その人のことを、実際には何も知らないのに、亡くなったと聞いて
喪失感を覚えることがあります。
何十年も生きていると、そのような人ばかりで、
「忘れがたい人の名簿」が出来上がっているのですね。
私の脳裏をよぎった有名人や「噂の人」は、じつに、数えきれないのでしょう。だから、
過去の歳月をたどるとき、まるで、古い本棚をひっくり返したように、
次から次へと時代の人の顔や名前が浮かびます。
中でも、とりわけ、そそり立つ名前だったと、思うのです。
高倉健さん
健さんは、大人の男だった。年上の従姉妹や母なんかが大ファンだった。
当時、心が子供の私は、いずまいの正しいちょっと悲しげなイケメンの顔に、
まだ、共感を結ぶことができなかった。
訃報に合わせて、健さんのインタビューが再放送されていた。
文化勲章を受けた時
「自分は前科者の役が多かったのに、このような褒賞をいただいて・・・」
とのコメント。
網走番外地とか、やくざ映画は見た記憶がない。
だのに、しっかり、その時代の健さんもまぶたに残っている。
一世を風靡するというのは、日差しのように、ある時代をおおっていることかもしれない。、
◎ ◎ ◎
二年前、友人と健さん主演の「あなたへ」を観に行った。
八十歳と聞いていたので驚いた。
少しも変わっていない。
「いずまいの正しさ」がしっかりと存在していた。
ちょっと悲しげなイケメンぶりに、人生の風雪までがにじんでいた。
後姿がまっすぐで、吹き替えかしらと思うほどだった。坂道を歩くときも息切れはなかった。
相変わらず、私には無縁の、孤高の人に見えたけれど、それが、また、胸に迫ってくる。
じっさいには出会わない方が良い相手ってあるんですね。
だから、大スターなんですね。