10月29日付けの朝日新聞 be on Saturday (Red) に載っていた、高野和明さん「作家の口福」というエッセイを読んで。。
途中省略しつつ、一部を抜粋いたします。
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苦闘の3年 「食べていける」ことの幸せ
高校を出たら映画監督を目指す、と言った私に父親は反対した。「食べていけるはずがない」と。しかし親の庇護の下にある10代の少年には、「食べていく」とはどういうことなのか、まったく分かっていなかった。
その後、紆余曲折あって、27歳でプロの脚本家になった。実家を出て古い木造アパートに移り住み、そこの6畳間にワープロ専用機を置いて仕事場とした。
(中略)
しかし、いくら頑張っても監督への道は開けなかった。それどころか脚本家としての仕事も減っていき、ようやくありついた仕事では立て続けに原稿料を踏み倒され、100円の金にも困るような生活になった。不幸というものは波状攻撃を仕掛けてくるようで、そんな厳しい時に父親が死んだ。
当時、人生のどん底にいるという実感があった。まさに言葉通りの、食べていけるかどうかの瀬戸際だった。元々料理が出来ず、自炊を始めようにも鍋釜類を買う金すらないとあっては、食事は外食に頼らざるを得ない。その出費をいかに抑えるかが、大袈裟に言えば自分の将来が懸かった大問題となった。食べていけなくなれば、すべてが終わるのだ。
この苦闘の3年間に、救世主となってくれたのが、仕事場の近くにあった定食屋だった。夫婦二人で切り盛りしている小さな店で、ご飯と味噌汁付きの日替わり定食が430円で食べられた。この値段は、他所では考えれられないくらいの破格の安さだった。
(中略)
お店をやっているご夫婦は、日曜日以外は決して休まず、朝の10時から深夜0時まで働きづめに働き、付近の労働者たちの胃袋を支えていた。
この店の、夜中まで明かりの灯る窓を見るたびに私は思った。社会のヒーローはテレビの中にはいない。本物のヒーローやヒロインは、自分にできることを一生懸命にやって、人知れず誰かの役に立っているのだ。
財布の中に小銭しかなかったあの時代に2度と戻りたいとは思わないが、何不自由なく育ってきた自分にとっては、物書きとして一人前になるための最後の修行だったように思う。
そして今、まだまだ将来に不安はあるものの、私は小説家として食べていけている。
何と幸せなことだろう!
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ヒーローとヒロインのくだりで泣けました。。
そうなんだよねぇ。。そうやって、他者(人)のためになにかしらする人がいて、社会が成り立っているのですよね。
決して、そのことを忘れてはいけないのだと思います。
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