その花はたったひとりで生きていました。
ひとりで生きているのが気楽だったからです。
山の細い道、
自然の中で鳥や風を相手に、飾らない人生を歩んで来たのです。
そんな花を摘んで持ち帰った人がいました。
花を愛する性格からすると、悪い人とは思えません。
悪いどころか、生まれて初めて愛すべき人と出逢って花は幸せでした。
彼は優しい言葉を掛けると、そっと花を持ち去りました。
彼がひとり住むマンションが花の新しい住まいとなりました。
ふたりの暮らしは静かでしたが、平和そのものでした。
日々優しい彼の視線を感じながら花は幸福感に包まれていたのです。
そう、彼女が現れるまでは。
花よりも優しく少し寂しげな佇まいの彼女は、たちまち彼の心を独占します。
彼女は花の手入れを片時も欠かしません。
残念ながら、文句の付けようのない人と言わざるを得ませんでした。
花はいつしか枯れるときを迎えました。
当然、ゴミ捨て場が花の最期の場所になるはずでした。
でも、実際は違いました。
鳥や風の待つ山道のほとりに、彼と彼女はそっと花を横たえました。
ふたりの優しさにいだかれて、花は静かにその魂を閉じました。
彼が摘んだ花は、あの日と同じ場所で永遠の眠りにつくことができました。
「ふ・ふ・ふ」
花が微笑んだような気がして、彼と彼女は顔を見合わせていました。
1年後、
2人の間に
それはそれは可愛らしい女の子が生まれたのです。
優しくて、
少し寂しげな佇まいの・・・。