発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

夏目漱石の「神経衰弱」とは?

2017-10-28 16:03:18 | その他の精神神経疾患
 NHK-BSで「偉人たちの健康診断 我が輩は健康である!?文豪 夏目漱石」(2017年10月11日放送)を見ました。



<番組内容>
 文豪・夏目漱石の生涯は病のオンパレード。そんな漱石を救ったのは一匹の猫だった。猫のセラピー効果や漱石が実践した健康法の数々を紹介。文豪の意外な素顔に迫る。
<詳細>
 腹膜炎、胃潰瘍、肺結核、糖尿病…。約50年の生涯でほとんど健康な時期がなかったという文豪・夏目漱石のもうひとつの顔は「健康法オタク」。洋の東西を問わず、当時の最新の健康法を調べては実践していたという。さらに漱石がもっとも苦しんだ「心の病」を救った猫の癒やし効果に注目。なぜ犬ではなく猫がよかったのか?名作「吾輩は猫である」に秘められた意外な健康法にも迫る。


 漱石は健康オタクであり、一時ボディビルにも手を出したとか・・・はさておき、病気に関していくつか興味深い事実を知りました。

 彼がロンドン留学時代に煩った「神経衰弱」。
 症状は「妄想」がメインだったようです。
 ・・・アパートを誰かに覗かれている、イギリス人がみんな自分を馬鹿にしている、等々。
 現在その病名は使われなくなっていますが、現代の病名に置き換えると「統合失調症」「重症うつ病」になると説明されていました。
 体調を崩した漱石は日本に帰国し、頻繁に癇癪を起こして周囲に迷惑をかけます。

 その漱石を救ったのが「ネコ」。
 彼の家にいつの間にか居座った名も無き野良ネコが、彼の心を癒やしたのでした。
 なにがよかったかというと、漱石がネコの視点で自分を客観的に見つめることができるようになったのでした。
 これって「アニマルセラピー」の走りとみることもできます。
 ネコ目線での自分や人間の生活を捉える・・・そう、ここに文壇デビュー作である「吾輩は猫である」が生まれたのでした。
 この野良ネコがいなかったら、彼は変人扱いされて一生を終えたかもしれません。
 このネコは数年後に亡くなるのですが、最後まで名前がなかったそうです。
 現在は新宿の漱石山房記念館の敷地内に「猫塚」として墓地があります。
 
 現在でも、統合失調症の治療に「自分を客観的に見つめる」ことの有効性が検討されています。
 北海道のべてるの家から発信されている「当事者研究」もその一つですね。
 それから、うつ病の治療に「認知療法・認知行動療法」がありますが、これも自分を見つめて分析するという作業の一つです。
 漱石はまさにその治療を100年前に実践して病気を克服した、ということになるのでしょう。

 漱石の死因は、胃潰瘍による大量出血でした。
 現在は胃潰瘍の原因がピロリ菌感染と判明しており、検査と除菌療法が確立されていますので、生まれた時代が異なればもっと長生きできたはず。
 それから、大量出血の原因の一つにアスピリン(アセチルサリチル酸)の副作用が挙げられていました。
 アスピリンは血小板機能を抑制して出血が止まりにくくする副作用があるのです。
 実際に妻である鏡子さんの手記には「風邪を引いて喉を痛めると、その後に決まって胃が痛くなる」と記されていました。おそらく服用したかぜ薬の中にアスピリンがふくまれていたものと推察されます。

「どこからが心の病ですか?」(岩波明著)

2017-06-11 16:26:33 | その他の精神神経疾患
 ちくまプリマー新書、2011年発行。

各精神疾患について、広く浅く概説した入門書的な内容でした。
ですから、「私は精神疾患なんだろうか?」と思い悩んでいる方が読んでも肩すかし感があると思います。
例示された症例も、解説が尻切れトンボで消化不良感が否めず。
非典型的なグレーゾーンの病態が多々存在するということを言いたいのでしょうか。

ただ、基礎知識の確認にはよい本です。

著者は、疑わしい症状があったとき、病状のパターンを大切に考えるよう記しています。
各精神疾患には病状・経過のパターンがあり、それに照らし合わせて判断する、ということです。
それはそうなんですが、専門家の医師でもうつ病と双極性障害の診断を誤る現状を知ると、素人にはまず無理と言わざるを得ません。

「セロトニン症候群 」という病気

2017-02-18 13:28:02 | その他の精神神経疾患
 この病名、知りませんでした。
 セロトニンが過剰な病態ですが、てんかんと区別が難しい症状なので診断が難しい。
 セロトニンそのものを分泌する腫瘍(カルチノイド)で起こりますが、精神疾患に使われる薬を過剰に服用した際に生じることもあるとの警告。

■ てんかんと誤診された12歳女子、意識障害の原因はセロトニン症候群
(2017年2月5日:MEDLEY)
 セロトニン症候群は命に関わる場合があります。脳や神経に作用する薬の副作用としてまれに現れます。自殺目的で薬を大量に飲み、手足が勝手に動く・意識の異常などの症状が現れた女の子の例が報告されました。

◇ 手足・意識の症状で入院した12歳の女の子
 トルコの研究班が、抗うつ薬のクロミプラミンを大量に飲んだことでセロトニン症候群が現れた12歳の女の子の例を、専門誌『Clinical Psychopharmacology and Neuroscience』に報告しました。
 この女の子は、手足が意思と関係なく勝手に動く症状(不随意収縮)と意識の異常(意識変容)があり、てんかんと診断されて入院しました。
 診察では心拍数が1分あたり140回、体温は39.5℃で、興奮、震え、汗、目が左右に震える(水平眼振)などの症状がありました。てんかんの特徴に当てはまらないため、改めてより詳しい問診がなされました。

◇ 自殺目的で抗うつ薬大量服用
 問診の結果、この女の子は入院以前に精神科クリニックで処方されたリスペリドン(抗精神病薬)を普通と違った用法で飲んでいました。
 お金を盗む、嘘をつく、家や学校から逃げ出すなどの行動がありました。
 さらに、自殺目的で抗うつ薬のクロミプラミン75mg錠を9錠飲んでいたことがわかりました。
 クロミプラミンは、日本で成人のうつ病などに対して処方される場合は、1日あたり225mgが用量の上限とされています。その最大用量に換算すると、この女の子は3日分を一度に飲んだ計算になります。
 入院治療の結果、24時間で症状は消え、2日後には血液検査値も改善傾向を示しました。
 自殺を図っていたことから、小児精神科クリニックの診察も受けました。4日後には監督のもとで退院となりました。
 研究班は考察の中で「抗うつ薬治療を受けている青少年に対してはセロトニン症候群を念頭に置くべきだ。なぜなら彼らは抗うつ薬で自殺を図ることがあるから」と指摘しています。

◇ 薬とセロトニン症候群
 セロトニン症候群は、脳内物質のセロトニンが異常に働くことによって起こります。原因は主に薬剤です。
 ここで紹介した女の子では、もし詳しく問診されていなければ、セロトニン症候群が見逃され、治療が遅れていた可能性があります。診察にあたった医師が薬の影響を想定できたことが原因の特定につながりました。確かに救急治療をする医師にとっては、似た症状を見たときにセロトニン症候群を思い出せることが大切と言える例でしょう。
 一方、セロトニン症候群は抗うつ薬などを飲んでいる人にとっても知るべきものです。自殺目的で故意に大量に飲んだときだけでなく、正しい用法・用量だったとしてもセロトニン症候群はごくまれに現れます。
 2016年3月には、アメリカの規制機関である食品医薬品局(FDA)から、痛みを和らげる作用がある「オピオイド鎮痛薬」と以下の薬などを同時に使った場合について、セロトニン症候群の危険性があるとして警告が出されました。

 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI)
 抗精神病薬
 片頭痛治療薬の一部(トリプタン製剤)
 パーキンソン病治療薬の一部(MAO-B阻害薬)
 吐き気止めの一部(オンダンセトロン、グラニセトロンなど)
 咳止めの一部(デキストロメトルファン)
 抗菌薬の一部(リネゾリド)
 セントジョーンズワート
 トリプトファン

一般にセロトニン症候群には次のような症状があります。

 興奮、幻覚、心拍数の増加(頻拍)、発熱、過剰な発汗、
 震え、筋肉のけいれん、こわばり、体をバランスよく動かせない、
 吐き気・嘔吐、下痢

 薬を飲んでいるときにもしこのような症状を感じたら、早めに薬を処方した医師に相談してください。


<参照文献>
Serotonin Syndrome after Clomipramine Overdose in a Child. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2016 Nov 30.

 続いて、症例報告です。

■ セロトニン症候群で死亡、46歳女性は目が勝手に動いていた 台湾から症例報告
from The New England journal of medicine
2016年11月30日:MEDLEY
 セロトニンという脳内物質が異常に働くことによって、発汗や幻覚を特徴とする「セロトニン症候群」という危険な状態が現れます。薬が原因と見られるセロトニン症候群で死亡した女性に見られた特徴的な症状が報告されました。

◇ セロトニン症候群で死亡した女性の症例報告
 台湾の研究班が、セロトニン症候群で死亡した46歳女性の例を、医学誌『New England Journal of Medicine』に報告しました。
 この女性が救急治療部に運ばれたとき、38.6℃の発熱、心拍数が1分あたり169回、興奮、冷や汗などの症状がありました。
 眼球がいろいろな方向に動いてしまう「眼球粗動」、足が固まって動かせない「強剛」、腕が勝手に動いてしまう「ミオクローヌス」の症状も現れていました。
 この女性は症状が出る前に、ベンラファキシンという抗うつ薬を、処方された量を超えて飲んでいました。ほかにアルプラゾラムエスタゾラムという抗不安薬(または睡眠薬)も処方されていました。
 症状と服薬歴からセロトニン症候群と診断され、ICU(集中治療室)で治療が行われましたが、数日後に死亡しました。

<参照文献>
Ocular Flutter in the Serotonin Syndrome. N Engl J Med. 2016 Nov 3.
・[動画]