発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「10代のうつ病」(NHK健康ライフ)

2018-11-19 07:35:05 | うつ病
 早朝のNHKラジオ番組「健康ライフ」で「10代のうつ病」(青山学院大学教育人間科学部 小児科医・児童精神科医 古荘純一Dr.)を放送していました。

 通して聞いてみて「子どもの体が現代社会を拒否した結果、子どものうつ病が増えてきているのではないか」と感じました。
 戦後社会が発展し、効率化を求め続けてきました。無駄のない生活は窮屈なもの。
 それを強制し続けるとストレスとなり、それが蓄積すると体をむしばんでいく。
 一線を越えると逃避行動として「うつ病」を発症する、いや、自分が壊れることで自分を守っているのかもしれません。

 子どもが追い詰められてうつ病を発症するような家族は、両親も追い詰められている可能性が大きいと思われます。
 両親を追い詰めているのは、“社会”です。
 効率化や業績を求める姿勢がなくならない限り、この傾向は変わらないのでしょう。


 気になったところをメモ。

<メモ>

「見逃されてきた子どものうつ病」
(2018.10.22放送)
・子どものうつ病は増えている。20年くらい前から実感しはじめた。
・腹痛や頭痛を繰り返し訴え、学校を休みがちになる子どもの経過を見ていると、精神的な不調が目立つようになり、行動面の問題(イライラして切れやすくなる、対人関係が気づきにくい、切れやすくなる)、焦燥感が強いなど一見うつ病とは反対の症状が現れてくることがある。眠れない、疲れやすい(朝目が醒めたときから疲労感がある)という訴えも目立つ。
・しかしこのような子どもの中に、ときに悲しみに満ちあふれている、自信を喪失していることも観察される例がある。悲壮感に溢れ、楽しみしていることもできなくなる。多彩な症状を訴えるこのような子どもたちをうつ病という視点でみると合致することに気づいた。
・当時はこのような子どもに「心身症〜起立性調節障害や心因反応」「不定愁訴」と診断名を付けていた。
・1980年代に海外で「子どものうつ病」の報告が増えてきて注目されるようになり、日本でも児童精神科医がその視点から診察するようになり、認知されるようになった。
・子どものうつは稀な病気ではない。抑うつの尺度を用いて評価すると、9〜15%の子どもが抑うつ度が高いと判断された。その子どもを実際に面接すると、そのうち2割程度に臨床的にうつ病の可能性が高いことが判明した。中学生に当てはめると、3〜5%になり、世界的な頻度(3%)と変わらない。クラスにひとりはうつ病予備軍/うつ病が存在する。
・「落ち込み」と「うつ病」の違い。うつ病は悲しい感情が強く、悲壮感(自分は取るに足らない人間だ、自分のすることはすべて失敗する等)にとらわれていて簡単に修正ができない。ただし子どもでは大人ほど長くは続かない(楽しいことがあったり、気分転換ができると回復しやすい)ことも特徴。それに加えて身体の不調(身体症状、身体反応)を訴える。
・子どものうつ病は表面化しにくい。以前はその存在が指摘されていなかったこと、「こどもにはうつ病はない」という医療者の先入観もその理由。
・古典的にはうつ病は中壮年の男性の病気と捉えられてきた。
・元気のない子どもに「精神を強く持て」「時間が経てば治る」「大人になれば治る」と様子観察されて見落とされてきたが、それで改善する子どもがたくさんいる一方で、一部の子どもは体の不調の訴えが続き、その後身体の不調を訴えるようになり、日常生活もうまくできなくなっていく、といううつ病の経過を辿る例もある。

「大人のうつ病との違い」
・脳の中で起きていることは同じであるが、大人と子どもでは言動が異なるので、症状も異なってくる。
・子どもでは攻撃的な行動が特徴である。大人では見られないような、イライラした気持ち、じっとしていられない、攻撃的な言動を繰り返すなど、一見うつ病ではなく、発達障がい、ほかの精神疾患、単なる反抗などを思わせる症状が目立つ側面がある。ただ、それに伴い大人で見られるような身体的な不調、精神的落ち込みの要素も見られることがしばしばある。
・身体症状として眠れない(不眠)が目立つことが特徴である。大人のうつ病同様の「早朝覚醒」や「中途覚醒」がみられ、これらはふつうの子どもには見られない(「寝付けない」はときどきある)。
・子どもに特化したうつ病の診断基準はなく、大人用の診断基準を当てはめて用いるのが現状。ただし同じ質問をしても反応が異なるため、子ども用の「抑うつの尺度」がある(18の質問項目を3段階に分ける)。
・原因は他の精神疾患同様、先天的因子+後天的因子(環境因子)とされる。発達障がいや統合失調症と比較して環境因子が強く影響すると言われている。後天的因子の中では心理的ストレスが重要であり、年齢が早いほど、ストレスが多いほどリスクが高いことがわかってきた。
・子どものうつ病が増えている背景は、後天的因子の影響が大きいと考えると、急速な近代化に伴い社会環境・構造が大人に便利なように変化してきたため、社会的弱者である子どもがついて行けない、ストレスを感じてしまう、などが考えられる。
・子どもの方が社会の変化に柔軟に適応できそうなものであるが、表面上はそうでも、環境の変化には適応しにくい傾向がある(例:一晩眠れないとそれを子どもが取り戻すのは大変)。
・受診のタイミング:休息を取っても調子が戻らない、興味を持っていたものを楽しめない、午前中は調子が悪く夕方調子がよくなるが寝ても回復しない、朝起きてから眠気がなかなかとれない・だるい〜睡眠障害がある、気持ちが落ち込み自分を責めるような言動(極端な例では「死にたい」)。

□ 「子どものうつ病の対処法・治療法
・まずは正確な診断・鑑別診断。
・診断後にできることは「環境調節」「精神療法」「薬物療法」の3つ。
・環境調節:子どもが体調不良を訴えたときは、大人が思っているより疲れている。精神論、大人の都合による治療目標(いつまでに治そう、等)を語りだすと子どもを追い詰めてしまう。
・精神療法(認知行動療法):発想方法の転換を訓練し、身につけていく。
・薬物療法:子どもに適応がある薬物は日本にはないが、大人用の薬を使っているのが現状。

□ 「子どものうつ病に潜むもの
・ストレスを多く感じる子どもほど、うつ病になりやすい。大人のペースに合わせた生活にするとストレスを感じやすい。
・「睡眠不足の自覚」がキーワード。
・過剰な情報を処理し切れていないこと、それにこだわることがストレスになる。
・いじめを契機に発症することがある。
・うつ病になると、すべてのことを否定的に捉えるようになり、自分のことも否定的に捉える(自己卑下)。QOLが低いこと、自尊感情が下がることがうつ病と強く関連する。
・小学生〜中学生にかけて自分の限界が見えてきて、一般的に世界的にも自尊感情は下がる傾向があるが、日本人はそれが顕著である。

□ 「子どものうつ病の予防と対策
・防ぐためには、子どもたちのストレスを減らすこと。
・今の子どもたちは学校で強いストレスを感じている。
・学校では「集団」と「個別」を使い分けられていない。
・信頼できる大人が必要。スクールカウンセラーや医師に相談する。
・メールは相手の表情が見えないので、傷つけることがある。直接相手の表情を見て離す必要がある。
・SNSは24時間監視されている状況を作りやすい。
・うつ病予備軍に早く気づくことが大切。発達障がい、不登校はうつ病を発症しやすい。
・子どもの回復力を信じる。それを以下に引き出すか、支えるかが大切。
・そのためには親のストレスをなくす、社会のストレスをなくすことが必要。
・子どもだけではなく養育者のサポートも必要。養育者を追い詰めては解決しない。

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河野政樹先生による「発達障がい」WEBセミナー

2018-11-08 17:17:23 | 発達障がい
 河野政樹先生は「広島県立障害者療育支援センターわかば療育園」の園長先生です。
 WEBセミナー(2018.11.8)「発達障害の診療の意義と実際〜子どもの未来を笑顔で溢れたものにするために〜」を聞いてメモしたことを記しておきます。
 あ、私と同級生であることが判明!

 発達障害児は脳神経の髄鞘化の遅れのため「スロースターター」であることを知りました。
 5〜10歳時期ではいくら教えようと思っても脳が反応してくれない。この時期は叱ったりしないで自尊感情を傷つけないことが大切。
 10〜15歳では急成長するのでそこまで辛抱強く待つ。
 これは目から鱗が落ちました。
 この病態を知っているのと知らないとでは、療育の効果が違ってきそうです。

 それから、AD/HDに用いられる各薬物の特徴がおぼろげながらわかりました。
 インチュニブ®(グアンファシン)はAD/HDの要素を持った大人の統合失調症にも有効であることが最近報告されていますね。

<参考>
精神疾患の根っこは「外胚葉障害」

<メモ>

□ 障害のとらえ方〜日本と欧米の違い〜
 日本では子どもの中に障害があると考える
 欧米では子どもと社会の間に障害があると考える → そこに介入可能。

□ 治療効果の違い〜何を選択するかで成長の到達点が異なる
①なにもしない → 低い到達点
②薬物療法単独 → ①と③の間
③薬物療法+社会心理学的サポート → 高い到達点

□ DSM-V(2014年)では「発達障がい」は「神経発達症」(Neurodevelopmental disorder)という名称に変更された。

□ AD/HDの子どもは、忘れ物をしたくなくても忘れてしまう、授業中に立ち歩きたくなくても立ち歩いてしまう。
→ 本人が一番困っている。

□ AD/HDの併存障害(Jansen P, 1999)
AD/HD 単独:31%
AD/HD+反抗挑戦性障害(ODD):40%
AD/HD+不安障害・気分障害:38%
AD/HD+素行障害(CD):14%
AD/HD+チック障害:11%

□ 反抗挑発症(ODD)と素行症(CD)
・反抗挑発症(反抗挑戦性障害):著しく反抗的・挑戦的な子どもたち
・素行症(素行障害):犯罪行為を伴うもの
・「DBDマーチ」(斎藤ら)AD/HD → ODD → CDという時系列の流れ

□ AD/HDの薬物療法の選択方法
同じ多動・衝動性の症状でも、
・脳の過敏や興奮が主なのか
・神経伝達の不十分さが主なのか
により薬物の選択が異なる。

□ AD/HD治療薬の作用点の違い(Michael Huss, 2016)
コンサータ®:雑音を減らす
ストラテラ®:(間接的に)情報伝達を強化する
インチュニブ®:(直接的に)情報伝達を強化する

□ AD/HD児に集中力を維持させるための授業中の基本的配慮
・余計な音や動きが耳や目に入らないように環境整備
・大声・早口はダメ → 小声でゆっくりと
・注意してはダメ、褒めるべし
→ 子どもは注目してもらいたい・かまってもらいたいという気持ちがあり、注意すると「悪いことをすればかまってくれる」と理解し、褒めると「よいことをすればかまってくれる」と理解する。
・体を動かす授業
→ ジッとしていられないので、体を動かす指示を心がけると合法的に解消する。
・AD/HDだけではなく全体で同じことをさせる。
・衝動的発言に対して、無視するのではなく相づちを打つ
→ 無反応では反応するまで発言を繰り返す傾向あり、「フ〜ン」という程度でも落ち着く。
・注意するときは、(遠くから大声でなく)小声で近づいて行う。

最後の「注意するときは小声で近づいて行う」はヨーロッパでは既に子育ての常識として根付いているようです。

<参考>
□ 「イライラ育児が日本を出たら消えた


□ 成長の過程で、不注意に比べ、多動症状は軽快しやすい。

□ MPH徐放錠(コンサータ®)について
・中枢神経刺激薬
・MPHのヒトにおける作用機序は完全には解明されていない。
・脳内のドパミンやノルアドレナリンのトランスポーターに結合することで、シナプス間隙におけるこれらの神経伝達物質の濃度を増加背背、前頭部の脳機能を活性化させる作用を有する。
<主な副作用>
・食欲不振:33%
・初期不眠症:13%
・体重減少:12%
・腹痛:6%
・チック症:5%
・発熱:5%

□ アトモキセチン(ストラテラ®)について
・NRI:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤
・AD/HDに関連の深い前頭前野にはドパミンの再取り込み口(トランスポーター)がほとんど存在しない。そのため、ドパミンもノルアドレナリンのトランスポーターより再取り込みされる。するとノルアドレナリンのトランスポーターをふさぐことでドパミンの再取り込みも抑制できる。
→ 前頭前野におけるノルアドレナリン&ドパミン共に濃度上昇。
・効果の持続が長い
・効果発現まで2週間〜2ヶ月程度かかる。
<副作用>
・頭痛:22%
・食欲減退:16%
・傾眠:14%
・腹痛:11%
※ 海外のデータで自殺念慮、攻撃的行動増加の報告あり。

□ AD/HDでは局所的な皮質(主に前頭前皮質中部)の成熟に遅延が見られる
・・・最大約2年の遅延、それは髄鞘化の遅れの可能性(西英一郎、生化学第92巻第10号、2010)

□ AD/HD児への望ましい対応 → スロー・スターターであることを理解して介入する
・5〜10歳:伸び悩みの時期:他児はできるようになるが、AD/HD児は努力してもできない。
→ 自信を失わせないよう「褒める習慣」を作ることが大切。ここで叱ってばかりいると自尊感情・自己肯定感が育たず、急成長期を迎える前につぶれてしまい、ODDやCDに陥りがち。
・10〜15歳:急成長の時期:他児は伸びきってしまっているため、せっかくできるようになったことも当たり前と捉えられがち。
→ その子にとっての伸びを喜び、チャレンジを促す。

□ 何を褒めたらよいのか?
・何をしたか(Doing)で認めるのではなく、その子の存在そのもの(Being)を認める。
→ すべての子育てに共通することです!

□ 自尊感情・自己肯定感が育たないとどうなるか?
〜傷ついた心は2つの方向に;
① 怒り・反抗・暴力
② 抑うつ・不安・身体症状
〜どちらもボロボロの心を守るための防衛反応

□ 河野先生の施設でのインチュニブ®(グアンファシン)の使用経験
・有効(著効34%、効果あり49%)、中断例21%(理由として眠気が多かった)
・ODD(反抗挑発症)例で有効
・ASD合併例の多動、衝動性、注意散漫に効果あり

□ インチュニブ®(グアンファシン)の使い方
<適した症例>
・ODD(反抗挑発症)合併例・・・3〜8週間で反抗症状を有意に抑制
・ASD合併例
・興奮の強い例は効果あり
・もともと日中眠気のある例は適さない
<導入した印象>
・多動症状の著明改善例が多い
・学習面での改善や忘れ物の減少など不注意症状の改善例もある
・24時間効果が続くため、朝の支度でトラブるケースや夜間学習ができないケース、学校では落ち着いているが家庭では落ち着かないケースでも有効
・反抗挑戦症は著効例が多い

□ 脳の構造的要因ー前頭前皮質の障害−(Arnsten AF, 2009)
・DMPFC:背内側前頭前皮質 → 現実検討能力、エラーモニタリング
・DLPFC:背外側前頭前皮質 → 【注意】注意・思考のトップダウン式制御
・rlPFC:右下前頭前皮質 → 【行動】不適切な行動の制御
・VMPFC:腹内側前頭前皮質 → 【感情】感情の調整

□ 薬物療法導入の際は本人に説明して同意を得ることが大切
・薬効を説明し、「この薬はあなたを褒めてもらうために飲む」ことを本人に伝えて同意を得る。
・剤型も本人と相談しながら行う。

□ カウンセラーが発達障がいを理解できない理由
・カウンセラー自身がコミュニケーション・パターンの成り立ちを知らないため、カウンセリングができず保護者を叱ってしまったり、子どもの言い分に沿いすぎて「今のままでいい」と誤解させてしまう危険性あり
→ 発達障がいコミュニケーション指導者養成+カウンセリング技術習得(AMWECで認定)

□ AMWEC(日本医療福祉教育コミュニケーション協会)で学べること
・発達障がい(神経発達症)に対する医学的に正しい知識の習得
・コミュニケーション技術の向上
・発達障がいコミュニケーション指導者育成(初級・中級・上級)
・コミュニケーション検定(1〜5級)
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