親機はポーちゃんのケージすぐとなり!
そして、ポーちゃんは今日もハイテンション。
しばらく我慢して電話の応対をしていたのですが、あまりのうるささに相手の話が聞こえません。

ヤマダさんはついに、ケージを叩いてしまいました。

  ~の時     ~したら   何が起こった?
ケージにいる時 → 鳴いたら → ケージを叩かれた
 

ポーちゃん:びっくりして一瞬鳴きやんだ。

ヤマダさんはこれまで、こんなふうにポーちゃんを叱ったことがありませんでした。ケージを叩いてポーちゃんが静かになったので、「厳しいしつけも大切なのだな」と思いました。以来電話がかかってきたときにポーちゃんが騒ぐとケージを叩いて叱るようにしました。

しばらくすると、ポーちゃんがヤマダさんを避けるようになったのに気がつきました。ケージの近くを通っても挨拶に来ません。手を差し出すと噛もうとします。放鳥してもそばに寄ってくることがなくなり、手にも乗らなくなってしまいました。

ヤマダさん:私を避けたり、噛みつこうとするなんて反抗期かな?

■「罰」で学習すること

ヤマダさんとケージを叩くという嫌なことがセットで現れるので、ヤマダさん=嫌なことが結びついてしまいました。ケージを叩くという嫌なことと一緒になっている手も嫌いになってしまいました。

ヤマダさんは、電話がかかっているときは、静かにして!をケージを叩いて「ダメ!」と伝えたつもりでした。

  ~の時         ~したら    何が起こった?
電話で話しているとき → 鳴いたら → ケージを叩く
 

山田さんは、ポーちゃんはヤマダさんの意図を下のように認識できていると思っていました。

  ~の時         ~したら     何が起こった?
電話で話しているとき → 鳴いたら → ケージを叩かれた


しかし、実際には、ポーちゃんは、下のように行動と嫌なことが結びついていなかったのです。

  ~の時         ~したら    何が起こった?
ヤマダさんがいるとき →  ? → ケージを叩かれた
 

これでは、ポーちゃんは何が悪いのかわかりません。
ただ、ヤマダさんがケージの近くにいると嫌なことが起こる、ということだけははっきり認識できたのです。

嫌なことが起こった時の環境を安全な環境と区別するために、鳥は手がかりを探します。嫌な出来事とその状況にいた人、物などを結びつけ、それを不快に思うようになります。そして、遠ざかることで不快なことから逃れようとしたり、噛もうとして不快なことが起こらないようにする行動を取るのです。

悪いことを悪いと教えてしつけようと思っていると、叱ったときに噛んだり逃げたりすることは、反省していないように見えたり、反抗的に見えるかもしれません。しかし、鳥にとってはこれは危険から身を守るとても自然な行動なのです。不快な状態から回避したり逃避したりすることはとても大切で、これができない状態で罰を与えられ続けると、鬱状態になったり、毛引きなどの重篤な問題行動が生じることもあります。

このように罰を使って「それは悪いことだから、やめなさい」とはっきりと伝えることはとても難しいのです。悪いとわかったところで、鳥はどうしたらいいのかを教えてもらっていませんので、どうして良いかわからないのです。

罰を使わないしつけは、逆の発想です。悪いことを悪いことと教えるのではなく、こうしてね、を教えるのです。

  ~の時         ~したら     何が起こった?
電話で話しているとき → おもちゃで遊ぶ → ごほうびあり
 
こうすれば、ポーちゃんは、ヤマダさんがポーちゃんにして欲しいことがだんだんわかってくるでしょう。最初から上手にできませんが、徐々に時間を延ばしていけばできるようになります。また、電話が終わった後に、思いっきり遊んであげるようにすれば、ポーちゃんは、電話が終わるのをワクワクして待っていることでしょう。


■恐ろしい罰の副作用

効果のない叱るしつけがこれまで広く用いられてきたのは、それまで叱ることが「しつけの常識」であったこともありますが、もう一つの原因は罰のもつ効果が知らず知らずのうちに私たちに罰を使わせてきたのです。

ヤマダさんのケージを叩くという行動は、ポーちゃんのうるさい鳴き声という嫌なことがなくなることで繰り返されるようになります。

  ~の時         ~したら     何が起こった?
電話で話しているとき → ケージを叩く → 鳴きやんだ  


山田さんは気がついていないのですが、電話のたびにケージを叩いていたのであれば、ポーちゃんが罰によって行動を変えていないことを示しています。ケージを叩くという刺激でほんの少しの間だけポーちゃんが静かになる。この「行動の直後に嫌なことが(一瞬でも)なくなる」ことによって「ケージを叩く」ということを繰り返していたのです。効果がないのにもかかわらず・・・。


■罰に慣れてしまう


多くの人は、相手のことを考えて最初から大きな罰は与えません。効果のない罰(これは罰とは言えませんが)を与えては、「言うことを聞かない」と罰の強さを徐々に大きくしていきます。
しかし、動物は、無駄な刺激に反応しないように「慣れ」てきます。徐々に罰の大きさを大きくするのは効果がないのです。

■罰を上手に使う?

それでは、効果的な大きな罰与えればいいのでしょうか。効果的な罰をその都度与えれば鳥は行動をやめます。しかし、罰の効果を思い出して下さい。私たちは、ヤマダさんと同じように罰を使って嫌なことがなくなると頻繁にそれを繰り返すようになるのです。

鳥はもともと人間とは違う独特のパターンを持って暮らす生き物です。大きな声で鳴く、家具を囓る、壁紙をはがす、いつでもなにか「やらかして」くれます。鳥にとっては「鳥らしい」ごく自然な行動であっても、私たちにとってはやめて欲しい行動です。罰を使うことで嫌なことがなくなった経験をするとどんな場面でもこれを使って悪い行動を制止しようとするようになるでしょう。

するとどうでしょう。何か行動をすると嫌なことが起こるの繰り返しで、生き生きとした快活な可愛い子は失われ、うつろな瞳、乏しい行動パターン、ケージの奥からじっと様子をうかがう「生気に乏しい籠の鳥」にしてしまう可能性大なのです。

ですから、恐ろしい罰の罠にはまらないために、勇気を持って「罰を使わないこと」を選択してください。
鳥に限らずすべての動物のしつけやトレーニングは、「ほめる」だけです。

■ダメ!イケナイ!が伝えること

ヤマダさんもそうでしたが、ダメ、イケナイという言葉を単独で用いても全くと言っていいほど効果がありません。

ダメ、イケナイという言葉に「それやめなさい!」の意味を持たせるには、罰と一緒に与えなくてはなりません。
「イケナイ!(ダメ!)」と声をかけても(ついでに睨んでも)鳥にとっては「なあに?」位にしか思わないかもしれません。

大きな声で「コラ!」といっても、何度か繰り返せば「わーい、応援してくれてるの? 頑張るよ!」とばかり、その行為を一生懸命繰り返すようになるかもしれません。鳥たちは大好きな家族に注目されることは何より素敵なことと考えるのですから。こういった制止のかけ声は、ごほうびとして鳥の行動の回数を増やす役割を果たすことが多いのです。


■息を吹きかける、揺らす


息を吹きかける、鳥が乗った手を揺らすなどの小さな罰は、個体によって行動を抑制する場合もありますが、ない場合もあります。鳥それぞれによって感じ方が異なります。

効果がある場合は、鳥は罰を不快に思って噛んだり、手を避ける可能性もあります。
 ■「罰」で学習すること をご覧下さい。

効果がない場合は、ついつい罰を大きくしてしまいがちです。
 ■罰になれてしまう ■罰を上手に使う? をご覧下さい。


■終わりに

  甘やかすことと誤解されがちなのですが、ほめることは、学習する側は「こうしてね」がはっきりとわかります。つまり、学習者に優しいのです。うちの子は、ほめられるようなことをしない、とお嘆きかもしれませんが、小さなことから積み上げていって最終形を作りましょう。叱って信頼関係を壊したり、叱っているつもりで応援してたりするより、ほめることは遠回りのように見えてずっと着実で早いのかもしれません。

 ほめることの副作用と言えば、罰とは逆に行動が豊かになること。鳥にとっても頭を使ってほめられるように様々な行動をすることは、体と心の健康にとても良いことなのです。

 そうそう、ほめることのもう一つの大きな副作用を忘れていました。それは、もっと鳥が可愛くなってしまうこと。どうぞ今から試してみてください。鳥たちはほめられるとグングン成長していきます。鳥も人も楽しくなくちゃ! です。

 この記事は、これまで罰を与えていた人を非難するものではありません。ほめるしつけを選択するという方を応援する気持ちを込めて書きました。

 そして、罰を使わない、と決めても人はどうしても罰を使ってしまいたくなる時があるのです。そのことを忘れないために。



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