一般内科医向けの医学系雑誌に「不安」の特集がありましたので、購入して読んでみました。
□ 総合診療2017年9月号、医学書院
主に治療薬と精神療法の項目を読みました。
不安障害診療の概要を俯瞰するには手頃な内容だと思います。
不安障害に使用する薬剤は、抗不安薬ではなく抗うつ薬であること、精神療法を行う場合の心構え、さらに一般内科医と精神科の仕分けの目安も参考になりました。
ただ、期待して読んだ漢方薬については目新しい情報はありませんでした。
不安障害の病態と、漢方薬・生薬の証がかみ合った解説がないと、自信を持って処方できないと感じています。
<メモ>
さて、「不安」と「不安障害」の定義については、今まで読んできた本と同じです。
・誰でも感じる「不安」は“警戒警報”であり、正常な心理である。
・「異常不安」は「過剰不安」である。
また、「DSM-5による不安症群の主な分類」が参考になりました。
【分離不安障害】 愛着を持っている人から別れた結果生じる過剰な不安
【選択的寡黙】 通常は話せるが、特定場面でまったく話さない。
【限局性恐怖症】 特定の状況・場面への極端な恐怖・不安
【社交不安障害】 他者の注目を浴びる可能性がある場面での著しい不安
【パニック障害】 パニック発作(※)を繰り返す
※ パニック発作:突然、激しい恐怖が発作的に生じる。
【広場恐怖症】 公共交通機関・広い場所・群衆の中などで著しい恐怖が生じ、そのような状況を避ける。
※ 「広場恐怖症」はDSM-5から「パニック障害」とは別の障害として扱われるようになった。
【全般性不安障害】いろいろな出来事・活動を過剰に心配する。
※ 「強迫性障害」はDSM-5deha不安症のカテゴリーに入っていない。
内科医でも可能な「精神療法(心理療法)のポイント」は、
・状況や症状に共感する。
・不安症の成り立ちを説明する。
・楽観的見通しと支持的な態度を崩さない。
・薬物療法について説明し、治療薬への依存を避けること。
一方、内科医の限界、「精神科へ依頼するタイミング」として、
・希死念慮が強い。
・双極性障害・パーソナリティ障害・アルコールや薬物依存などの併存。
・薬物療法で改善が認められない場合。
・副作用が強く、十分な薬物療法ができにくい場合。
・妊娠中と授乳中
・患者が薬物療法を望まない場合。
と明言しており、わかりやすい。
「不安」に対する薬物療法の位置づけは、あくまでも“サポート”であり、重要なのは患者自身の“養生”や家族の“支援”と書かれています。
第一選択薬はSSRI(selective serotonin reuptake inhibiters:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)。
「不安症」「強迫症」「PTSD」のいずれに対しても高い効果を示す。
SNRI(serotonin and noradrenarine reuptake inhibitors:瀬戸路人・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(noradrenargic and specific serotonergic antidepressant:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)よりも一枚上手であり、中等度以上の病態であればSSRIを用いることが治療の根幹となる。
効果発現は、抗うつ効果よりやや遅く6〜8週、特に「強迫症」では10〜12週かかることがあり、うつ病治療より高用量を必要とすることが多い。
不安症の患者は副作用に敏感であり、開始用量は添付文書に記載されているものの半量とする。
ただし、不安症や強迫症は他の性心疾患の併存が多いことで知られ、なかには抗うつ薬を使用しづらい疾患(双極性障害や境界型パーソナリティ障害など)もあるため、治療をする場合は併存疾患を持たないピュアなもの、あっても二次的な軽度の抑うつ症状に狙いを絞るべきである。
各薬剤についての著者(宮内倫也Dr)のコメント。
まず、抗うつ剤には様々な副作用があるので注意喚起。
★「賦活症候群」(activation syndrome):SSRI発売後に注目されるようになった副作用で、不安・焦燥・不眠・敵意・衝動性・易刺激性・アカシジア・パニック発作・軽躁・躁状態などの中枢神経刺激症状を呈する。悪化すると自傷行為や自殺に至ることもあり、とくに若年ではかえって自殺のリスクを高めるという報告もあり、日本ではパロキセチン(パキシル®)の18歳未満のうつ病患者への投与について「警告」として注意喚起が行われている。SSRI以降の新規抗うつ薬のみならず、従来型の抗うつ薬でも生じる。
<SSRI>
・フルボキサミン(デプロメール®、ルボックス®)とパロキセチン(パキシル®)は広汎にCYP(シトクロムP450)を阻害するため、他の薬剤との相互作用の点から使いづらい。
・セルトラリン(ジェイゾロフト®)とエスシタロプラム(レクサプロ®)は軽度のCYP2D6阻害作用をもつのみであり、相互作用という点ではこの2剤が無難で第一選択薬となる。
<SNRI>
・SSRIではなく、あえてSNRIを選ぶほどの根拠は薄い。なお、「強迫症」への効果ははっきりしておらず、SSRIより劣る。
・ミルナシプラン(トレドミン®)とデュロキセチン(サインバルタ®)とベンラファキシン(イフェクサー®)があるが、「不安症」や「PTSD」であればベンラファキシンが幅広く使用できる。
<NaSSA>
・報告が少なく、SSRIほどの切れ味に欠ける。
・ミルタザピン(リフレックス®、レメロン®)は鎮静作用や制吐作用を有するのが特徴であり、「不安症」で不眠が目立つようなら、またSSRIが副作用で服用できなければ、次善の策として本剤を用いてもよい。
・「強迫症」や「PTSD」に対してはエビデンスが不十分であり、少なくとも強迫症にはあまり効果的ではない。
<漢方薬>
・軽度であれば漢方薬も有用。
★ 竜骨牡蠣を含むもの;「不安症」や「PTSD」への基本方剤。
(柴胡桂枝乾姜湯)冷え・口渇・空咳がある場合
(柴胡加竜骨牡蛎湯)冷え・口渇・空咳がない場合
(桂枝加竜骨牡蛎湯)軽い冷えがあるか胃腸が若干弱い場合
★ 抑肝散と四逆散;
(抑肝散/抑肝散加陳皮半夏)心身ともに緊張が強い場合の基本方剤。顔から血の気が引くようなら抑肝散、さらに浮腫がある、痰が多い、胃の調子が悪いなどがみられたら抑肝散加陳皮半夏。
(四逆散)心身ともに緊張が強い場合の基本方剤。緊張で手が冷たくなり手掌に汗をかく場合。他の方剤と合方することが多い。
※ 合方;
(当帰芍薬散)冷えが特に強い場合(例:柴胡桂枝乾姜湯+当帰芍薬散など)
(六味丸)ほてりがあり全体的に甲状線機能亢進症のような印象を患者から受ける場合
(苓桂朮甘湯)発作的に症状に襲われる場合に桂枝加竜骨牡蛎湯に合方する。
★ 神田橋処方;さまざまな「フラッシュバック」に有効。
・四物湯(もしくは十全大補湯)と桂枝加芍薬湯(もしくは小建中湯や桂枝加竜骨牡蛎湯)の組み合わせ。それぞれ2包/日でよく、2週間〜1ヶ月程度で効果が感じられる。
・四物湯は胃に障ることがあり、その際は十全大補湯に切り替えるか、それでも受け付けなければ四物湯に六君子湯2包/日を付加する。
★ 甘麦大棗湯;
・発作的に症状が出現する、涙もろくなり何となく悲しくなるなどの時の頓用として使用可能(BZD薬の代わり)。
また、ベンゾジアゼピン系薬(BZD薬)に頼らないこと、と念を押しています。
BZD薬は、頓用や1〜2週の使用であればいい働きをしてくれるが、ほぼ期待を裏切らず“効いて”しまうため、患者も医師もつい頼る。処方するなら、依存性と離脱症状の説明を必ず行い、また安全な中止方法も知らねばならない。
「不安」に対する精神療法(認知行動療法)について(今村弥生Dr.)
・認知行動療法とは「悩んでいる人を一人の人間として理解してストレスを味方にしながら心豊かに生きれるように助けること」(大野裕Dr.)。クライアントが持っているうつや不安などの症状に、自ら対処できるようになる力を引き出すための面接法。
・面接における目的:「心身相関」(こころに不安やストレスを抱えていると、体が反応する)を理解し、不安を受け流す方法を身につけ、不適切な対処をやめることで、体の不快感を軽減させることを目的とする。
不安に駆られるとしばしば、最も制御するのが難しい「体の症状」に意識が集中してしまい、比較的制御しやすい「考え方のクセ(認知)」や症状改善の糸口となりやすい「行動と不安の増減の関係」などには目が向けられず、その結果、症状が持続する状態が打開できず、さらに不安になるという“苦悩の悪循環”に陥っていく。そこから脱却するため、体に目を向けつつ、柔軟に視点をずらし、視野を広げていくことを面接の中で試みる。
・面接は、「傾聴」でもなく「レクチャー」でもなく「対話」が望ましい。
止めどなく続く症状や周囲への不満などをひたすら「傾聴」するだけの面接は、患者の「気づき」につながらない。逆に、治療者がいつもなすべきことを指示する「レクチャー」形式も、患者自身が自らの力で変えていこうという機会を取り去ってしまう。
望ましい会話量は、患者:治療者=4:6〜5:5。
・「マインドフルネス」
東洋の「禅」の思想を取り入れたアプローチで、「瞑想」を治療の中に取り入れやすい形に改変して、うつや不安の症状改善に利用するもの。
ふだん使わない体の感覚に意識を集中させることで、初心者でも瞑想を実践しやすく改変されている。不安には、呼吸法を意識しながら「ボディスキャン」(リラックスして座った状態で目を閉じ、体の「触覚」に意識を集中させる。所要時間10〜30分)を行うことが、座る場所さえあればできる方法として推奨される。
★ 「不安」の精神医学的な定義;
・「不安発作」は立ち上がりが速く、基本的に30分前後で消える性質がある。一方、「気分」は数日〜数週間続く性質があり、似て非なるもの。
・不安は直視すると消える。逃げるとさらに不安になる。
・そもそも不安とは、正常な生理反応で、危険な状況への“注意信号”として発現する。安全な状況にもかかわらず発動する“誤作動”が「不安症/不安障害」であるが、正常な不安まで完全に消すことができない。
宮崎仁Dr.が担当している「医師の不安への処方箋」は、医師を当事者とした珍しい展開です。
興味深く読ませて頂きました。
・医師を不安にするのは「他人」や「出来事」ではなく、それに対する「自分のとらえ方」である。そして、とらえ方を決めるのは自分の“こころの姿勢”である。
・医師が診療上抱える不安・怖れを軽減する方法として、「不安や怖れを受けとめ、味わい、手放す」というマインドフルネスの姿勢を保てば、不安と怖れから自由になれる。
★「自動思考」(automatic thought)
その瞬間に頭に浮かぶ(頭をよぎる)考えやイメージ。認知行動療法における認知の階層では、表面的・瞬間的な「浅いレベルの認知」と位置づけられているが、浅いからといって価値が低いわけではない。
★「スキーマ」(schema)
個人の頭の中に存在する自分や世界や他者に対する深い思いや価値観のこと。認知の階層では、深層的・継続的な「深いレベルの認知」と位置づけられており、「認知=自動思考+スキーマ」という図式が成り立つ。
・「自己攻撃性が高い自動思考」こそが、医師を不安と怖れという暗闇に導くものの正体である。医師に特有な自己攻撃性の高い自動思考は「名医になりたい」「救世主になりたい」というもの。その深い思いが「名医や救世主になれない自分」を執拗に攻撃してくる。
医師を不安や恐れへ陥れる犯人は、他人や出来事ではなく、「名医や救世主になれない自分」に攻撃を仕掛ける、自分自身の“内なる声”(自動思考)である。言い換えると、医者がむかついているのは「イケていない自分」に対してなのだ。
・マインドフルネスとは、自分の体験すべてに対して、ツッコミを入れない(評価や善し悪しの判断をしない)で、興味関心をもって「ふーん、そうなんだ」と受けとめ、味わい、手放すことである。
マインドフルネスの基本は「自分の体験をコントロールしようとしない」ことである。どんな体験もそのうち消えるので、消えるに任せる。さらに、消えていくのを「見送る」ということができれば、自動思考やそれに伴う不安な反応に直接巻き込まれなくなる。
□ 総合診療2017年9月号、医学書院
主に治療薬と精神療法の項目を読みました。
不安障害診療の概要を俯瞰するには手頃な内容だと思います。
不安障害に使用する薬剤は、抗不安薬ではなく抗うつ薬であること、精神療法を行う場合の心構え、さらに一般内科医と精神科の仕分けの目安も参考になりました。
ただ、期待して読んだ漢方薬については目新しい情報はありませんでした。
不安障害の病態と、漢方薬・生薬の証がかみ合った解説がないと、自信を持って処方できないと感じています。
<メモ>
さて、「不安」と「不安障害」の定義については、今まで読んできた本と同じです。
・誰でも感じる「不安」は“警戒警報”であり、正常な心理である。
・「異常不安」は「過剰不安」である。
また、「DSM-5による不安症群の主な分類」が参考になりました。
【分離不安障害】 愛着を持っている人から別れた結果生じる過剰な不安
【選択的寡黙】 通常は話せるが、特定場面でまったく話さない。
【限局性恐怖症】 特定の状況・場面への極端な恐怖・不安
【社交不安障害】 他者の注目を浴びる可能性がある場面での著しい不安
【パニック障害】 パニック発作(※)を繰り返す
※ パニック発作:突然、激しい恐怖が発作的に生じる。
【広場恐怖症】 公共交通機関・広い場所・群衆の中などで著しい恐怖が生じ、そのような状況を避ける。
※ 「広場恐怖症」はDSM-5から「パニック障害」とは別の障害として扱われるようになった。
【全般性不安障害】いろいろな出来事・活動を過剰に心配する。
※ 「強迫性障害」はDSM-5deha不安症のカテゴリーに入っていない。
内科医でも可能な「精神療法(心理療法)のポイント」は、
・状況や症状に共感する。
・不安症の成り立ちを説明する。
・楽観的見通しと支持的な態度を崩さない。
・薬物療法について説明し、治療薬への依存を避けること。
一方、内科医の限界、「精神科へ依頼するタイミング」として、
・希死念慮が強い。
・双極性障害・パーソナリティ障害・アルコールや薬物依存などの併存。
・薬物療法で改善が認められない場合。
・副作用が強く、十分な薬物療法ができにくい場合。
・妊娠中と授乳中
・患者が薬物療法を望まない場合。
と明言しており、わかりやすい。
「不安」に対する薬物療法の位置づけは、あくまでも“サポート”であり、重要なのは患者自身の“養生”や家族の“支援”と書かれています。
第一選択薬はSSRI(selective serotonin reuptake inhibiters:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)。
「不安症」「強迫症」「PTSD」のいずれに対しても高い効果を示す。
SNRI(serotonin and noradrenarine reuptake inhibitors:瀬戸路人・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(noradrenargic and specific serotonergic antidepressant:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)よりも一枚上手であり、中等度以上の病態であればSSRIを用いることが治療の根幹となる。
効果発現は、抗うつ効果よりやや遅く6〜8週、特に「強迫症」では10〜12週かかることがあり、うつ病治療より高用量を必要とすることが多い。
不安症の患者は副作用に敏感であり、開始用量は添付文書に記載されているものの半量とする。
ただし、不安症や強迫症は他の性心疾患の併存が多いことで知られ、なかには抗うつ薬を使用しづらい疾患(双極性障害や境界型パーソナリティ障害など)もあるため、治療をする場合は併存疾患を持たないピュアなもの、あっても二次的な軽度の抑うつ症状に狙いを絞るべきである。
各薬剤についての著者(宮内倫也Dr)のコメント。
まず、抗うつ剤には様々な副作用があるので注意喚起。
★「賦活症候群」(activation syndrome):SSRI発売後に注目されるようになった副作用で、不安・焦燥・不眠・敵意・衝動性・易刺激性・アカシジア・パニック発作・軽躁・躁状態などの中枢神経刺激症状を呈する。悪化すると自傷行為や自殺に至ることもあり、とくに若年ではかえって自殺のリスクを高めるという報告もあり、日本ではパロキセチン(パキシル®)の18歳未満のうつ病患者への投与について「警告」として注意喚起が行われている。SSRI以降の新規抗うつ薬のみならず、従来型の抗うつ薬でも生じる。
<SSRI>
・フルボキサミン(デプロメール®、ルボックス®)とパロキセチン(パキシル®)は広汎にCYP(シトクロムP450)を阻害するため、他の薬剤との相互作用の点から使いづらい。
・セルトラリン(ジェイゾロフト®)とエスシタロプラム(レクサプロ®)は軽度のCYP2D6阻害作用をもつのみであり、相互作用という点ではこの2剤が無難で第一選択薬となる。
<SNRI>
・SSRIではなく、あえてSNRIを選ぶほどの根拠は薄い。なお、「強迫症」への効果ははっきりしておらず、SSRIより劣る。
・ミルナシプラン(トレドミン®)とデュロキセチン(サインバルタ®)とベンラファキシン(イフェクサー®)があるが、「不安症」や「PTSD」であればベンラファキシンが幅広く使用できる。
<NaSSA>
・報告が少なく、SSRIほどの切れ味に欠ける。
・ミルタザピン(リフレックス®、レメロン®)は鎮静作用や制吐作用を有するのが特徴であり、「不安症」で不眠が目立つようなら、またSSRIが副作用で服用できなければ、次善の策として本剤を用いてもよい。
・「強迫症」や「PTSD」に対してはエビデンスが不十分であり、少なくとも強迫症にはあまり効果的ではない。
<漢方薬>
・軽度であれば漢方薬も有用。
★ 竜骨牡蠣を含むもの;「不安症」や「PTSD」への基本方剤。
(柴胡桂枝乾姜湯)冷え・口渇・空咳がある場合
(柴胡加竜骨牡蛎湯)冷え・口渇・空咳がない場合
(桂枝加竜骨牡蛎湯)軽い冷えがあるか胃腸が若干弱い場合
★ 抑肝散と四逆散;
(抑肝散/抑肝散加陳皮半夏)心身ともに緊張が強い場合の基本方剤。顔から血の気が引くようなら抑肝散、さらに浮腫がある、痰が多い、胃の調子が悪いなどがみられたら抑肝散加陳皮半夏。
(四逆散)心身ともに緊張が強い場合の基本方剤。緊張で手が冷たくなり手掌に汗をかく場合。他の方剤と合方することが多い。
※ 合方;
(当帰芍薬散)冷えが特に強い場合(例:柴胡桂枝乾姜湯+当帰芍薬散など)
(六味丸)ほてりがあり全体的に甲状線機能亢進症のような印象を患者から受ける場合
(苓桂朮甘湯)発作的に症状に襲われる場合に桂枝加竜骨牡蛎湯に合方する。
★ 神田橋処方;さまざまな「フラッシュバック」に有効。
・四物湯(もしくは十全大補湯)と桂枝加芍薬湯(もしくは小建中湯や桂枝加竜骨牡蛎湯)の組み合わせ。それぞれ2包/日でよく、2週間〜1ヶ月程度で効果が感じられる。
・四物湯は胃に障ることがあり、その際は十全大補湯に切り替えるか、それでも受け付けなければ四物湯に六君子湯2包/日を付加する。
★ 甘麦大棗湯;
・発作的に症状が出現する、涙もろくなり何となく悲しくなるなどの時の頓用として使用可能(BZD薬の代わり)。
また、ベンゾジアゼピン系薬(BZD薬)に頼らないこと、と念を押しています。
BZD薬は、頓用や1〜2週の使用であればいい働きをしてくれるが、ほぼ期待を裏切らず“効いて”しまうため、患者も医師もつい頼る。処方するなら、依存性と離脱症状の説明を必ず行い、また安全な中止方法も知らねばならない。
「不安」に対する精神療法(認知行動療法)について(今村弥生Dr.)
・認知行動療法とは「悩んでいる人を一人の人間として理解してストレスを味方にしながら心豊かに生きれるように助けること」(大野裕Dr.)。クライアントが持っているうつや不安などの症状に、自ら対処できるようになる力を引き出すための面接法。
・面接における目的:「心身相関」(こころに不安やストレスを抱えていると、体が反応する)を理解し、不安を受け流す方法を身につけ、不適切な対処をやめることで、体の不快感を軽減させることを目的とする。
不安に駆られるとしばしば、最も制御するのが難しい「体の症状」に意識が集中してしまい、比較的制御しやすい「考え方のクセ(認知)」や症状改善の糸口となりやすい「行動と不安の増減の関係」などには目が向けられず、その結果、症状が持続する状態が打開できず、さらに不安になるという“苦悩の悪循環”に陥っていく。そこから脱却するため、体に目を向けつつ、柔軟に視点をずらし、視野を広げていくことを面接の中で試みる。
・面接は、「傾聴」でもなく「レクチャー」でもなく「対話」が望ましい。
止めどなく続く症状や周囲への不満などをひたすら「傾聴」するだけの面接は、患者の「気づき」につながらない。逆に、治療者がいつもなすべきことを指示する「レクチャー」形式も、患者自身が自らの力で変えていこうという機会を取り去ってしまう。
望ましい会話量は、患者:治療者=4:6〜5:5。
・「マインドフルネス」
東洋の「禅」の思想を取り入れたアプローチで、「瞑想」を治療の中に取り入れやすい形に改変して、うつや不安の症状改善に利用するもの。
ふだん使わない体の感覚に意識を集中させることで、初心者でも瞑想を実践しやすく改変されている。不安には、呼吸法を意識しながら「ボディスキャン」(リラックスして座った状態で目を閉じ、体の「触覚」に意識を集中させる。所要時間10〜30分)を行うことが、座る場所さえあればできる方法として推奨される。
★ 「不安」の精神医学的な定義;
・「不安発作」は立ち上がりが速く、基本的に30分前後で消える性質がある。一方、「気分」は数日〜数週間続く性質があり、似て非なるもの。
・不安は直視すると消える。逃げるとさらに不安になる。
・そもそも不安とは、正常な生理反応で、危険な状況への“注意信号”として発現する。安全な状況にもかかわらず発動する“誤作動”が「不安症/不安障害」であるが、正常な不安まで完全に消すことができない。
宮崎仁Dr.が担当している「医師の不安への処方箋」は、医師を当事者とした珍しい展開です。
興味深く読ませて頂きました。
・医師を不安にするのは「他人」や「出来事」ではなく、それに対する「自分のとらえ方」である。そして、とらえ方を決めるのは自分の“こころの姿勢”である。
・医師が診療上抱える不安・怖れを軽減する方法として、「不安や怖れを受けとめ、味わい、手放す」というマインドフルネスの姿勢を保てば、不安と怖れから自由になれる。
★「自動思考」(automatic thought)
その瞬間に頭に浮かぶ(頭をよぎる)考えやイメージ。認知行動療法における認知の階層では、表面的・瞬間的な「浅いレベルの認知」と位置づけられているが、浅いからといって価値が低いわけではない。
★「スキーマ」(schema)
個人の頭の中に存在する自分や世界や他者に対する深い思いや価値観のこと。認知の階層では、深層的・継続的な「深いレベルの認知」と位置づけられており、「認知=自動思考+スキーマ」という図式が成り立つ。
・「自己攻撃性が高い自動思考」こそが、医師を不安と怖れという暗闇に導くものの正体である。医師に特有な自己攻撃性の高い自動思考は「名医になりたい」「救世主になりたい」というもの。その深い思いが「名医や救世主になれない自分」を執拗に攻撃してくる。
医師を不安や恐れへ陥れる犯人は、他人や出来事ではなく、「名医や救世主になれない自分」に攻撃を仕掛ける、自分自身の“内なる声”(自動思考)である。言い換えると、医者がむかついているのは「イケていない自分」に対してなのだ。
・マインドフルネスとは、自分の体験すべてに対して、ツッコミを入れない(評価や善し悪しの判断をしない)で、興味関心をもって「ふーん、そうなんだ」と受けとめ、味わい、手放すことである。
マインドフルネスの基本は「自分の体験をコントロールしようとしない」ことである。どんな体験もそのうち消えるので、消えるに任せる。さらに、消えていくのを「見送る」ということができれば、自動思考やそれに伴う不安な反応に直接巻き込まれなくなる。