発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

早産児と発達症(ADHD/ASD)リスク

2023-08-20 12:12:39 | 発達障がい
私が小児科医になった35年前は、
「肺サーファクタント」という画期的な薬が登場し、
それまでは救命できなかった超早産の低出生体重児が救命できるようになった、
新生児医療の転機ともいえる時期でした。

30年ほど前、新生児医療にかかわっていました。
肺サーファクタントは魔法の薬でした。
1000g前後の赤ちゃんが生まれると、
3日間は付きっ切りで呼吸管理をする必要がありましたが、
この薬のおかげで呼吸状態が安定し、
患者さんの傍を離れることができるようになりました。

救命できる赤ちゃんは増えましたが、
しかし後遺症を残す赤ちゃんもいました。
「この子の一生はどうなるんだろう?」
と退院の際にも憂いの気持ちが消えませんでした。

そして現在、
未熟児医療の進歩で以前よりも多くの赤ちゃんが救命できるようになりました。
一見、問題がなくNICUを退院できた子どもたち…
しかし近年、早産児に発達障害(現在は“発達症”)が多いことが判明し、
徐々にデータがそろってきました。

先日聴講したセミナーでこのことを扱っていましたので、
備忘録としてメモしておきます。

ポイント
・生後5-6か月児の足の踏ん張り方を確認すると足底の感覚過敏がわかり、
 それを訓練に応用できる。
・併存障害として、従来は脳性麻痺と精神運動発達遅滞だけだったが、現在は発達性協調運動症(DCD) 、限局性学習症(SLD) 、注意欠如多動症(ADHD) 、自閉スペクトラム症(ASD) など、多彩な疾患の可能性を考慮する必要がある。
・知的発達症(知恵遅れ)の在胎週数と発生率の関係は
 一般の赤ちゃん:1%
 24週以下:14.5倍
 32週  :3.6倍
 37週  :1.5倍
 38週  :1.3倍
 40-41週  :1.0倍
 42週  :1.2倍
・ADHDは、早期産、SGA、巨大児でリスク上昇
・ASDは、
 一般児(5歳時):2.8%
 超早産児(<32週):7%
 超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%
・超早産児ASDは幼児期には診断に至らないグレーゾーンが多く、学童期に顕性化する(preterm behavioral phenotype )

「赤ちゃんは泣くもの」と考えているので、今まであまり気にしてこなかったのですが、診察時にずっと泣いている赤ちゃんを時々見かけます。
もしかしたら「感覚過敏」で触られることさえ嫌がっていたのかも…と思えてきました。


▢ 早産児はASD(自閉スペクトラム症)のハイリスク
・ASD/ADHD と DCD と SLD はオーバーラップして出現する。

▢ 早産児の精神運動発達面での併存障害(神経発達症)

1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・脳出血(ICH)
・脳室周囲白質軟化症(PVL)
・びまん性白質障害
・Punctate white matter lesion(PWML)
・小脳機能的/器質的障害

2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・Encephalopathy of prematurity:大脳白質・灰白質障害、小脳萎縮
・栄養障害:子宮外発育不全(EUGR)

3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・過剰で不快な感覚刺激(光・音・触覚・嗅覚)
・日内リズムの異常
・睡眠障害
→ 刺激に過剰反応、自己鎮静の苦手さ、泣きやみにくさ

4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・痛みを伴う処置(採血・点滴・気管吸引)
・母子分離
・ストレスの多い体外環境
→ 自己防衛反応、苦痛からの回避、外界遮断

▢ 併存障害の評価・診断方法
1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・MABC-2
2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・発達テスト:新版K式 WISC-Ⅳ
3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・M-CAHT、ADHD-RS
4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・PARS、ADOS-2

▢ 感覚過敏の評価は生後5-6か月児の足の踏ん張り(腋窩支持立位)で
(正常)ピョンピョンする→つかまり立ちにつながる
(足底の感覚過敏)足の踏ん張りを嫌う
 → sitting on air position → 独歩の平均は1歳6か月
 + shuffling なら、独歩の平均は1歳9か月

▢ 感覚過敏児の足の踏ん張りの発達過程
 足の踏ん張りを嫌う(足底が付くかどうかがポイント)
  ↓
 少し踏ん張れる…足底の感覚過敏軽減
  ↓
 腰が逃げる(腰を曲がげているかどうかがポイント)
  ↓
 腰がふらつく…バランス未熟
  ↓
 ピョンピョンできる

▢ 感覚過敏児の腋窩支持立位訓練・練習
・脇を支えて立位練習(全身的な筋緊張正常なら)
・ピョンピョン練習
 → 踏ん張り可なら体を傾けてバランス練習

▢ 感覚過敏児の訓練・練習
・腹臥位が嫌いなので寝返り、ハイハイをしない、立位も嫌い
・遊びながら腰をひねって寝返らせる
 限界時間×0.8を繰り返すと慣れてくる
・乳児早期からの腹臥位練習(Tummy Time)は発達促進にも効果的

▢ 発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)のDSM-5診断基準

A. 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、物にぶつかる)、運動技能(例:物をつかむ、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

B. 運動技能の欠損は、生活年齢にふさわしい日常生活活動(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇および遊びに影響を与えている。

C. この症状の始まりは発達段階早期である。

D. この運動技能の欠如は、知的障害や視力障碍によってはうまく説明されず。運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
「ふつうより明らかに不器用で、遅いうえに不正確。学校や職場で困るほどの状況。不器用さは乳幼児期から始まり、神経学的基礎疾患は認められない。」
★ DCDはADHDを50%合併、ADHDはDCDを50%合併、SLDはDCDを50%合併

▢ 発達性協調運動症(DCD)の特徴
・初期運動のマイルストーン(座る、這う、歩く)の達成はほぼ正常
・就学前:階段を上る、ペダルをこぐ、ボタンかけ、パズルを解く、
  靴ひもを結ぶ、ジッパーを使うなど特定のスキルの習得困難/遅延
・物を落としたり、つまづいたり、障害物にぶつかったり、転びやすい。
・小学生:チームスポーツ(特に球技)、自転車、手書き、モデルやその他の物の組み立て、地図の描画など、細かい運動能力などが遅い/不正確。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
バランス感覚・視覚認知・微細運動が苦手→ 不器用

▢ 知的発達症の在胎週別発生頻度
・遺伝的要因のない知的発達症の有病率は1%。
・妊娠40-41週での出生が発症頻度が最も少ない。
・在胎週数と知的発達症のOR;
 24週以下 14.54
 32週   3.59
 37週   1.50
 38週   1.26
 39週   1.10
 42週   1.16
以上より、
・発達遅延を疑えば、在胎週数を要確認
・早産児は知的発達症のハイリスクだが、過期産も注意
・予定帝切は38週以後で
しかし問題点あり…
・極低出生体重児以下は長期フォローされているが、在胎32週以下、出生体重1500g以下はフォローアップ体制が不十分(マンパワー不足?)

▢ 低出生体重児と知能指数
・新版K式発達検査の3歳暦年齢DQ値(中央値);
         超低出生体重児  極低出生体重児
(全領域)      82        89
(姿勢・運動)    86        92
(認知・適応)    82        89
(言語・社会)    81        88
★ 正常:85以上、境界:70-84、遅延:69以下

▢ 低出生体重児と後遺症頻度(3歳暦年齢、%表示)
         超低出生体重児 極低出生体重児
(生存率)      86       96
(脳性麻痺)     6.6       3.8
(発達遅滞)     21.8      11.0
(発達境界領域)   19.4      14.0
(視覚障害)     3.5       0.7
(聴覚障害)     2.7       1.2
(NDI)       25       13
★ NDI:neurodevelopmental impairment

▢ 限局性学習症(SLD, Specific Learning Disorder)
・知的能力は平均域以上、学習・環境問題なし
・読字、書字、計算、数的概念など、特定の領域で学習の習得困難
・7~8歳頃から困り感 ↑

▢ 読字障害
(症状)
・読みの正確性が低い
 類似した文字の区別がつかない(わとれ、めとぬ)
 読み飛ばしが多く、どこを読んでいるのかわからなくなる
 文字・単語はわからないが、音としては認識可
・流暢さ・速度に難がある
 緊張してスムーズに読めない
(対策)
・乳幼児期から毎日の読み聞かせは言語発達に有用
 読める字を探す→親子交代で読む→母への読み聞かせ(一人で読む)
・遊び道具→パラパラめくりのみ→
 →徐々に親の読むペースに合わせられる(相手の話を聞く+集中力の練習)
・TV、ビデオ、You tube は控える

▢ 書字表出障害
・綴り字、文法、句読点の正確性が低い
・3~5歳は図形模写、5~6歳で名前を書いてもらう
・3歳で〇、4歳で▢、5歳で△が書けるようになるのが普通
・6歳では〇と▢を組み合わせる
・自力×お手本を見せて達成感

▢ 算数障害
・計算、図形、算数推論の困難さがある
・誕生日/年を足し算・引き算で当ててもらう

▢ ADHD(注意欠如多動症)と在胎週数の関係
・標準体重で最低、SGA、巨大児でリスク上昇
→ ADHDを疑えば、在胎週数だけでなく出生体重と身長のバランスも確認
・在胎週数が短いとリスク上昇:24週でOR10、27週でOR5、30週でOR3、33週でOR2…
→ 早産児はADHD優位のASDに注意

▢ ASD(自閉スペクトラム症)と在胎週数・出生体重との関係
・5歳児全体での累積発生率:2.75%
・超早産児(<32週)の有病率:7%
・超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%

▢ 超早産児ASDに特有の発達臨床像
・preterm behavioral phenotype(学童期に早産児特有の行動様式へ)
・自閉スペクトラム特性は高いが診断には至らない「診断閾値以下群」が多数存在
・その本質は、言語発達ーコミュニケーション機能の異常

1.乳児早期:社会的関心は正常
・周囲への関心→〇
・アイコンタクト→〇
・あやし笑い→〇

2.乳幼児期
・言語発達遅延→△
・限定的な興味→〇(なし)
・反復行動→〇(なし)
・執着→〇(少ない)
しかし…
・マイペース
・手をつなぐ→△(いやがる)
・言葉のキャッチボール→△(苦手)
・ほかの子への興味→〇(ある)

3.学童期
・社会性→✖(乏しい)
・不注意→✖(その通り)
・不安に陥りやすい→✖(その通り)
そして…
・統語能力が低い
・語用の間違いをしやすい
・「なぜ」を説明できない

▢ 早産児ASDの特性(Preterm behavioral phenotype)
・WISC-Ⅳで計れる語彙、言語記憶などの単純な言語能力は伸びていく。
→ 見かけ上IQは維持される→ 発達正常と誤解される
・超早産児の感覚過敏は一過性で改善し、常同的行動、こだわり、執着が少ない。
→ 定型ASDほど手がかからない→ 見過ごされやすい
・複雑な言語能力、状況や文脈の中で総合的に理解する力について、同世代とのgapが年齢とともに開いていく。
→ 実生活での過ごしにくさ、人間関係構築の苦手さ、社会性が乏しい、不注意、KY
→ 自信喪失、社会生活での失敗、不安・自己否定につながりやすい
・状況に応じた言語の理解度が低い→会話がかみ合わない→トラブルに発展
→ 自分の置かれた状況や気持ちを他者にうまく説明できずに立ち往生

▢ 幼児期以後のフォローアップ外来のポイント
・発育、精神運動発達、神経発達症を意識しながら診察
・1歳からの片づけ練習
 はじめは一緒に→代わりばんこ→「遊んだ後はどうするの?」
 「片づけなさい」という命令は△
・自分で仕事を選んでもらうお手伝い(自主的に考えて行動してもらう言葉がけ)
・読み聞かせ、図形模写がおススメ
 → 書字、手の回内回外(スムーズさ、鏡像運動誘発の有無)
  TV/You tube は好ましくない
  粗大運動:ジャンプ→ケンケン→片足立ち
・子どもの力を推測してやれそうなことからやってもらう
・困っていることがないか探しながら、アドバイス
・本人と相談して、やれそうなことを一つだけ約束して、最後はサヨウナラの挨拶、次回、できるようになったかを確認→ 自信アップ



河野政樹先生による「発達障がい」WEBセミナー

2018-11-08 17:17:23 | 発達障がい
 河野政樹先生は「広島県立障害者療育支援センターわかば療育園」の園長先生です。
 WEBセミナー(2018.11.8)「発達障害の診療の意義と実際〜子どもの未来を笑顔で溢れたものにするために〜」を聞いてメモしたことを記しておきます。
 あ、私と同級生であることが判明!

 発達障害児は脳神経の髄鞘化の遅れのため「スロースターター」であることを知りました。
 5〜10歳時期ではいくら教えようと思っても脳が反応してくれない。この時期は叱ったりしないで自尊感情を傷つけないことが大切。
 10〜15歳では急成長するのでそこまで辛抱強く待つ。
 これは目から鱗が落ちました。
 この病態を知っているのと知らないとでは、療育の効果が違ってきそうです。

 それから、AD/HDに用いられる各薬物の特徴がおぼろげながらわかりました。
 インチュニブ®(グアンファシン)はAD/HDの要素を持った大人の統合失調症にも有効であることが最近報告されていますね。

<参考>
精神疾患の根っこは「外胚葉障害」

<メモ>

□ 障害のとらえ方〜日本と欧米の違い〜
 日本では子どもの中に障害があると考える
 欧米では子どもと社会の間に障害があると考える → そこに介入可能。

□ 治療効果の違い〜何を選択するかで成長の到達点が異なる
①なにもしない → 低い到達点
②薬物療法単独 → ①と③の間
③薬物療法+社会心理学的サポート → 高い到達点

□ DSM-V(2014年)では「発達障がい」は「神経発達症」(Neurodevelopmental disorder)という名称に変更された。

□ AD/HDの子どもは、忘れ物をしたくなくても忘れてしまう、授業中に立ち歩きたくなくても立ち歩いてしまう。
→ 本人が一番困っている。

□ AD/HDの併存障害(Jansen P, 1999)
AD/HD 単独:31%
AD/HD+反抗挑戦性障害(ODD):40%
AD/HD+不安障害・気分障害:38%
AD/HD+素行障害(CD):14%
AD/HD+チック障害:11%

□ 反抗挑発症(ODD)と素行症(CD)
・反抗挑発症(反抗挑戦性障害):著しく反抗的・挑戦的な子どもたち
・素行症(素行障害):犯罪行為を伴うもの
・「DBDマーチ」(斎藤ら)AD/HD → ODD → CDという時系列の流れ

□ AD/HDの薬物療法の選択方法
同じ多動・衝動性の症状でも、
・脳の過敏や興奮が主なのか
・神経伝達の不十分さが主なのか
により薬物の選択が異なる。

□ AD/HD治療薬の作用点の違い(Michael Huss, 2016)
コンサータ®:雑音を減らす
ストラテラ®:(間接的に)情報伝達を強化する
インチュニブ®:(直接的に)情報伝達を強化する

□ AD/HD児に集中力を維持させるための授業中の基本的配慮
・余計な音や動きが耳や目に入らないように環境整備
・大声・早口はダメ → 小声でゆっくりと
・注意してはダメ、褒めるべし
→ 子どもは注目してもらいたい・かまってもらいたいという気持ちがあり、注意すると「悪いことをすればかまってくれる」と理解し、褒めると「よいことをすればかまってくれる」と理解する。
・体を動かす授業
→ ジッとしていられないので、体を動かす指示を心がけると合法的に解消する。
・AD/HDだけではなく全体で同じことをさせる。
・衝動的発言に対して、無視するのではなく相づちを打つ
→ 無反応では反応するまで発言を繰り返す傾向あり、「フ〜ン」という程度でも落ち着く。
・注意するときは、(遠くから大声でなく)小声で近づいて行う。

最後の「注意するときは小声で近づいて行う」はヨーロッパでは既に子育ての常識として根付いているようです。

<参考>
□ 「イライラ育児が日本を出たら消えた


□ 成長の過程で、不注意に比べ、多動症状は軽快しやすい。

□ MPH徐放錠(コンサータ®)について
・中枢神経刺激薬
・MPHのヒトにおける作用機序は完全には解明されていない。
・脳内のドパミンやノルアドレナリンのトランスポーターに結合することで、シナプス間隙におけるこれらの神経伝達物質の濃度を増加背背、前頭部の脳機能を活性化させる作用を有する。
<主な副作用>
・食欲不振:33%
・初期不眠症:13%
・体重減少:12%
・腹痛:6%
・チック症:5%
・発熱:5%

□ アトモキセチン(ストラテラ®)について
・NRI:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤
・AD/HDに関連の深い前頭前野にはドパミンの再取り込み口(トランスポーター)がほとんど存在しない。そのため、ドパミンもノルアドレナリンのトランスポーターより再取り込みされる。するとノルアドレナリンのトランスポーターをふさぐことでドパミンの再取り込みも抑制できる。
→ 前頭前野におけるノルアドレナリン&ドパミン共に濃度上昇。
・効果の持続が長い
・効果発現まで2週間〜2ヶ月程度かかる。
<副作用>
・頭痛:22%
・食欲減退:16%
・傾眠:14%
・腹痛:11%
※ 海外のデータで自殺念慮、攻撃的行動増加の報告あり。

□ AD/HDでは局所的な皮質(主に前頭前皮質中部)の成熟に遅延が見られる
・・・最大約2年の遅延、それは髄鞘化の遅れの可能性(西英一郎、生化学第92巻第10号、2010)

□ AD/HD児への望ましい対応 → スロー・スターターであることを理解して介入する
・5〜10歳:伸び悩みの時期:他児はできるようになるが、AD/HD児は努力してもできない。
→ 自信を失わせないよう「褒める習慣」を作ることが大切。ここで叱ってばかりいると自尊感情・自己肯定感が育たず、急成長期を迎える前につぶれてしまい、ODDやCDに陥りがち。
・10〜15歳:急成長の時期:他児は伸びきってしまっているため、せっかくできるようになったことも当たり前と捉えられがち。
→ その子にとっての伸びを喜び、チャレンジを促す。

□ 何を褒めたらよいのか?
・何をしたか(Doing)で認めるのではなく、その子の存在そのもの(Being)を認める。
→ すべての子育てに共通することです!

□ 自尊感情・自己肯定感が育たないとどうなるか?
〜傷ついた心は2つの方向に;
① 怒り・反抗・暴力
② 抑うつ・不安・身体症状
〜どちらもボロボロの心を守るための防衛反応

□ 河野先生の施設でのインチュニブ®(グアンファシン)の使用経験
・有効(著効34%、効果あり49%)、中断例21%(理由として眠気が多かった)
・ODD(反抗挑発症)例で有効
・ASD合併例の多動、衝動性、注意散漫に効果あり

□ インチュニブ®(グアンファシン)の使い方
<適した症例>
・ODD(反抗挑発症)合併例・・・3〜8週間で反抗症状を有意に抑制
・ASD合併例
・興奮の強い例は効果あり
・もともと日中眠気のある例は適さない
<導入した印象>
・多動症状の著明改善例が多い
・学習面での改善や忘れ物の減少など不注意症状の改善例もある
・24時間効果が続くため、朝の支度でトラブるケースや夜間学習ができないケース、学校では落ち着いているが家庭では落ち着かないケースでも有効
・反抗挑戦症は著効例が多い

□ 脳の構造的要因ー前頭前皮質の障害−(Arnsten AF, 2009)
・DMPFC:背内側前頭前皮質 → 現実検討能力、エラーモニタリング
・DLPFC:背外側前頭前皮質 → 【注意】注意・思考のトップダウン式制御
・rlPFC:右下前頭前皮質 → 【行動】不適切な行動の制御
・VMPFC:腹内側前頭前皮質 → 【感情】感情の調整

□ 薬物療法導入の際は本人に説明して同意を得ることが大切
・薬効を説明し、「この薬はあなたを褒めてもらうために飲む」ことを本人に伝えて同意を得る。
・剤型も本人と相談しながら行う。

□ カウンセラーが発達障がいを理解できない理由
・カウンセラー自身がコミュニケーション・パターンの成り立ちを知らないため、カウンセリングができず保護者を叱ってしまったり、子どもの言い分に沿いすぎて「今のままでいい」と誤解させてしまう危険性あり
→ 発達障がいコミュニケーション指導者養成+カウンセリング技術習得(AMWECで認定)

□ AMWEC(日本医療福祉教育コミュニケーション協会)で学べること
・発達障がい(神経発達症)に対する医学的に正しい知識の習得
・コミュニケーション技術の向上
・発達障がいコミュニケーション指導者育成(初級・中級・上級)
・コミュニケーション検定(1〜5級)

日本の抗ADHD薬処方の現状2018(諸外国と比較して)

2018-09-12 06:53:20 | 発達障がい
 私は小児科医ですが、ADHD患者さんの診療はしていません。
 コンサータ®(メチルフェニデート、MPH)という抗ADHD薬を処方する資格がないからです。
 その資格とは、以下の通り

【医師の登録基準】
以下の(1)、(2)、(3)を全て満たし、コンサータ錠適正流通管理委員会の承認を得た医師

(1)次のA又はBに該当する医師
A.日本精神神経学会認定の精神科専門医(※1)又は日本小児科学会認定の小児科専門医
B.A以外で注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の診断・治療に精通している医師であり、その時点でAに該当する複数の登録医師がBに該当する医師として推薦し、コンサータ錠適正流通管理委員会の承認を得た医師に限る
(2)申請に際し、コンサータ錠登録医師リストへの掲載を了承し、登録医師として公表(※2)されることを承諾し、コンサータ錠適正流通管理委員会に以下の事項を誓約した医師
・コンサータ錠を適正に使用すること
・コンサータ錠適正流通管理委員会が求めた場合、診療記録を含め、コンサータ錠の処方に関する情報提供を行うこと
(3)コンサータ錠適正流通管理委員会が承認する関連学会主催の講習会等において、コンサータ錠の適正使用および薬物依存に関する研修プログラムを履修し、その内容を理解した旨の署名を行った医師

(※1)専門医制度発足前までは日本精神神経学会の学会員で別途定める基準を満たす医師とし、専門医制度発足後は同学会認定の精神科専門医とする。
(※2)原則として、コンサータ錠適正流通管理委員会、医師、薬局・調剤責任者、関連する行政機関、ヤンセンファーマ及び特約店等を通じて患者へ公表する。但し、流通異常が発生したとコンサータ錠適正流通管理委員会が判断した場合は、その
公表の範囲及び手段については、同委員会の決定に委ねられるものとする。

【医療機関の登録基準】
(1) 登録医師は、診断・治療を行う医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない。
(2) 登録医師が複数の医療機関で診断・治療を行う場合は、その全ての医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない。


 現在の私に照らし合わせてみると、以下の点で処方資格を満たしません;
・「コンサータ錠適正流通管理委員会」の存在を知らない。
・「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の診断・治療に精通している医師」ではない。
・「コンサータ錠適正流通管理委員会が承認する関連学会主催の講習会等において、コンサータ錠の適正使用および薬物依存に関する研修プログラムを履修し、その内容を理解した旨の署名を行った医師」の講習会に参加したことがない。
・「登録医師は、診断・治療を行う医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない」 → 未登録。

 つまり、私がコンサータ®を処方するためには、講習会に参加して研修プログラムをクリアし、「コンサータ錠適正流通管理委員会」に医療機関と処方医師を申請・登録しなければなりません。
 というわけで、自分では診療せず「専門家に任せる」というスタンスになっています。

 しかし、もう一つの抗ADHD薬であるストラテラ®(アトモキセチン、ATX)は処方制限がありません。

 というのが日本の現状です。
 では日本のAHDH診療は世界と比較するとどうなんだろう、という素朴な疑問が発生します。
 そんなときに下記記事が目にとまりました。

 諸外国と比較して、日本は抗ADHD薬の処方率が低いという報告です。
 米国のなんと1/10。
 罹患率の差が少ないことを考えると、米国が多すぎるのか、日本が少なすぎるのか、疑問が湧きます。
 世界を見渡すと、日本と同じように何らかの処方制限をしている国がおしなべて低処方率。
 適正処方率は何処?

 日本のADHD治療薬の処方を受けた患児の64%でMPH徐放製剤が処方されていた。この処方率は英国(94%)、ノルウェー(94%)、ドイツ(75〜100%)などと比較して著明に低い値であった。

 という文章を読むと、(診断基準が同じであれば)やはり過少処方の傾向がありそう。

□ 小児ADHD、国内初の処方実態調査 〜処方率低い日本
2018年09月07日:Medical Tribune
 近年、成人患者の存在も知られるようになってきた注意欠陥多動性障害(ADHD)だが(関連記事:「小児ADHD薬、成人で追加申請」、「紛れやすい成人期ADHDの捉え方」)、これまでは長年にわたり小児の神経・精神学領域で注目を集めてきた。東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野心の健康プロジェクト主席研究員の奥村泰之氏らは、国内で初めて児童・思春期ADHDに対する治療薬の処方率を調べ、結果をEpidemiol Psychiatr Sci(2018年5月28日オンライン版)に発表した。「米国などの諸外国と比べて処方率が低かった。処方制限があるためではないか」と述べている。

◇ 米国は5.3%、日本は0.4%
 奥村氏は「児童・思春期ADHDは国ごとの有病率の差が小さい一方で、ADHD治療薬の処方率は国によって大きな差がある」と説明。「薬剤処方の地域差を理解することによって、過剰処方や過少処方に関する知見が得られる」と述べている。そこで同氏らは、日本で初めて児童・思春期ADHD患者における治療薬の処方率を明らかにすることを目的に全国調査を行った。
 同氏らは、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を活用し、組み入れ期間の2014年4月〜15年3月にADHD治療薬〔メチルフェニデート(MPH)徐放製剤またはアトモキセチン(ATX)〕を処方された患者8万6,756例(18歳以下)の分析を行った。
 その結果、国内におけるADHD治療薬の年間処方率は0.4%であった。同氏は「この結果は、米国の5.3%、ノルウェーの1.4%などと比べて非常に低い」と指摘。イタリア(0.2%)、フランス(0.2%)、英国(0.5%)などと同等であり、これらの国と日本ではいずれも処方制限を導入している。

◇ MPHの処方率が著明に低い
 日本では、ADHD治療に精通した医師がMPH徐放製剤を処方できる。一方イタリアでは、ADHD治療に精通した医師のみが短時間作用型MPHとATXの処方を開始できる。なお、イタリアではADHD治療に精通した医師による治療計画の下、かかりつけ医が処方を引き継ぐことができる。奥村氏は「こうしたADHD治療薬に対する処方制限施策が、相対的に低い処方率に影響していると予想される」と考察している。
 また、同氏は「ただし、この低い処方率が"本来、薬物療法の恩恵を受けられる人がアクセスを阻害されている"という過少処方の結果であるか否かの判断には現時点で留意が必要と思われる」と指摘。「現状の処方率が過少処方であるか適性使用の範囲にあるか、さらなる検討が求められる」と述べている。
 今回の調査では、ADHD治療薬の処方を受けた患児の64%でMPH徐放製剤が処方されていた。この処方率は英国(94%)、ノルウェー(94%)、ドイツ(75〜100%)などと比較して著明に低い値であった。
 同氏は、日本でMPHの処方率が低い原因として、
① ADHDに対する短時間作用型MPHの承認が得られていない
② ATXに処方制限がない一方でMPHには処方制限がある
③ 診療ガイドラインでMPHとATXの両者を第一選択薬としている
こと−を挙げている。


 なお、一世を風靡したリタリン®はコンサータ®と同じ成分で、作用時間が違います。コンサータ®は徐放製剤なので、1日1回の服用です。
 現在、リタリン®の保険適応は「ナルコレプシー」のみです。この薬も処方する医師・調剤する薬局の登録が必要です。ここに至るまでには、乱用や依存症などいろいろトラブルがありました。


<参考>
□ 注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬 〜薬の効果と作用機序
日経メディカル
脳内の神経伝達機能を改善し、注意力の散漫や衝動的で落ち着きがないなどの症状を改善する薬。
ADHDはドパミンやノルアドレナリンなどの脳内伝達物質の不足などによっておこるとされる。
本剤は脳内のドパミンあるいはノルアドレナリンの働きを強めたり、これらの神経伝達物質のシグナル伝達を改善する作用をあらわし、その作用の仕組みは薬剤によって異なる。
成長期の小児などは特に食欲減退の副作用に注意する。

◇ 詳しい薬理作用
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は脳内の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンが不足したり神経伝達の調節異常が生じることによって、注意力の散漫や衝動的で落ち着きのない行動などの症状があらわれるとされる。
脳内で一度放出された神経伝達物質が再び細胞内へ回収されることを「再取り込み」という。ドパミンあるいはノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、これらの神経伝達物質の働きを強めることが期待できる。
本剤の中で、メチルフェニデート(商品名:コンサータ®)は主にドパミン及びノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、アトモキセチン(商品名:ストラテラ®)は主にノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、脳内のこれらの神経伝達物質の働きを増強し、ADHDの症状を改善する。
グアンファシン(商品名:インチュニブ®)は他の2剤(メチルフェニデート及びアトモキセチン)とは作用の仕組みが異なり、α2Aアドレナリン受容体という部分に作用する薬となる。脳の前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスに存在し、ノルアドレナリンの受容体であるα2A受容体を刺激することで、シグナル伝達を増強させる作用をあらわしADHDの症状を改善すると考えられている。(グアンファシンは非中枢刺激薬であり、前シナプスからのドパミンやノルアドレナリンの遊離促進作用や再取り込み阻害作用をあらわさないとされている)

◇ 主な副作用や注意点
消化器症状:食欲減退、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状があらわれる場合がある
特に食欲減退がみられる場合は1日の食事量や必要な栄養素などが減らないように注意する
循環器症状:動悸、血圧変動などがあらわれる場合がある
神経精神系症状:頭痛、めまい、不眠、傾眠、幻覚などの症状があらわれる場合がある
散瞳による眼圧上昇(主にメチルフェニデートとアトモキセチン)
頻度は稀だが眼圧上昇がおこる場合があるため緑内障の患者へは原則として使用しない

◇ 一般的な商品とその特徴
・コンサータ:メチルフェニデート製剤
主に脳内のドパミンとノルアドレナリンの働きを強める作用をあらわす
1日1回の服用で約12時間効果が持続する
寝つきが悪くなるなどの副作用があらわれることがあるので、原則として午後の服用は避ける
・ストラテラ:アトモキセチン製剤
主に脳内のノルアドレナリンの働きを強める作用をあらわす
脳の覚醒が比較的少なくADHDの治療ができるメリットがある
内用液剤があり、カプセル剤が飲みにくい患者などへのメリットが考えられる
・インチュニブ:グアンファシン製剤
主に脳内のノルアドレナリンの受容体であるα2A受容体を刺激し、シグナル伝達を改善する作用をあらわす