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著者は杵渕彰先生(青山杵渕クリニック)。
精神科疾患への漢方薬の適応を今一度確認する目的で一読しました。
ポイントは、
・向精神薬や抗不安薬などの服用が困難な場合などに漢方治療を試みる意義がある。
・精神科領域では、向精神薬、抗うつ薬、抗不安薬の副作用を軽減する意味で、漢方薬を用いるのが現実的である。
とし、第一選択薬にはなり得ず、西洋薬の補助薬と位置づけています。
具体的な適応は以下の通り;
□ 統合失調症:基本的に不適応
□ 気分障害:双極性障害は基本的に不適応、軽症のうつ病は場合により有効
□ 不安障害:パニック障害の軽症例は適応になる
□ 身体表現性障害:現代医学でも漢方医学でも治療困難
□ 不眠症:適応になる
統合失調症や双極性障害は適応にならないと明確に記しています。
ただ、慢性期の統合失調症や遷延化したうつ病で意欲障害だけが残っている場合には、現代医薬ではなかなか効果が現れず、それまでの症状が増悪していることがあり、この場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、補中益気湯(41)、加味帰脾湯(137)などが有効なことがあると記されています。
漢方医学では、精神疾患の病態を漢方のものさしである「気血水」で捉えます。
□ 気の異常
・気うつ:呼吸困難感、抑うつ気分、咽喉頭異物感
・気の上衡:頭痛、めまい、のぼせ感
・気虚:意欲障害、食欲不振
□ 血の異常
・瘀血:頭痛、うつ状態、健忘
・血虚:健忘、不安感
・血熱:不安・焦燥感、易怒性
□ 水の異常
・水毒:めまい、頭痛、動悸、不安感
実際には以下のような方剤が用いられます。
なかでも柴胡剤は不安や意欲障害など広範囲に用いられます。柴胡剤には気うつ、瘀血、水毒を改善する生薬が組み合わされており、それぞれの病態に応じて処方を選択します。
・柴胡剤:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
・気剤:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)、平胃散(79)、四君子湯(75)、桂枝湯(45)
・駆瘀血剤:桃核承気湯(61)、桂枝茯苓丸(25)
・補血剤:人参養栄湯(108)、四物湯(71)
・利水剤:苓桂朮甘湯(39)、五苓散(17)
■ 不眠症
不眠症には薬物依存が少ない漢方薬の有用性は評価されています。不眠の種類と漢方薬の適応については以下の通り;
・精神病性不眠 ・・・統合失調症、躁病、うつ病 → △
・神経症性不眠 ・・・ 不安障害など → ○
・神経質性不眠 ・・・ 神経質 → ◎
・身体因性不眠 ・・・ 体の痛みやかゆみなど → △
・本態性不眠 ・・・ 原因不明 → ○
逆に、漢方医学的分類から見た不眠と適応処方は以下の通り;
・心熱(興奮) ・・・ 入眠障害など → 黄連解毒湯(15)、黄連湯(120)、半夏瀉心湯(14)、大柴胡湯(8)、四逆散(35)、抑肝散(54)
・胆虚(不安) ・・・ 中途覚醒、熟眠障害 → 竹筎温胆湯(91)、帰脾湯(65)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
・虚労(心身の過労) ・・・ 入眠障害、中途覚醒 → 酸棗仁湯(103)
■ うつ病
うつ病では、現代医学治療からの脱落例、遷延例に適応があり、その症状から「抑うつ気分」「不安・焦燥感」「意欲障害」のいずれかが主体となっているかを考えて処方を選択します。
うつ病以外の気分障害(躁病、双極II型障害、ラピッドサイクラーなど)は漢方治療が困難です。
・抑うつ気分(気うつ)・・・ 不安・焦燥感や意欲障害が目立たない → 初期は半夏厚朴湯(16)、遷延例は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)や柴胡桂枝乾姜湯(11)、虚証/高齢者には香蘇散(70)
・不安・焦燥感(煩躁)・・・ 全般性不安障害、気分変調症と鑑別が必要 → 陽証には黄連解毒湯(15)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、大柴胡湯(8)、大承気湯(133)。陰証でも熱がある「真寒仮熱」の場合は柴胡桂枝乾姜湯(11)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・意欲障害(気虚・血虚)・・・ 慢性化した統合失調症、気分変調症と鑑別が必要 → 気虚には補気剤(四君子湯、補中益気湯、帰脾湯)、血虚には補血剤(四物湯、七物降下湯)、気血両虚には気血両補剤(十全大補湯、人参養栄湯)
■ 不安
不安とは「対象が特定できない漠然とした恐れ」と定義されます。
不安障害にはパニック障害、広場恐怖、全般性不安障害、社会恐怖(社会不安障害)、特定の恐怖症、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)を含む概念です。
漢方治療の適応は、抗うつ薬や抗不安薬が副作用のために使用できない場合や、それらの服用に抵抗感がある場合と記されています。つまり、補助薬・第二選択薬という位置づけですね。
不安に伴う症状は以下の通り;
・自律神経症状:動悸、発汗、震え、口渇、赤面など
・胸腹部症状:呼吸困難感/窒息感、胸腹部の痛みや不快感、排便や排尿の切迫感、吐き気や嘔吐の恐れなど
・精神症状:めまい感、気が遠くなる感じ、離人体験、気が狂いそうになる恐怖、死ぬのではないかという恐怖など
・全身症状:悪寒、熱感、しびれなど
治療として、西洋医学ではSSRIなどの抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などを用います。
漢方医学では、これらの症状を気うつ、気虚、血虚、水毒などに分類して対応します。長期に経過した例は瘀血と捉え、また、不安障害の患者さんは虚証が多い傾向があります。適用される方剤は、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、半夏厚朴湯(16)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)、加味帰脾湯(137)など。症状別に対応が必要な場合は以下の通り;
・動悸:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、炙甘草湯(64)など
・発汗:桂枝加竜骨牡蛎湯(26)などの桂枝湯類、柴胡剤
・吐き気:小半夏加茯苓湯(21)、乾姜人参半夏丸など
・呼吸困難/窒息感:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
・めまい感:苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)
・胸腹部の緊張:桂枝加芍薬湯、平胃散(79)など
不安障害の分類に基づくと以下の通り;
・パニック障害:不安発作時やあるいは予期不安がある場合には甘麦大棗湯(72)や半夏厚朴湯(16)を用いる。発作が始まってしまうと服薬困難になるので、少しでも怪しいと思ったら服用するよう指導。
・全般性不安障害:漢方では治療困難
・社会恐怖(社会不安障害):気の上衡、血熱の上衡と解釈でき、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)や黄連解毒湯(15)などが有効。
・強迫性障害:漢方では治療困難。SSRIの副作用である消化器症状を軽減する手段として半夏瀉心湯(14)や五苓散(17)などを用いることがある。
・PTSD:治療困難。
著者は杵渕彰先生(青山杵渕クリニック)。
精神科疾患への漢方薬の適応を今一度確認する目的で一読しました。
ポイントは、
・向精神薬や抗不安薬などの服用が困難な場合などに漢方治療を試みる意義がある。
・精神科領域では、向精神薬、抗うつ薬、抗不安薬の副作用を軽減する意味で、漢方薬を用いるのが現実的である。
とし、第一選択薬にはなり得ず、西洋薬の補助薬と位置づけています。
具体的な適応は以下の通り;
□ 統合失調症:基本的に不適応
□ 気分障害:双極性障害は基本的に不適応、軽症のうつ病は場合により有効
□ 不安障害:パニック障害の軽症例は適応になる
□ 身体表現性障害:現代医学でも漢方医学でも治療困難
□ 不眠症:適応になる
統合失調症や双極性障害は適応にならないと明確に記しています。
ただ、慢性期の統合失調症や遷延化したうつ病で意欲障害だけが残っている場合には、現代医薬ではなかなか効果が現れず、それまでの症状が増悪していることがあり、この場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、補中益気湯(41)、加味帰脾湯(137)などが有効なことがあると記されています。
漢方医学では、精神疾患の病態を漢方のものさしである「気血水」で捉えます。
□ 気の異常
・気うつ:呼吸困難感、抑うつ気分、咽喉頭異物感
・気の上衡:頭痛、めまい、のぼせ感
・気虚:意欲障害、食欲不振
□ 血の異常
・瘀血:頭痛、うつ状態、健忘
・血虚:健忘、不安感
・血熱:不安・焦燥感、易怒性
□ 水の異常
・水毒:めまい、頭痛、動悸、不安感
実際には以下のような方剤が用いられます。
なかでも柴胡剤は不安や意欲障害など広範囲に用いられます。柴胡剤には気うつ、瘀血、水毒を改善する生薬が組み合わされており、それぞれの病態に応じて処方を選択します。
・柴胡剤:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
・気剤:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)、平胃散(79)、四君子湯(75)、桂枝湯(45)
・駆瘀血剤:桃核承気湯(61)、桂枝茯苓丸(25)
・補血剤:人参養栄湯(108)、四物湯(71)
・利水剤:苓桂朮甘湯(39)、五苓散(17)
■ 不眠症
不眠症には薬物依存が少ない漢方薬の有用性は評価されています。不眠の種類と漢方薬の適応については以下の通り;
・精神病性不眠 ・・・統合失調症、躁病、うつ病 → △
・神経症性不眠 ・・・ 不安障害など → ○
・神経質性不眠 ・・・ 神経質 → ◎
・身体因性不眠 ・・・ 体の痛みやかゆみなど → △
・本態性不眠 ・・・ 原因不明 → ○
逆に、漢方医学的分類から見た不眠と適応処方は以下の通り;
・心熱(興奮) ・・・ 入眠障害など → 黄連解毒湯(15)、黄連湯(120)、半夏瀉心湯(14)、大柴胡湯(8)、四逆散(35)、抑肝散(54)
・胆虚(不安) ・・・ 中途覚醒、熟眠障害 → 竹筎温胆湯(91)、帰脾湯(65)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
・虚労(心身の過労) ・・・ 入眠障害、中途覚醒 → 酸棗仁湯(103)
■ うつ病
うつ病では、現代医学治療からの脱落例、遷延例に適応があり、その症状から「抑うつ気分」「不安・焦燥感」「意欲障害」のいずれかが主体となっているかを考えて処方を選択します。
うつ病以外の気分障害(躁病、双極II型障害、ラピッドサイクラーなど)は漢方治療が困難です。
・抑うつ気分(気うつ)・・・ 不安・焦燥感や意欲障害が目立たない → 初期は半夏厚朴湯(16)、遷延例は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)や柴胡桂枝乾姜湯(11)、虚証/高齢者には香蘇散(70)
・不安・焦燥感(煩躁)・・・ 全般性不安障害、気分変調症と鑑別が必要 → 陽証には黄連解毒湯(15)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、大柴胡湯(8)、大承気湯(133)。陰証でも熱がある「真寒仮熱」の場合は柴胡桂枝乾姜湯(11)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・意欲障害(気虚・血虚)・・・ 慢性化した統合失調症、気分変調症と鑑別が必要 → 気虚には補気剤(四君子湯、補中益気湯、帰脾湯)、血虚には補血剤(四物湯、七物降下湯)、気血両虚には気血両補剤(十全大補湯、人参養栄湯)
■ 不安
不安とは「対象が特定できない漠然とした恐れ」と定義されます。
不安障害にはパニック障害、広場恐怖、全般性不安障害、社会恐怖(社会不安障害)、特定の恐怖症、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)を含む概念です。
漢方治療の適応は、抗うつ薬や抗不安薬が副作用のために使用できない場合や、それらの服用に抵抗感がある場合と記されています。つまり、補助薬・第二選択薬という位置づけですね。
不安に伴う症状は以下の通り;
・自律神経症状:動悸、発汗、震え、口渇、赤面など
・胸腹部症状:呼吸困難感/窒息感、胸腹部の痛みや不快感、排便や排尿の切迫感、吐き気や嘔吐の恐れなど
・精神症状:めまい感、気が遠くなる感じ、離人体験、気が狂いそうになる恐怖、死ぬのではないかという恐怖など
・全身症状:悪寒、熱感、しびれなど
治療として、西洋医学ではSSRIなどの抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などを用います。
漢方医学では、これらの症状を気うつ、気虚、血虚、水毒などに分類して対応します。長期に経過した例は瘀血と捉え、また、不安障害の患者さんは虚証が多い傾向があります。適用される方剤は、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、半夏厚朴湯(16)、抑肝散(54)、加味逍遥散(24)、加味帰脾湯(137)など。症状別に対応が必要な場合は以下の通り;
・動悸:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、炙甘草湯(64)など
・発汗:桂枝加竜骨牡蛎湯(26)などの桂枝湯類、柴胡剤
・吐き気:小半夏加茯苓湯(21)、乾姜人参半夏丸など
・呼吸困難/窒息感:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
・めまい感:苓桂朮甘湯(39)、半夏白朮天麻湯(37)
・胸腹部の緊張:桂枝加芍薬湯、平胃散(79)など
不安障害の分類に基づくと以下の通り;
・パニック障害:不安発作時やあるいは予期不安がある場合には甘麦大棗湯(72)や半夏厚朴湯(16)を用いる。発作が始まってしまうと服薬困難になるので、少しでも怪しいと思ったら服用するよう指導。
・全般性不安障害:漢方では治療困難
・社会恐怖(社会不安障害):気の上衡、血熱の上衡と解釈でき、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)や黄連解毒湯(15)などが有効。
・強迫性障害:漢方では治療困難。SSRIの副作用である消化器症状を軽減する手段として半夏瀉心湯(14)や五苓散(17)などを用いることがある。
・PTSD:治療困難。